「レベル7」表明に見る菅直人総理の政治音痴度

今の時期に早急に「レベル7」は無い
 計算したら放出放射能はレベル7でした。ただ、それだけの理由で国内外に「レベル7」と表明するのはまったくの政治音痴だ。レベル7がチェルノブイリ原発事故と同等の事故と世界にイメージを広めるからだ。それで無くても諸外国での福島第一原発事故の報道が誤解に満ちた行き過ぎが目立つ。それに拍車をかけるような「レベル7」表明は、益々日本の原発事故のイメージが曲解され広まることになる。
 乱暴な言い方で世界各国から顰蹙を買うかもしれないが、太平洋に面した福島第一原発で放出された放射能の半分は海に降り注ぐ、また偏西風があるのでその割合はもっと高くなる。実際に放出された放射能の7割近くが地面では無く海に降り注ぎ拡散される。ま、それが世界的に見て迷惑な話なのは当然だが。
 一方では「ただちに健康被害は無い」を繰り返してきた政府発表が一転して「チェルノブイリ級でした」では矛盾以前に政治感覚を疑う。東日本大震災から1ヶ月を経て発表するタイミングはまったく政治音痴だ。
 冷静な判断から諸外国では「日本はレベル7の意味が解っているのか?」の疑問が寄せられている。放出した放射能量だけでは無く健康被害がどの程度出るのか、今後の被害は拡大するのか終焉するのか。このあたりとのバランスで仮に「レベル7」相当だとしても、何もこの時期に率先して「レベル7」と言う必要は無いだろう。復興に向けて仕切り直しの1ヶ月目に水を差す政治音痴だ。
 アメリカがスリーマイル島原発事故を超える原発事故にして欲しかったのかと邪推するほか無い。
 チェルノブイリ原発事故では直接的被曝による死者が30名程出た。間接的被曝による死者は統計の取りようが無いが、2005年9月のチェルノブイリ事故の国際会議では4000人と発表された。この数値は各国で「意外と少なかった」と報道された。現実には諸説あるが10万人オーダーの見積りもある。
 このチェルノブイリ原子力発電所の事故と同等だと菅直人総理は認識しているのだろうか。だとしたら、政府の政策の中に国民の被曝量の把握を加え、被曝量累積が1ミリシーベルトを超える人々の経年的な健康管理を始めなくてはいけない。
 そんな感覚が無くて累積放射能が数万テラ・ベクレムを超えたことを根拠に「レベル7」を宣言するのは政治音痴だからだろう。政治的配慮に欠ける総理大臣を日本人は選んだものだとあきれてしまう。

最も放射能放出が多かった時期
 日本全国各地の原子力発電所にはモニタリングポストが配置されており、これをネットでリアルタイムに閲覧できる。ただ、多くのデータがリアルタイムだけで、遡って調べることができない。また、遡りも1ヶ月程度で現在(4/13)重要なデータが消えつつある。
 福島第一原発の初期対応は「放射能は原発の外に出さない」に主眼があったようだ。このため「とじこめる」に専念するあまり3/12日に一号機の水素爆発、そして3/14日に三号機の水素爆発を招いてしまった。3/12日時点で周辺20kmの住民には避難指示が出ていた。この時点で「とじこめる」は若干緩めても良いと判断したのだろう。
 ところが、各地のミニタリングポストの放射能値を見ると3/15〜3/16日がピークを迎える。一部のモニタリングポストでは数値が高すぎるので「欠損値」扱いになっている。これは北海道電力の泊原子力発電所の神恵内(かもえない)地区のモニタリングのデータ。意図的では無く欠損値になっている。
この時期に起きた事故は3/15日の6:14に福島第一原発2号機で爆発音があり、圧力抑制室の圧力が低下し格納容器の損傷が疑われた。また、9:40には福島第一原発4号機の使用済み燃料の露出による水素発生と水素爆発が起こる。
 この時点で外部への高いレベルでの放射能漏れが決定的になり各地のモニタリングポストでも高い値の放射能が検出された。
 この時の風向きは北から北北西で放射能は関東方面へ流れた。3/17日になって低気圧の通過とともに西風になり放射能は太平洋に向かった。  福島地方の過去の気象データは下記の場所で確認できる。引数の日付を変えることにより時系列に調べることもできる。
 http://tenki.jp/past/detail/pref-10.html?year=2009&month=3&day=16
 最悪の事態は風向によって減衰した。日本は神の国だから神風が吹いたのだ。もっとも、環太平洋の諸外国には迷惑な話だが。

