郵政民営化、各人各様の決断

最悪のシナリオは誰にとって最悪か
 郵政民営化の必要性がいまいち国民に伝わってこないのは、先例としての国鉄民営化、日本電信電話公社民営化、道路公団民営化と民営化によるメリットが国民に見えるように明確な形で示されていない責任が政府にあるのだろう。
 考えてみると、先の3大民営化にはそれぞれの「民営化必須の様相」があった。
 まず国鉄民営化から考えてみよう。これは、政治結社化した動労、国労と多額の税金を投入しても収支改善の見込みがない状態に官僚が中曽根康弘当時の総理大臣をして国鉄を潰したって民営化だろう。国鉄精算事業団を作り、それまでの借金は塩漬けにし、旧国鉄の土地を販売して借金を返すなんてシナリオはもろくも崩れ、土地の販売は膨大な借金の利子補充にすら達せず、結局、時間をかけて国民の税金や民間に血を流させて国鉄を潰したのだ。ラッキーだったことは当時の社会党が支持基盤を失い政界が中道中心に変化し、細川内閣、村山内閣と政界に新陳代謝が生まれたことだが、それは10年もすると終焉を迎えてしまった。
 日本電信電話公社の民営化は国鉄と事情が異なっている。当時の三公社五現業の中で最も将来性があるのが通信事業だった。アナログからデジタルへの変遷のなかで通信事業が電信電話公社の独占でアメリカから使えもしない巨大交換機を政府主導で買わされたりして政治に利用されることを嫌った内部から起きた民営化だった。このままでは公務員なみの給与のママだ、って危機感が一部のエリートにあって、これもまた中曽根当時の総理大臣に直訴したのかトリガーになった。
 道路公団民営化は、現在進行中だが先の2民営化と更に違う側面がある。先の2民営化は曲がりなりにも営業して稼いでいく事業が土台にあった。効率を上げれば収益も向上することは明確だった。マーケットとの結びつきが強い事業体で競争原理が強く働く事業であった。そこには非常に結びつきの強い「マーケットの選択」が付いて回る。しかし、道路公団民営化だけは少し違う。単純に言えば既得権の民営化でしか無い。つまり、国に面倒をみてもらってた事業をマーケットから収益をあげる構造に変えるのだから事業形態の変換であって、単なる民営化の言葉だけで民営化出来ないのは今までのゴタゴタに象徴されている。極端な言い方をすれば民営化の瞬間から「明日からなにをやって良いのか解らない」状態になる。そこを解ってシナリオを書かなければいけないのだが、無責任にマスコミ受けだけを狙ってるのがいかにも小泉純一郎首相の作ったシナリオって感じがする。道路公団は高速道路利用料で自立する事業と言い切れない過去のしがらみを絶つ方策が見えないからだ。

第四の民営化、郵政事業
 これは、国民に見えるのは郵便事業。これは先の日本電信電話公社の民営化と同じで事業の縮小はあるかもしれないが継続される事業。他に簡易保険事業と郵便貯金事業があるが、特に郵便貯金事業は、昔から国民に見えない。預金者から集めた金を国の機関に高利で貸して利益を得ている風だが、実際はゼロ金利の時代にどうなんなろ。
どうも、このあたりの情報開示が全然なされてないので、もしかして、郵便事業は不良債権による債務超過で既に破綻しているのを隠して民営化かなと疑ってしまう。
 郵便事業は既に独占の状態には無く、宅配便に代表される民間事業者が十分入り込んでいる事業。クロネコメールなんかもあり郵便事業そのものは民営化するってことは消滅させるってことに繋がるだろう。民間移管に近いと考えて良いだろう。
 問題は郵便貯金なのだ。この部分に踏み込まないで「地方のおばあちゃんが利用できなくなる」なんて話を前面に出して民営化反対を叫ぶのはお門違いだろう。
 国の見えない借金が財政投融資に隠れていると思わせる洗脳が盛んに行われているが、郵政公社化後の変化を勉強せず1995年当時の財政投融資のまま続いているとの勘違いもしくは不勉強じゃないだろうか。2007年までに塩漬けにされた(これも、当時の大蔵相が借り換えを認めないって変な横やりのせいだが)資金が漸次郵政事業に帰ってくることになっている。
 「郵便局の財政投融資が外郭団体の無駄な垂れ流しを助長し、財政破綻を招いている」って論調はテレビ受けするかもしれないが、まったく見当違いなのだ。そもそも郵政民営化したら財政赤字が解消するものでも無いだろう。本末転倒、火事の原因は酸素だから、地球上から酸素を無くせって言っているようなもの。
 で、郵政民営化と先の3大民営化とを比べて一番問いたい事は「郵政民営化に大義はあるのか」
ここがまったく聞こえてこない。なにがなんでも郵政民営化としか聞こえてこない。とどのつまり、その場合、誰かが何処かで得をするシナリオが隠れているのだろう。それは、とりも直さず、郵政民営化法に欠陥があるってことで、誰も事前には話さない。

