日本のエネルギー問題を解決する二つの「トリウム」

ひとつはトリウム原発の推進
 今回の東日本大震災による福島第一原発の事故は、過度の原子炉の集中が招いた複数原発同一地域同時事故発生となった。地勢的危険性は分散させるのが鉄則で、その意味では他の原発も集中主義で増築を繰り返しているリスクが考慮されていない。
 原子力の平和利用の一環として原子力発電を考える時に、ウランを燃料とする原子炉より安全な原子炉としてトリウムを燃料としたトリウム原子炉が考えられていた。その一番の「欠点」は核兵器開発に利用するプルトニウムを生み出さないことだった。そのため1960年代にアメリカで実証炉が4年間も稼働したにも関わらず実験で終わってしまった。
 世界の原発がウランを燃料としているのは電気が欲しいのでは無くてプルトニウムが欲しいからと言っても過言では無い。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して核兵器の原材料として厳重に管理する。一部の国では核兵器への転用を想定していないので使用済み核燃料を再処理せずプルトニウムを抽出せずに直接地下に埋め戻す国もある。
 憲法や国民感情から核兵器作成が困難な日本では特にプルトニウムを必要としない。しかし原発を利用することにより日本では外国の再処理工場での在庫も含めて30トン強のプルトニウムを保有している。しかも海外で保管されているプルトニウムは電力各社の再処理依頼によって発生したもので厳重な管理下にあるとは言え私企業の所有である。
 1kgで原子力兵器1基を製造可能と言われているので日本は30000発の核弾頭の原料を保有していることになる。
 自然界に存在しないプルトニウムが貯まってしまうのでこれを燃料として再利用しようってのがプルサーマルだ。
 この日本にとっては不要なプルトニウムを燃料にして他の核に変えることがトリウム原子炉では可能になる。また、現行の原子炉では使えない劣化ウランも燃料として使える。実証実験の結果「雑食性」の原子炉であることが確認されている。
 出力が小規模なので全体の大きさもコンパクトで狭い土地でも設置可能だ。東芝の4Sと同じように小規模分散型原子炉と言える(東芝の4Sはウラン燃料だが)。また、ウランやプルトニウムを含まないので今回の福島第一原発事故のように事故が発生すると半径30km以内は計画退避になることもない。都市で地下に設置することも可能だ。
 分散型の安全な原発がトリウム原発である。

もうひとつはオーランチオキトリウム
 バイオ燃料の救世主となりそうなのが炭化水素を合成する藻であるオーランチオキトリウムだ。今までの10倍の合成速度を行える品種が発見され現行の化石燃料との価格競争力が出てきた(理論価格競争力)。
 電力は常に消費する分を供給する。つまり需要と供給を同じ値にする必要がある。太陽電池は昼間しか発電しない。夜の電力需要には太陽電池は使えない。蓄電するとか揚水発電に回しておくとかの工夫の余地はあるが蓄電効率は50%程度。半分の電力が無駄になる。揚水発電でも効率70%程度なので30%の電力が無駄になる。
 原子力発電は熱負荷変動を押さえるために100%連続運転利用が原則で、実際に四国電力伊方原子力発電所で原子炉の出力変動運転実験を行ったところ変動が安定せずに危険なことが解っている。
 一方、電力を使う側は寒くなるとスイッチを入れてとか暗くなるとスイッチを入れてと細かく変動する。一日の大きな流れは夏場は昼間にピーク(冷房への電力消費)が来る。事業所が稼働していない夜間は極端に需要が減る。そのために原子力発電の電気が余るので揚水発電所で翌日の昼間需要に備えて夜間余剰電力で水をくみ上げている。
 自然エネルギーは当てにならないので不足した時には電力を補う必要がある。バックアップのために用意しておく発電能力は自然エネルギーがゼロになった時でも対応可能となると、普段は使わない施設を同一規模用意する必要がある。しかも発電量の追従性の良い発電所が必要で稼働から数日で100%出力になる原発では対応できない。
 時々刻々変化する需要に対して柔軟に対応するのは火力発電所が便利だ。火力発電所は効率を多少無視すれば全力運転から停止までのどの段階でも電力を供給できる。機器の熱対応を考慮すると、おおむね1%出力変動が10分以内で可能である。その燃料は現在は化石系の石炭や石油や天然ガスだが世界的エネルギー需要逼迫から燃料費の上昇が続く。
 この火力発電所の燃料として化石燃料に変わるのがオーランチオキトリウムから生産される炭化水素燃料になる。現在の石油プラントを利用した精製も可能で、ガソリン、灯油、重油の代替燃料も精製できる。

これからの発電は分散ネットワーク
 大規模原子力発電プラントがいかに危険なものであったかは今回の福島第一原発の事故で明確になった。特に地震およびそれに付随する津波の多い日本では原子炉を集中させて立地する危険性が露呈した。同じように「絶対安全」神話は止めて事故時の対応が大変って見地に立てばウラン燃料原子炉では無くトリウム燃料原子炉の利用が求められる。
 アメリカが独占する原発燃料の消費者として原子力村に加わって利権を甘受している団体の猛反対が予想されるが、これを打破しないとトリウム原発は実用化までたどりつかない。しかしアメリカのオバマ大統領の核無き世界構想にはプルトニウムを生まないトリウム原発が必要だ。アメリカでも蓄積されたり核兵器の廃棄に伴うプルトニウムの最終処分に他の核種に変えることができるトリウム原発が必要になる。
 また東芝の4S炉はコンパクトなことと長期間燃料の入れ替えの必要が無く、使用済み核燃料の再処理の必要も無い(基本、燃え尽きたら廃炉)。
 ウランも無尽蔵にある訳では無い。ウラン枯渇に向けて新しい原子力利用に取りかかる必要があるだろう。そうしないと後生「21世紀の人類は20世紀の遺産で生活していた」と言われる。
 日本のエネルギー受給率は4%だ。96%を外国から輸入し消費している。食料受給率が40%しか無いなんて問題と比べて大問題にならないのが不思議だ。
 食料安全保障なんて言葉があるがエネルギー安全保障も大切な政治課題だ。日本の技術力で国産エネルギーを半分にまで持って行くことがエネルギー安全保障上必要ではないだろうか。(残念ながら日本ではトリウムは産出しないが、オーランチオキトリウムの培養は可能。メタンハイドレードもある)
 その芽はある。実行するのは政治判断だ。復興に目処が付いたら辞めるなんて嘘をついても保身する総理大臣には何もできないだろうが。

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2011.06.03 Mint