郵政民営化は政局になってもおかしくない
郵政民営化は小泉純一郎首相の方針
物事は何時でもそうなのだが、トップが出すのが方針、この方針実現のために計画を練るのが戦略、その戦略を受けて個別対応で方針実現に向けて動くのが戦術。それぞれの場面で最も重要視しなければならない事柄が違う。
方針を語るべき人が個別対応の戦術をあれこれしていたり、戦略を考えるべき人が大上段に方針を語ったりすると何か組織全体がギクシャクして物事は成就しなくなる。今回の郵政民営化は方針を出すのは小泉純一郎首相、その方針に反対なら自民党を出ていくしか無い。実は、多くの反旗を翻した自民党議員は方針には賛成、戦略、戦術に反対ってことなのだろうが、双方政治家であるにも係わらず説明責任を果たすべき説明能力が無く、マスコミの作文が自分に有利だと尻馬に乗るって情けなさで、自分が何を考えているのかすら説明出来てない。
例えば方針は「世界のHONDAになろう」ってレベルのもので、誰も反対出来ない。と言うか、賛否のあるような話ではない。方針、方向性って程度。だから、郵政民営化って方向に賛成も反対も無いってのが実状だろう。サンデーモーニングで田原総一郎氏が「選挙の時は小泉人気にあやかって当選し、当選したら反対票投じるなんてとんでもない」と叫んでいたが、ま、田原流レトリックと思うが番組受けしても視聴者はまた相手を激怒される手かよぉと冷めてしまう。
マスコミも、特に驚くことに産経新聞が郵政民営化に関する小泉純一郎首相の行動力を評価している。ただ、ここもボタンの掛け違いなのだが、方針にのみ着目すれば賛成の論文は山ほど書けるのだ。いや、旗幟鮮明ならどちらの立場で書いても方針に対する肯定も否定もそれらしく書き上がるのだ。
もんだいは、マスコミとは違い、政治家は国民の預託を背負っているのだから、方針の是非なんて部分で国会論議を行うのではなく、個々の戦略に対して討議を行うべきだろう。「いなかのおじいちゃん、おばあちゃんが利用する金融機関」なんて台詞を国会で国の方向を議論する場で、何故出してくるんだ。自覚が足りないぞ。
戦略的間違いが潜んでいる
郵政事業の3本柱の中で郵便事業はまったくこれから先見通しがたたない長期低落傾向にある。宅配便がシェアを伸ばす中で郵政は指をくわえて見ていたのでは無い。都市部中心に始まった宅配便が都市部の高効率に支えられて地方にも別立て料金で利用者の利便性を広げていったのに比べて郵政では国の機関でもあり全国一律ユニバーサルサービスを義務付けられて離島料金なんてのが出来なかったのが大きい。もちろん、ユニバーサルサービスで縛ったのは、今回、郵政民営化に反対している他ならぬ鵜郵政族国会議員自身だったのだ。
郵便事業は今後、国の事業として民営化せず、人員の削減、最低限のサービスとして残す方法がある。親書の配達に限った市町村業務に移管しても良い。どちらにしても国民の親書を配達証明等責任をもって運ぶのは公務員の仕事として位置付けられるのだから。
つぎが、簡易保険に代表される保険事業。これも、貯蓄と連動してる面を除けば、民間の特に外資系の民間事業者に移管すべきだろう。1ドル360円でとても外資が入り込めない時代では無く、変動相場制から外資も十分日本人を対象に保険事業を行って対応できる時代なのだから。これも、縦割りの仕組みを取り払って健康保険と同様に市町村の健保組合に移管しても良い。なにも、全国一律の保険会社を国で運営する必要は無い。
で、3番目の財政投融資。これに光を当てることなく民営化されるのが不思議でならない。何の根拠も示さず国会で「外資への日本売りだ」などと叫ぶ国会議員もやれやれな奴だが、数字をもとに具体的に日本売りにならない戦略はまったく見えてこない。しいていえば、「それは、民営化された郵政の経営者の考えること」って、まるで戦略放棄の方便しか政府は出来てない。
