政策としての「再チャレンジ」の不可解

「再チャレンジ」が政策になるのか
 自民党総裁選挙は安倍晋三氏で決まりの様相を呈してる。もちろん今の議院内閣制では自民党総裁が間違いなく内閣総理大臣になる。
その安倍晋三氏の政策の中に「再チャレンジ推進会議」の政策提言がある。現在、中間報告段階だが、その内容は下記のホームページで閲覧できる。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/saityarenzi/index.html
その中に「再チャレンジ推進会議」の目的に「フリーターだけど正社員になりたい」とか「パートだが正社員と同じ処遇で働きたい」とか「健康を害したがまた働きたい」とか「事業に失敗したが再起したい」なんてキーワードが振りまかれている。
正直言って、新たな法整備では無く、既存の法律の柔軟な対応で実現可能な国民ニーズをあえて、目先を変えて、政策のように見せている粉飾政策にしか見えない。
 この粉飾政策を掲げる安倍晋三氏に自民党は雪崩現象を起こしているのだから不思議でならない。
 そもそも、「最初のチャレンジ」と「再チャレンジ」で再チャレンジが優遇される法律も可笑しな話で、双方同等でなければ憲法の「法の下の平等」にすら反する。ましてや、フリーターから正社員へとかパートの待遇改善なんてのは法律の用法の問題で立法の問題では無い。
日本が真の三権分立に至ってない大きな敗因は、このように国会内で行政府の施策を形作ることだろう。そもそも、国会議員が行政府の構成員である現在の議院内閣制では立法府と行政府の境目が無く、真の立法府が生まれない弊害を今回の安倍晋三氏の「再チャレンジ」に見ることができる。

官僚のアイデア依存の政策
 行政府のトップが官僚に政策を作らせて法律に反映させる。なんとも官僚主導の国会運営が続いているが、今回の内閣府の主催する「再チャレンジ推進会議」の提言を受けての具体的措置として各省庁で予算立案を行っている。その内容は総額130億円にのぼり、どうも思いつき施策なので「再チャレンジ」への実効は薄く、大半が無駄遣いに終わる公算が高い。
厚生労働省は25億円の予算要求で25歳以上のフリータの97万人を対象にセミナーや交流会、ワークグループの開催。1億円を投じて年間2000人の再就職の促進。
文部科学省は8億円を使って女性やニートへの職業教育を民間専修学校に業務委託。
農林水産省は93億円を投じて若者や団塊の世代の農業、林業、水産業への就労を全面支援する。
環境省は2億円を投じてツアーガイド育成を行う。
見てのとおり、これは「再チャレンジ」に名を借りた雇用対策。しかも、雇用対策色が付くと厚生労働省の所轄になるので「再チャレンジ」の冠を付けて自らの省庁の権益拡大を計るまったく官僚による官僚のための国民の税金の無駄使い。
それが政策としての「再チャレンジ」の実態だ。

失敗に学ばない官僚に依存する政治
 厚生労働省が文部科学省の縄張りに手を伸ばして1998年頃に資格講座受講の費用を一部補助する制度を始めたことがある。「10万円でノートパソコンとプリンターが入手可能」なんて広告を目にした人も多いだろう。私の回りでもこの制度でパソコンを買った人間が居る(笑い)。
 受講するだけで手当てが貰えるなんて制度もあって、講座では時間つぶしに後ろの席で本を読んでいる人間が山ほど出た。私語もすごくてまったく実効の無い制度だった。
 就労の「ミスマッチ」って言葉を役所は良く口にするが、実効あるミスマッチ対策とは何かを考えられてない。実は民間の知恵では一発回答なのだ。それは、就労に対する意欲、就労後OJTを通して能力開発できる意欲なのだ。決して資格では無い。
現在の教育制度の欠陥は、まさに、意欲を育むことが出来ていない成績採点教育にある。人間を育てるのでは無く、ペーパーテスト至上主義だ。だから、企業は「とりあえず」有名校から採用する。「とりあえず」受験には一生懸命だった経験を持っているから。その中で大学時代にいかに能力を伸ばしたか、能力を伸ばす可能性があるか、を採用試験で推し量って採用する。ここには「ミスマッチ」なんてものは無い。
役所で分かることは「雇用側と就労側で給与面で合わない」ってミスマッチくらいしか認識していないのではないだろうか。これではミスマッチの実態に迫れない。

日本の国際競争力低下は教育の責任
 「エコノミックアニマル」としての産業界の戦後復興は進んだが、人間形成として明治の時代に比べて日本人国際感覚を主とする人間の素養は大きく後退したのではないだろうか。
 安倍晋三氏は文学的に「美しい国、日本」などと言っているが、何を美しいと定義するのか、また、美しくないものは何なのか、それを具体的に見える形にしてはいない。単なる小泉純一郎首相のキャッチコピー方式の世襲でしか無い。これは、政治家に必要な説明責任を果たしていない方式とは前に書いた。
 「美しい国、日本」作りには教育が欠かせない。学業教育ももちろんだが生涯教育、家庭内教育、そのあたりの整備も必要になる。美しく生きる人間を搬出しなければ「美しい国、日本」なんか作れないのは自明だ。昨今の青少年犯罪を見るに付け、日本の病巣(美しくない事象)は広範囲に及んでいる。で、突き詰めると「人づくり」に帰着する。
国家100年の大計を考える姿勢が無ければ「美しい国、日本」なんか実現しないし、はなから安倍晋三氏は「美しい国、日本」を作る能力が無いと断定せざるを得ない。

button 「国家の品格」と教養、藤原正彦氏の思考方法
button 亡国の偏差値教育

Back
2006.09.06 Mint