防衛省疑惑の核心に迫るか東京地検特捜部

またもや東京地検特捜部
 7日夜に「山田洋行」の幹部だった宮崎元伸氏が東京地検特捜部によって逮捕された。宮崎元伸氏と守屋武昌氏の両名の国会での証人喚問が8日から15日に延期決定の直後だった。
正確に言うと、7日の与野党会談で合意し、9日の理事会で正式に決定する運びなので江川卓事件のような「空白の一日」を狙ったタイミングでもあった。
 実は東京地検特捜部が今回の事件を調査開始したのは今年の2月頃から。その核心は今回の逮捕容疑である業務上横領容疑では無いはず。今回の宮崎氏の逮捕は別件逮捕に近いものだろう。とりあえず立件可能な容疑で逮捕して拘留しようって算段だ。
 実はホリエモン事件の時も裏に潜む疑惑解明に「とりあえず」と逮捕したのだが裏まで手が伸ばせなかった前科を持つ東京地検特捜部が今回も目論見があっての行動なのか疑問を持ってしまう。
 核心に迫るのなら防衛事務次官を勤めた守屋武昌氏への贈収賄の立件が必要だが、そこに迫る確信が本当にあるのだろうか。たぶん、宮崎元伸氏は容疑の業務上横領をあっさりと認め仮釈放を目指す方向で弁護士は動くと思われる。その時に宮崎元伸氏を長期拘留して贈収賄の証拠隠滅を防げるのか、そして、新たな証拠を入手出来るのか。たぶん現時点では半々の確率ではないだろうか。
 前回のホリエモン事件同様に、尻切れトンボで業務上横領だけで終焉を迎える予感がするのだが。

ロッキード事件と近い事件
 時の首相である田中角栄氏の逮捕に発展したロッキード事件であるが、1民間企業である全日空の次期航空機購入に関する政治家の関与と見られているが、実は同時期に防衛庁(当時)では次期対潜哨戒機の選定問題があった。しかも首相に就任した田中角栄氏は防衛庁で進んでいた国産化計画を白紙にして海外調達に切り替えた。
このあたりの話は別項
ロッキード事件、仕組まれたアメリカの陰謀
に書いているが、結局、防衛庁のP3−C(オライオン)調達に関わる事件としては立件されなかった。メモで書いた領収書の表題が「ピーナッツ」だったのは、トライスター関連では無くてP3−C(オライオン)関連であるとの疑惑を払拭できない。
 今回の対象物件は次期輸送機(CX)である。このエンジンを何処のメーカーにするかまではさほど問題が無かったのだが、結果としてGE(ゼネラル・エレクトリック)社製のエンジンに決まったあたりから奇妙な動きが表面化する。
 このGEの代理店が山田洋行であった。そして調達段階で山田洋行の内紛が勃発し宮崎元伸氏が「日本ミライズ」を設立する。その設立間もない会社がGEの販売代理店として山田洋行から代理店契約を移管された。しかも販売代理店契約が締結される以前の防衛省とGEの会議に「日本ミライズ」の社員が同席し防衛省内で問題になる。
「とりあえず通訳って形式をとっておけばいいんじゃないの」ってことで決着するが、同席を許されたのは誰の指示によるものだったのか。
 また、先にGEへの決定にはさほど問題が無いと書いたが、この会議の議長は守屋武昌氏だったのだ。航空機に使用するエンジンはそれぞれのメーカーの一長一短があって、引退が囁かれているBー747ジャンボジェットも全日空はGE、JALはプラット&ホイットニーと微妙にエンジン音が違う。優れたものが採用されるなら同じ機体のB−747に、しかも同じ国にも関わらず別々なエンジンが採用されている。
選定に当たって議論が出尽くした段階で議長一任な部分も無かったとは言えないだろう。また、委員を根回ししておくことも山田洋行が行ったかもしれない。
ちなみに、この商談は総額1000億円を超える規模である。

東京地検特捜部の扱いは「山田事件」
 毎日新聞によると押収した資料の区分けは「山田事件」のラベルが貼られているらしい。はたして「山田事件」の方向はどちらを向いているのだろうか。
先に書いたCXのエンジン調達に関わる贈収賄となると設立間もない「日本ミライズ」の資料は多く無いだろう。山田洋行の資料は元専務によって廃棄されている公算が高い。
 1998年当時防衛庁の防衛庁調達実施本部は出入り業者との水増し請求による背任・汚職で逮捕者が続出した。この時に東京地検特捜部は防衛行政と調達の仕組みに防衛省ならではの仕組みがあることに気がついたのだろう。その一連の流れの中でなかなか尻尾を出さなかったのだが、昨年の秋の「日本ミライズ」設立に伴う山田洋行と日本ミライズの裁判沙汰が耳に入り「山田事件」となったのだろう。
 現金が動く贈収賄では無く過剰とも思える接待で煙に巻く手法が防衛省流のようだ。この場合、特定の事案に便宜を図ってもらうのでは無く広く浅く満遍なくが業者のスタンスだろうから立件はかなり難しい局面を迎えると思われる。
 政治資金も意外と透明かもしれない。
 民主党の小沢一郎代表が600万円の政治献金を貰っていた事が発覚した。既に返還したってことだが、何故、山田洋行が小沢一郎氏に政治献金する必要があったのだろうか。政権交代時の安全弁なんてストーリーは無いだろう。そもそも、小沢一郎氏は山田洋行とどのような関係だったのか説明責任を果たしていない。

防衛族議員の過剰な反応
 時を同じくして東京で「日米安全保障戦略会議」が開かれている。
日米の国防族議員と軍需産業業界の交流会だ。この会議を主催しているのは「社団法人 日米平和・文化交流協会」。
 ここのホームページを見ると理事に名前を連ねている議員が分かる。
社団法人 日米平和・文化交流協会 理事名簿
自民党のみでは無く、民主党や共産党まで議員が名前を連ねている。
 この会議にはのきなみキャンセルがあったようで、軍需産業業界と距離を置く姿勢が見え隠れしている。ま、やましいことが無いなら堂々と出席すれば良いのにと庶民は思ってしまうが。
 政治家への贈収賄にまでは「山田事件」は発展しないだろう。有るとすれば政治家自身の「道義的責任を感じて...」あたりまでだろう。防衛省幹部の癒着を明らかにする所までで事件は終了する公算が高い。贈収賄の立件まで行けば予想以上の成果となるだろう。
 ロッキード事件の教訓からなのか、宮崎元伸氏によると「金さえ渡さなければ大丈夫」の風潮がある。
 アメリカでは議員にお土産に電卓を渡したら「金額を教えてくれ、100ドル以上なら申請しなくてはならないから」と上院議員クラスの議員から言われたとか。日本の阿吽の呼吸の中で透明性が確保されない業界はまだまだ山ほどあるのだろう。

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2007.11.09 Mint