日本の原発の集中立地がリスク管理の盲点

過度の集中を招いた
 日本の原発は全部で54基。その中で電力会社が所有するもので1基のみで稼働しているのは計画中の東北電力の浪江・小高原発くらいである。もっとも建設後は隣接して二号炉ができるのかもしれないが。福島第一は6基+計画2基の状態だ。同様に多いのが中越地震で被害の出た東京電力の柏崎刈羽(7基)がある。各電力会社も定期点検期間中は火力発電に頼っていては効率が悪いので複数の原子力発電施設が必要になるが、土地の収用が難しいので既設の原子力発電所の拡張にならざるを得ない。それが、過度の原子炉の集中を招く結果となった。
 中越地震の時に過度の集中のリスクが叫ばれたが具体的な方策は取られなかった。福島第一原発についても貞観地震時の津波の高さが再認識されていたのだが津波対策として対応はされなかった。せめて非常電源の整備もしくは高所への配備を行っておけば今回の事故は防げただろう。貞観地震時の津波のシミュレーションを行っておけば事前にリスクを把握できただろう。
 ま、これはすべて結果論だが。
 過度の原子炉の集中によるリスクは既に設置されているのだから今更引っ越せとは言えない。今回の教訓を生かして電源車の整備が必要だろう。また、原子炉が使用済み核燃料棒を長期間保管する仕組みも早急に解消しなくてはならない。これは政治主導で進めるべき課題だ。
 今回の事態が収まってからの検証になるが、必ずしも想定外の津波が引き金では無いようだ。11日か12日の時点で事態が深刻化する前に地震当時の様子が作業員から漏れてきたが「配管がずれて水が降ってきた。やばい水なら命があぶないと建屋の外に出た」って証言がある。中部大学の武田邦彦教授は津波以前にかなり致命的なことになっていたと語っている。何が起きたのかは現在は現場の手が足りなくて検証できていない。

電気と水が必要な原発
 ま、「原発が運転中にCO2を出さないから地球環境に優しい」は詭弁だと思う。原子炉で作られた熱エネルギーの30%を発電に使い残りの70%を復水器経由で海に捨てている。CO2は出さないかもしれなしが、海中に熱を放出しているのだから地球温暖化には加担している訳だ。
 今回の事故で解ったのは原発のロジスティックス(兵站)だろう。原発は自己完結型の設備で設計されているが、これが立ち行かなくなった時に水と電気を必要とする。今回真水の換りに海水を使ったが海水には塩分が含まれているので今回のように水蒸気となって水分が失われると塩が残されてしまう。それが配管の出入り口を塞ぐ流れを止めて熱を奪う機能が失われ致命的だ。
 実は初期の段階でアメリカは冷却水不足を想定して提供を打診してきた。アメリカは原子力空母で使う冷却水を大量に保持している。原子力空母ジョージワシントンで熱出力40万キロワットの原子炉を2基装備している。発電換算ではこの30%で24万キロワットの能力がある。つまり動く原子力発電所を積んでいる。当然、兵器であるから採算性を度外視したロジスティックス体制が敷かれているだろう。現場に原子力空母のロナルド・レーガンが地震の2日後には宮崎県沖にあらわれたのは、自艦用の予備冷却水を提供するためだったのではないだろうか。
 日本の原子力発電は商業行為だから採算性って面を無視できないが、今回の福島第一原発の教訓は今後に生かされなくてはいけない。水と電力の備蓄だ。しかも、道路が寸断されることを考えると水はタンクで備蓄。電気を供給する発電車は大型ヘリで空輸となる。この体制を整備するに必要な金額は原子炉1基の金額と比べたら微々たるものだ。逆に、発電車は国民の税金で国が購入しても良いだろう。それくらいの行動は即時対応できるはずだが>民主党。

将来の技術キャンドル炉
 発想の転換が大きな技術革新を生む。今の原子力発電は核のゴミを出す。このゴミを交換しなくてはいけない。つまり、旧来の暖房用ストーブに石炭を放り込み燃やして燃え残った灰を回収する方式と何ら変わらない。
 この石炭と灰の放射能が強く取り扱いが厄介なのだ。この灰を集めてまた石炭にするってのが核燃料サイクルだが、そもそも、再処理は採算が合うのか、リスクは回避可能なのかを巡って何年も足踏みを繰り返してきた。
 ビルゲイツと東芝が研究する「キャンドル炉」を早急に実用化するほうが早い気がする。燃料交換が不要で100年は運転できる。100年放射線に曝されて部品が持たないと言われているがそこは適切なメンテナンス方法を考えれば良い。現行の原子炉の原理と部品は80%以上流用可能だ。
 現在、原子力発電所を作るメーカーはWH・東芝、GE・日立、アレバ(仏)・三菱、ロスアトム(ロシア)の4グループに再編されている。日本が途上国向けにメンテナンス性の良いキャンドル炉を利用した発電設備を実用化すれば世界のエネルギー地図も塗り替わる。
 現在審査中の原発は申請が取り下げられるだろうから、その審査要員をキャンドル炉の開発審査に回して10年で実用化を目指すのが最善の選択である。
 キャンドル炉の詳細は日経の記事が参考になる。

button  東日本大震災で福島第一原発復旧へ懸命の挑戦
button  放射能汚染を正しく伝える術が無い関係者

2011.04.01 Mint