解散総選挙で郵政民営化はとん挫する
 参議院で郵政民営化が否決される。再度衆議院で2/3による再可決は無い。参議院での「修正可決」のほうがまだ現実味はある。ここで今回の郵政民営化法案の戦いは「しゅぅりょーーーぉ」。
がしかし、小泉純一郎首相は衆議院を解散して「国民に真を問う」そうだが、無理矢理駆け足で国会を通してきた法案なので、時間がたてば真実が明るみに出てくる。先の財政投融資問題もそうだし、競争社会論議も既に十分競争になっている。簡易保険の宿の赤字も公社になって民間企業会計で減価償却をした故の赤字も含まれている。そもそも、負担者は加入者なのに、その加入者を無視して赤字だから売り払えってのは乱暴で、この利権にクビを突っ込むハイエナがいかに多いかってことだ。
加入者の論理は「いかに黒字を出してサービスを継続するか」の一点に絞られるはずだ。加入者無視の売却騒動は何処か当事者は誰かって観点を無視した強引なハイエナ行動だ。
 役所的な営業で赤字でも民間的営業で黒字を出すのは過去に外国資本が日本の金融機関を買いあさって再上場して実証してきたこと。本来勤勉であった日本人が「役所ボケ」で赤字を出しているだけなので施設を格安で譲渡されれば十分採算がとれる。逆に、これを切り捨てて保険加入者の金を踏みつけ、二束三文で施設を売り飛ばすのが健全な経営判断なのかとあきれてしまう。
 で、民主党が何処に思惑があるか知らないが、郵政民営化反対(あまりにも民主党自体が不勉強で国民をリードできてないが)の状態と自民党内部に反対派議員が多い原状では衆議院を解散して総選挙に挑んでも郵政民営化反対の人間が多数を占める。郵政民営化は郵政の公社化から10年くらい経ってから考えれば良いマターなのだ。それが国民に伝われば、今は、郵政民営化は出来ないことになる。
 何を考えての解散総選挙論議か知らないが、論理的に考えれば「自民党をブッツブス」意外の何も無い。それでもやるなら小泉純一郎は変人を越えて自民党に対するテロリストってことだろう。

小沢一郎氏の「とりあえず反対なんだ」
 この問題に対して初期の頃、民主党内部では特に岡田代表は郵政民営化賛成論であった。いまでも郵政民営化反対を声だかに叫ばない。しかし、当初から小沢一郎氏は郵政民営化反対路線を選んでいた。そこには郵政民営化の是非では無く、民主党が反対でなければ政権は取れないって直感に似た判断だった。
実は僕もこの判断に最初はクビを傾げたのだが、メルマガとかを良く読むと自民党内部にも反対派が居る政治問題で民主党が賛成に回ったら政局にはならない。自民党の一部と結託して新政党を作るくらいの気概ではじめて民主党政権が実現するのだって読みである。郵政民営化なんてトリガーに過ぎない、大局は新政党であり政権奪取のみに向けた判断なのだ。
 で、小沢一郎氏の判断は結構外れるが(笑い)、一貫した方針はまさに数週間先に迫った政局にキャスティングボードを握ることになる。
 「民主党は郵政民営化に反対でなければならない」この政治判断は花を咲かせるのか、わずか2週間先に日本の政治の大転換があるのかもしれない。
 ちなみに、さらに予測をすると延長国会終幕(8/13)のあとに、小泉純一郎靖国神社参拝(8/15)があるかもしれない。もちろん、その時には衆議院解散(8/13)を経てって感じだ。
 それぞれの判断がどのような行動と結果を生むか興味深い所だが、何故そのように判断したかを「合理的で民主的で経済的」な説明責任を果たして貰いたいと思う。歴史のターニングポイントは残念ながら後になってしか解らない。郵政民営化法案ってトリガーが何処のターニングポイントになるのか(もしくは、まったく何も起きないのか)、ここ2週間で方向は決まる。

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2005.07.25 Mint