「いちご同盟」の原作を読んでしまった

三田誠広氏の原作を手に入れた
 ひさしぶりにbook/offに本を探しに行った。最近はチョモランマ(エベレスト)関係の登山の本を読み返してたのだが、新しい本が欲しくなった。
 欲しいのは電子立国日本の自叙伝の未入手分なので、規模が大きいbook/offの新屯田店に行くことにする。残念ながら「電子立国」は無かったが「いちご同盟」が一冊棚に並んでいた。前にETVの話として書いたが古い言い方で「NHK教育テレビ」で放映された「いちご同盟」は絶賛している。本当、これを見た時に感じたのはETVの存在感のアピールだったのだ。今優勝目前(9/12)の阪神タイガースの副監督の田淵氏までが出ているのだ。遊園地で焼き鳥焼いているオヤジ役で5秒程だが。
 僕は性格的にと言うか年齢のせいなのか涙もろくなっているのでこの本を通勤途中で読むのは辞めようと思っていた。でも時間が無いので途中までは通勤の途中に読み進めた。
 正直言って原作とテレビドラマのギャップに驚いた。これは何時でもあるのだけれど原作を越えた映像(ドラマ)はまれである。それは「故郷に山ありき」って原作の一行を映像にしなければならないテレビや映画の宿命なのだ。だから、原作はデフォルメされて映像は個々の読者のイマジネーションを多数決で絞り込んでしまう。
それは舞台俳優は原作を様々に解釈して繰り返し舞台を演じるが、テレビは一度キリの放映の場合が多い。誰かが映像化した作品はそれ以降映像化されることは少ない。NHKの大河ドラマも同じ主人公をいくたびも扱っているが役者も脚本家もリニューアルしている。テレビってのは「物を売る媒体」と僕が思うのは、まさにドラマに関しての姿勢が視聴率狙いだからだ。ただ、ETVはこの範疇では無い。
 三田誠広原作、河出書房新社発行、「いちご同盟」の原作は行間を読まなければならない難解な作品だった。中学生の読ませて感想を述べさせるのはちと酷だと思う作品である。


原作からここまで読めるのだろうか
 正直原作と比べるとテレビドラマの出来は「ディレクターの拡大解釈し過ぎ」なのだと思った。この原作にあのドラマの雰囲気は無い。青春期に感じる「生と死の葛藤」てのが原作の命題なのだ。
でテレビドラマでは死を隠している。隠しているってのは的確な表現では無いかもしれない、原作はスタートがマンションの13階から飛び降りて自殺した小学生の気持ちに発する。やがて直美との出会いと生と死の葛藤。これこそが青春なのだろう。
 ほとんどの人は自殺を青春期に考えると思う。この原作では1行しか無いが直美が主人公の北沢良一「ねぇ、私と心中しない」って一言がテレビドラマでは中心に据えられている。小学生の自殺を追って「どうせ何時か死ぬんだ。バカヤロー」って気持ちを妙に受け入れた主人公が不治の病と戦う直美に「心中しない」と言われて生きていながら死を考える自分と、死が間近かもしれないと不安な直美との違いに気がつくのだ。
 テレビドラマでは直美がパジャマの胸をはだけて「私を見て、忘れないで」ってシーンが有る。原作では良一と出会った時に既に直美には片足が無かった。次の手術では胸にもメスが入る。そんな自分のメスが入る前を見てもらいたくてあんな行動に出たのだが、これはテレビドラマでは唐突に現われる。
 テレビドラマでは手術の前に病院を抜け出して遊園地に行くのだが、このシーンは原作には無い。原作に忠実なら田淵副監督の出番も無かったわけだ。これは生と死を対比させるために効果的に使われていた。
 実は僕が泣いたシーンなのだがピアノの先生をしている星野知子演ずる母親にピアノのレッスンに行かないで何処に行くのって言われて「友達の誕生日にピアノ弾く約束したんだ」。「そんなことで」に対して「友達入院してるんだ」。そして奥から父親役の布施明が現われて「行ってこい」ってうなずく。このシーンはドラマで盛り上がる。しかも星野知子が病院での演奏を見に来る。息子のピアノ演奏は自分が教本に忠実な演奏では無く、語りかける我流の芸術なのだと気がつくシーンだが、これも原作を読まないと解らない映像だった。
 布施明って「ラジオの時代」にも出ていたが、オヒョイ(藤村俊一)が花火の擬音のために「50円ありませんかね」(この穴を利用してヒューーーって音を出す)ってシーンで1000円札を出して「お釣は要りませんから」なんて役もやっていた、妙にシリアスな風貌から一転外した対応のキャラなのだ。ただ、たぶん、このテレビドラマ「いちご同盟」の父親役は最高のハマリ役だと思う。これは原作がフォローしている。


実は主人公の「上原直美」を嫌いになったのだ
 ま、どうでも良いことなのだが、原作で描かれてる上原直美を僕は好きになれない。テレビドラマの上原直美には好感を持つ。テレビドラマではストレートな性格が周囲をドギマギさせる才女って感じだったのだが原作を読むと粘着質に描かれている。最後に亡くなるのだが(って、小説の中の話だからね)、そこはもう一人の主人公である良一の目で描かれている。テレビドラマはもう少し直美の視点があった。
 「私と心中しない」って言える女性を崇拝する変なトラウマでも僕に有るのだろうか。あのセリフでこのドラマが記憶に残るのだ。
 ただ、原作の最後の記述にはさわやかな感じがした。テレビドラマでは「僕も少し変わった、女の子と話すときにドギマギしなくなった」みたいだが、原作では「生きろよ」ってセリフで終わっている。それは13歳の自殺に固執していた良一へのメッセージであると共に「私を忘れないで」って亡くなった(ってドラマの中の話だが)上原直美への鎮魂歌でもあるのだ。
 原作を読んで思ったのはやはり我々はどうしようも無い受験戦争ってトラウマが有るってことかな。原作では高校受験を背景にしているが、僕は僕の小説と大差無いと思う。それはテレビドラマを否定しているのでは無く。皆、その年齢を一生懸命に生きてきたってこと。
 やっぱ「いちご同盟」は国民全員に見てもらいたいなぁ。

button いちご同盟 ETV40周年ドラマ(1999.02.14)

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2003.09.12 Mint