どれくらいの被曝量だったか
 「レベル7」を宣されたのだから相当な被曝量だったのかと言えば、必ずしも楽観は許されないが正確な計算をしておく必要があるだろう。先に書いたように放射能による被曝は累積するものだ。だから避難所なんかで測定できるものではない。避難所で測定しているのは付着した放射能の測定であり、個々人の被曝量は個々人が計算を行うしかない。
 詳しくは放射能汚染を正しく伝える術が無い関係者を参照して欲しい
このモニタリングポストのデータは1ヶ月で消えるので、そろそろ消えてしまう。横浜の大島のモニタリングポストのグラフから読み取ってみる。3/15日のデータは振り切っているので、低く見積もるために上限値を利用する。4/13日の午後になってスケールが修正されているのは、ギリギリ粘った結果なんだろうか。特に意図は無いと信じたいが。
 150ナノシーベルト/毎時が大雑把に見積もって3日間続いている。また、降雨の影響と思われるが3/21日にも丸一日上限値を示している。
 150ナノシーベルト/毎時×4日×24時間=14400ナノシーベルト
 14.4μシーベルトである。
 四六時中おもてにいた場合の被曝量である。通常の4日間だと、
 30ナノシーベルト/毎時×4日×24時間=2880ナノシーベルト
 なので、5倍程だが健康に留意する線量には達しない。
 ちなみに、一番線量が大きかったと思われる福島第一原発から北西に20km程では観測装置の整備が遅れていたので暫定値しか無いがピークが3/15日の20:40の測定で300μシーベルト/毎時である。翌日の6:23には58.5μシーベルト/毎時に下がっているので24時間は続かなかっただろう。概算で上記のピークが半日とする。
 300μシーベルト/毎時×12時間=3600μシーベルト
 つまり、国の決める年間1ミリシーベルトを超えている。そこで国は年間被曝線量を20ミリシーベルトに上げて、当面「健康に影響は無い」としているのだが、とんでもない話だ。
 こっちは「レベル7」かどうか以前の被曝線量だ。直ちに健康管理を始める必要がある。
 ちなみに年間被曝量5ミリシーベルト以上の被曝が予想される場所は「管理区域」と指定し、入場する者は線量計により被曝量を管理するとともに健康診断を行わなくてはいけない。今回の放射能汚染事故が1年間続くとすると、線量は0.6μシーベルト/毎時に該当する。これは、現在の30km圏内で多数モニタリングされている線量である。一部の地域では大幅にこの線量を超えている。相馬郡飯舘村長泥の測定値は10μシーベルト/毎時を超えている。
 ちなみに15〜17日の福島第一原発周囲の状況は以下のモニタリングデータがある。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110316c.pdf
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110317m.pdf

屋内退避、食品検査の盲点
 現在の屋内退避は数日の放射線被害を前提にしたものだ。初期の段階では降り注ぐ放射能(放射性物質)は屋外に降り注ぐ。しかし時間の経過(数週間)に伴って人間の出入り時に付着した放射能(放射性物質)は屋内に持ち込まれる。屋外も屋内もさほど放射線量が違わない状態になる。この時期に「測定値は屋外に24時間居る場合の危険性です!」などと言っても説得力が無い。
 屋内に貯まった放射能(放射性物質)を除去するにはこまめに床や壁を濡れた雑巾で拭くこと。その雑巾を風呂場等での流水による洗浄が必要だ。このあたりの注意はまったく広報されていない。
 また、今後の食品汚染だが、最初は直接的に降り注ぐ放射能(放射性物質)の影響を受ける水道水、葉物野菜に出てくる。次が大洋拡散すると思われている魚だ。魚もプランクトンを食べる水面に近い生活圏の小魚から始まり、この小魚を食べる中型へと伝播する。陸上では直接出やすい牛乳の次は卵、肉の順番に汚染が伝搬する。
 検査の盲点を突かれないように万全の検査体制が(既に遅いかも)必要になる。
 また、放射能レベルは低いとは言え汚水を大量に海に流したので、この監視も重要になる。政府の発表を見ていると核種に全然触れられていない。例えば「放射性ヨウ素が検出された」と発表するがヨウ素131なのかヨウ素134なのかは発表しない。ヨウ素の同位体は37種類ありそれぞれ半減期が違う。ヨウ素131は半減期8.1日なのでヨウ素131を追えばこれが生まれてから何日目なのか解る。つまり、採取した放射性物質の中でヨウ素131の割合が多ければ分裂後時間が経っていないので原子炉から直接出た可能性が高い。少なければ使用済み核燃料のプールの水だったり、放水した低レベルの汚染水の可能性が高い。
 分析はしているのだろうが発表されていないストロンチウム、プロトニウムの値も大事だ。原子炉から出る核種は多いがこれに加えてヨウ素、セシウムの測定を行って初めて食品の安全性が解る(我々が判断できる)。公表されていない現時点では最新の食品は避けて貯蔵食品を食べるようにしたほうが良い。
 「レベル7」の発表は稚拙なくらい迅速だが、国民の生命財産を守る活動はカメのようにのろい。

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2011.04.13 Mint