北のミサイルは貿易品なのか

正確に把握してこそ推測可能
 今回の北朝鮮の日本海着弾のミサイル「実験」は10年ぶりである。あえて「日本海着弾の実験」と表記するのは、それ以外に他の国にミサイル実験を委託もしくは実施してるからだ。北朝鮮の保有するミサイルは以下の種類が確認されている。
名 称射程弾頭(t)
スカッド改B(火星5号) 330km1.0
スカッド改C(火星6号) 500km0.7
ノドン 1,350km1.2
1,500km0.7
テポドン1 2,200km1.5
  2,500km1.0
テポドン2 4,000km1.0
R-27 2,400km0.65
 このミサイルの中で、ノドンはパキスタンに輸出され試射もされてる。パキスタンではミサイルの名前はガウリ。同じくイランではミサイルの名前はシャバブ3の名称で試射されている。どちらも、OEM製品で原型はノドンである。
加えて、スカッド型は400機とも500機とも言われるミサイル数が中東に輸出されている。だが、このようなミサイルの拡散を防止しようと1999年を最後に北朝鮮からの輸出(輸送)が事実上出来ない状態が続いていた。
 北朝鮮の外貨獲得方法は多種多様で、マイルドセブンから偽ドル札、覚醒剤と手広いがミサイル輸出はその中でも金額面で大きい。高付加価値商品なのだ。核を持っていても運搬方法が無ければ兵器としての価値は無く、自爆テロのような方法では外交カードとしての核の力は利用できない。そもそも、テロと外交カードの一番の違いは外交カードは「ちらつかせて使う」ものだ。テロは隠れて行う。
 北朝鮮のミサイルの技術開発のために、実験を行ってデータをとる必要があったのだろう。その意味で、そもそもテポドンへの燃料注入は外交を無視した軍部単独の行動だったのかもしれない。

危機管理的にはロシアが最も危なかった
 「やめろ、やめろ」と忠告していたロシアの極東海面に着弾したのだから一番驚いたのはロシアでは無いだろうか。ロシアとて北朝鮮からの侵略を想定外にしている訳では無い。公的には「北朝鮮からの事前通告は無かった」となっている。ならば、自国が侵略されるのに必要以上にナーバスで、実際、1983年に国境を侵略されたとして国境から離れていく大韓航空を撃墜したロシア(当時ソ連)が、ミサイル発射と同時に北朝鮮と交戦状態にならなかったのが不思議だ。
 迎撃ミサイルを持っていないとしても、警戒警報くらいは鳴り響いたはずだ。現在の弾道ミサイルの打ち合いでは、相手の着弾を待っていたのではミサイルサイトが破壊されるので着弾確実となったら報復ミサイルを撃つ。
ロシアの警戒態勢がどのようになっているのか解らないが、少なくとも自国の経済水域にミサイルを打ち込まれても報復できない警備体制であることは今回の事件で露呈してしまった。
 3発目にテポドン2を撃ったのは先に2発スカッド型を撃って万が一の迎撃ミサイルの餌食にしてとの思惑があるのだろう。で、3発目のテポドンは失敗と政府筋は発表しているが、これは国民を騙している。そもそも、「飛ばなかったから失敗」なんてのは幼稚園児でも使わない論理の破綻だ。正確にコントロールされていたからこそロシア沖に着弾したのだろう。誰が考えても打ち上げに失敗したら「自爆」させるのだから、着弾したってことは正確にコントロール(長距離を飛ばせないも含む)されていた証拠だろう。
 なんとか、北朝鮮の脅威を少ないものに見せる情報操作が行われてる。そもそも、脅しの外交カードとたかをくくってW杯のイタリアvsドイツ戦をNHK地上波で見ていた日本人に照準を合わせた、したたかな外交カードの切り方だったのだ。(僕はBSで見ていたから影響は無かったけど(笑い))。
 日本政府の対応は「ミサイル撃ったからどうしよう」って各国に電話しまくりって対応だった。その間に自衛隊に待機命令は出たのだろうか。犯罪者が武器を振り回して玄関前に居るってのに遠い親戚に電話してどうするって気がする。日本もまた危機管理の面からは「最悪のシナリオ」って観点が無かったのではないか。

無通告の公海利用は宣戦布告と同じ
 開戦に繋がってもおかしくない今回の北朝鮮のミサイル発射に日本は反応できなかった。たとえ日本と言えど外交カードの1枚に軍備ってのは持っていると思う。そのカードを使わなかった。別に、北朝鮮に攻撃を加ええろとは言わない。しかし、外国からの侵略を想定した自衛隊だろう。警戒態勢に入ったのだろうか。どうも、このあたりは軍事機密と言うより行動が無かったから情報が無いってのが正直なところではないかと思う。
 外交の手段としての自衛権の行使である自衛隊が、今回の騒動にいかに係わったかは後から情報が出てくるのかもしれないが、現時点では独立国としての脅威だって認識は政府やマスコミに無い。日本は外国から宣戦布告を受けたときにどのように対応する予定なのか、そのシナリオが無いとは寂しい限りだ。だから、拉致問題も何時までも解決しない。
 非常事態にどのように対応するか、シナリオを考えておく必要があるだろう。今回も確率は低いが日本の漁船が落下してくる弾頭に当たったかもしれないのだから。

貿易としてのミサイル輸出ビジネス
 旧ソ連の崩壊とともに弾道ミサイルの技術は北朝鮮に流れた。その大きな理由は北朝鮮が一番金を使ったから。その金は日本からの海外送金によってもたらされた。何も偽マイルドセブンを売った金で技術や機材を購入してるのでは無い。一番大きいのが日本からの海外送金だろう。アメリカは既に北朝鮮向けの送金を停止しているが日本も制裁措置を発動したが海外送金の停止は行っていない。
 考えてみると日本ってアジアのパトロンで有人衛星を打ち上げられるだけの技術力を持った中国ですら日本からのODAで日本から資金が流出している。
北朝鮮のミサイルが脅威であるのなら、その脅威は日本自らが作った脅威と言える。いまさらの海外送金凍結以前に、今まで北朝鮮がミサイル技術を習得するために使った金は日本から送られていたのだ。自分の脅威を自分で作ったことになる。
 ミサイル技術の拡散防止も大切だが北朝鮮には「じゃぁ、人工衛星を打ち上げる日本の技術と我々は何処が違うのだ」って論理があるだろう。核兵器を持つが運搬手段を持たない国にとって金を出せば入手可能な生産者、いわゆる死の商人がありがたい。国政的発言力を持つには核の外交カードが欲しい。そのために便利な国が北朝鮮だ。だから、北朝鮮は技術開発に投資(その出所は日本だが)して製品を開発する。
 今の世界の秩序は国連の常任理事国による地球統治がうまく作用している。この秩序のままで良いのか、世界の統治権を列強だけに委ねて良いのか。この問題に疑問を感じる国がミサイル購入に熱心になる。日本は逆だ。列強による統治を甘受する側だ。故に、日本は技術はあるが核拡散防止条約に加盟し核兵器を作らずミサイルの兵器化もしない。
 しかし、技術があるってことはその生産物もある訳で、日本のプルトニュウムやロケット(ミサイル)が「裏の」ミサイル輸出ビジネスから盗難にあう可能性は高い。それすら「想定外」の日本の危機管理に今一度見直しが必要だろう。特にプルトニュウムについては備蓄量が半端では無いのだから。

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2006.07.06 Mint