3事業一体民営化では将来に不安を先延ばししてるだけだ。郵便事業は縮小、保険事業は移管、財政投融資は郵貯局を作って財政の透明化、公開制を高める。そして、特殊法人の無駄使いを出所の元栓から絞っていく。これが「小さな政府」を目指す郵政民営化の戦略なのだ。公務員の身分剥奪で総数を減らし「小さな政府」って方針を実現する戦略は無いだろう。名目だけの「小さな政府」でしか無い。
小さな政府はいかなる政府か
マスコミを賑わしている知識人だか野次馬だか解らない解説者の中に「小さな政府は時代の趨勢だ」なんてしたり顔で話すやれやれな奴が居る。これも、先に述べた「方針にはだれも異論を挟めない」に近い話で、小さな政府はあたりまえのことだ。このままで行ったら国民全員が公務員になるまで公務員や特殊法人職員は増え続けるのだから。
で、その「小さな政府」をかけ声だけでなく、具体的なイメージを持っているのか? たんに公務員が少なくなれば小さな政府なのか。
実は小泉純一郎首相のキャッチコピー(あれば、単なるキャッチコピーで政策でも何でも無い)「民間に出来ることは民間に、地方で出来ることは地方に」(ま、これも日本語として不完全で、一国の総理大臣なのだから「民間ですべき事は民間で、地方ですべきことは地方で」と行って欲しいのだ)のもういっぽうの地方で出来ることは地方に。つまり、国民により近い所で地方の特性を加味した施策を地方で行う方向に持っていく。
とすれば、中央には何が残るのか。これはずばり「外交」と「軍事」だ。
だが、今の日本の憲法も含めた国家体制の中で「外交」と「軍事」はどちらも日本の対外的ウイークポイントだろう。外交不得意、軍事コンセンサス未成熟で、いったいどんな「小さな政府」を作るビジョンがあるのか。
そこまで考えて、はじめて知識人を標榜するなら「小さな政府」って言葉を使ってもらいたい。国会議員も同じだ、自分がイメージ形成してないのに言葉先行で議論しても空転するばかりだ。いったい「小さい政府」のイメージは何処にあるのか、イメージが出来ていれば、何を民間や地方に切り離すのか明確になるはずだ。まだ、その議論が出来ていない。
参議院否決で衆議院解散か
小泉純一郎首相は田中真紀子氏から「変人」と呼ばれているように変人である。旧来の自民党政権に無いキャラとの枠をはみ出してる。その最たるものが「参議院で否決なら衆議院解散」だ。何処の世界に2院制を真っ向から、それも総理大臣って行政の長が否定する発言を出来るのか。また、この発言を2院制の尊重に反すると誰も抗議しない。正直、参議院の結果で衆議院を解散するなんてのはメチャクチャな論理なのだ。
で、実はこれは小泉純一郎首相の深慮遠謀が潜んでいると思っている。衆議院を通過し参議院に舞台を移す。もし参議院で否決なら再度衆議院で議決だが、この時には出席者の2/3の賛成が必要。再度の衆議院での可決は数の面で難しい。また、唯一会期中に可決しないで継続審議になる場面があるが、これはイギリスでのサミット中の記者会見で「継続審議にはしない」と、先の「否決は内閣不信任だから衆議院を解散する」と両方を語っている。
つまり、今国会で雌雄を決する。どちらの結果が出ても、その先のシナリオは出来てるってことだろう。
何度か放映されたが、5票差で衆議院で可決された瞬間の小泉純一郎首相の驚きを含んだ笑いは意味深だ。否決なら衆議院解散と腹をくくっていたのだろう。その時に、極論すれば野党と組んででも郵政民営化のみではなく、長期政権への道筋ができる。今のまま後任も中二階で足踏み、若い世代は役不足の状況で、なにも任期満了にて退くって手は無いだろう。それよりも、公約は公約。自民党総裁は降りるが、国会で首班指名されれば総理大臣は続ける。そんなシナリオに見えるのだが。
だから、逆に参議院で否決なら衆議院解散、も現実味を帯びてくるのだ。今の政治家は当選し続けることが目的で、そのためなら誰に尻尾を振っても付いていくって輩ばっかりだ。そんな周りの雲行きを読んで、郵政民営化か衆議院解散か。
実は、小泉純一郎首相は、この両方を自分の手のひらにしてるのだ。