福島第一原発を悪化させた自己チュウのエリート達

再臨界は起こらないのか
 福島第一原発の1号機は地震により多くの配管が損傷したが制御棒(ハフニウム製)が挿入されて核反応事態は止まった。鉄塔の倒壊により外部電源が断たれ、非常用発電機を起動して緊急停止後の炉心の冷却を計った。しかし、津波により地下に設置された非常用発電機は水没して停止し、炉心を冷やせない状態になった。やがて、燃料棒のジルコニュウムと水が反応して水素が発生し水素爆発に至った。
 が、水素爆発以前に燃料棒は熔解(高温による溶解なので熔解を使う)し圧力容器の底に積み重なり、一部は格納容器にも落ちている。さらに格納容器に小さな穴があいて燃料棒を構成している放射性物質が建屋の床にまで流れ出ている。
 不思議なのは燃料棒の中に挿入された制御棒が燃料の核反応を押させているのに、これが崩れ落ちて用をなさないのに原子炉のそこで東海村JCOで起きた臨界が起きないのはなぜだろうか。
 普通なら中性子が制御棒に止められることなく飛び回って核反応が臨界になると思うのだが。このあたりについてマスコミは解説していない。
 水が減速材になるからと言うが水に漬かっていれば安全とは言えない。実は水は減速材ではあるが、ウラン235が分裂して生じた高速中性子を熱中性子に変える。速度が遅くなった中性子は他の物質に近づくと引力で曲げられやすく、これが新たなウラン235に当たった時に再度の核分裂を容易にする。
 だから十分な水が必要になる。水が十分にあれば高速中性子の減速が進み衝突のエネルギーも減少する。その場合、他の物質の核には飛び込めない。
 逆に沸騰水型の原発の怖いのは水が失われること。主水管が破断して圧力容器の水が沸騰して泡になると水の減速機能を失うので一気に高出力になって爆発する。これは制御棒が間に合わない程早い反応だ。
 そもそも原発の啓蒙ビデオなんかではウラン235が中性子によって「パカァン」と割れて新たに生じた中性子が次のウラン235に当って「パカァン」と割れる様子を描いているが、この反応は原子炉では1秒間に1億世代くらいのスピードで発生している。そんな緩い反応では無い。
 三号炉はプルサーマルなのでプルトニュウムが最初から多く含まれているので1号炉とは違った再臨界のリスクがあるかもしれない。
 今回の一号機で再臨界が起きないのは2500度で熔解した時に制御棒(ハフニウム製)も一緒に熔解して混じっているのとホウ素を大量に入れているのが偶然、効果を発揮してるのかもしれない。
 設計時に考慮されている機能で無いことはたしかだ。偶然再臨界にならなかったってことかもしれない。

未体験ゾーンへの東電の姿勢は真摯で無い
 電力会社の一般的体質とステロタイプに述べるつもりは無いが、今回の東電の対応は政府の対応に輪をかけて極悪だった。東芝を始めメーカが支援要請を待っていたのに東電は自分で囲え込んだ。4号機を担当した日立の茨城の事業所が震災の影響を受けているので東芝は4号機も含めて対応の準備をしていた。
 電力会社の文化ってのは特殊で地域独占で田舎にも浸透してるから住民から「○○さん」とまで呼ばれる超エリート「気分」になる。民間会社ではあるけれど地域の隅々まで浸透しているので特に田舎では地域を代表する事業所ですらある。
 この体質に胡座を組んでいたのが東電の文化だろう。だから「俺らでなんとかする」って体力に合わない決断が結局全てもぶちこわした。
 そもそも、「原発に強い」を自称する菅直人総理大臣が福島第一原発に到着した時には燃料棒は冷却機能喪失によって熔解して圧力容器の下に崩れ落ちていた。それを「海水で冷やせ」ってのは見当違いでベント以前に次は水素爆発になるのは明確だった。
 結果論と言われたくないのであえて紹介するが、例えば奇人の範疇かもしれないが武田邦彦(中部大学)教授はかなり的確に事象を読んでいた。「東電は情報を出さないので判断が出来ない」と言いながら再臨界の可能性は無いとは言えないが低いと当時書いている。原発 緊急情報(3)
 最悪の原発事故回避には日本のみならず世界の英知を集めなければならなかったのに、自からの匹夫なエリート意識で全てをぶち壊した。そして、悪い情報を伝えると怒鳴りちらし、良い情報を伝えると遅いと怒鳴る菅直人総理に代表される戦後教育が生んだ歪んだリーダが随所に見られる。
 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花
ならぬ、
 立てば天災、座れば人災、歩く姿は風評被害
と菅直人総理大臣が揶揄されるのは全てこの匹夫のエリート意識がなせる業だ。

本当のエリートは真摯
 明治維新の頃に日本は近代国家像としてイギリスとフランスに学んだ。当時のアメリカは農業国を歩み始めた時代で近代国会の形成を学ぶには若すぎた。
 その後、日本はイギリス式とフランス式が混在して今に至るのだが、基本的にエリーが国家を形成するって考え方はイギリスの文化だ。その歴史はナイトでありジョンブルであり貴族の責任論になる。
 古代アテネのポリスでは市民の称号は非常時には都市を守る兵士なる人に与えられた。同じようにイギリスでは貴族は領地を守るのと同時に領地の経営に責任を持つ人間だ。常に状況を把握し適格に判断し実行していく。
 この状況把握が基礎知識であり、判断が見識であり実行が責任を取ると言うことだ。この全てが出来なくてはエリートとは呼べない。
 翻って菅総理大臣や東電の一部には前述の3要素があるだろうか。東電は福島第一原発でヨウ素は使ったようだが。
 自分の地位を守るのでは無く、他人を(国民だったり領民)守る発想に立てば、自らのプライドなんかよりも大切にしなければならないものが見えてくるはずだ。「助けてくれ」と叫ぶことを忘れないことだ。
 軍事機密なので公にならないが、アメリカ軍が原子力空母を向けたのは仙台空港が津波で壊滅的だからでは無い。原子力空母は原子炉事故が発生した時に対応する各所の装置や物資を積んでいる。これを福島第一にヘリでピストン輸送して救援する用意があったのだろう。これを東電は自らのプライドで断ってしまった。日本国政府は米軍が来ても戦争じゃないんだから対して役に立たないとの見識の無さからスタンバイの依頼も行わず、信じられないことに黙殺してしまった。
 過去にポツダム宣言を「黙殺」して戦争の最終兵器の原爆が投下された歴史にも学んでいない。
 危機の時には新しいリーダが現れるそうだが、是非とも真摯なエリートが出て来て欲しい。

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2011.05.17 Mint