北海道の石炭が被災地の電力になっている

多様な北海道の発電源
 北海道の電力発電の基本エネルギー源は平成21年度の統計で下記のようになっている。現在は泊原子力3号機が稼働しているので原子力の割合が高くなっているが。
水力    16%
石炭火力  39%
石油火力   8%
原子力   35%
新エネ    2%
北海道では今でも石炭発電を行っている。しかもこの石炭の一部は北海道で掘っている事を知る人は少ない。
 事実、今回実際に採炭の現場を見てエネルギーの地産地消の構造を見るとともに東電や東北電力への系統を使った送電に北海道の石炭が寄与している現状を皆に知ってもらいたい。
 炭鉱なんて用語は日本国民の意識から消えてしまったが、日本の歴史の中で1945年以降の戦後の日本経済の復興に寄与したエネルギーは石炭だった。当時の白洲次郎氏の率いる経済産業省の政策は傾斜経済による日本経済の復興を目指すってことだった。日本経済の復興源であるエネルギーを石炭に求め、その輸送ルートとしての国鉄をフル稼働させた。それが最初の日本復興のシナリオだった。
 石炭が安価に入手出来るのは日本では九州と北海道地域であった。そのため炭鉱の開発は雇用の創出と復興の両面から活発に国策として進めらた。
 復興を目指してた戦後、昭和20年代のことである。
 その石炭を掘る炭坑はエネルギー政策の転換と共にスクラップ&ビルトで閉山を進めてきた。日本に残る炭鉱は人々の記憶の中にのみあり高倉健の「幸せの黄色いハンカチ」のように映画に封印され文化の伝承対象になった。
 過去に炭鉱を描いた映画や記録は残されている、木下啓介の映画「家族」は1970年代の「進歩と調和」の大阪万博を痛烈に批判した庶民感覚の「進歩と調和」だろう。後日、大阪万博の実行委員だった岡本太郎氏は「進歩と調和」に否定的だったので、太陽の塔として問題提起したと語っている。同じく、幸せの黄色いハンカチでは炭鉱夫と家族の不安を炭鉱事故のシーンで描いている。
 その炭鉱だが、当時の鉱脈に沿った採掘から露天掘りに変化して今も継続している。

場所は空知炭田周辺
 北海道は菱形の格好をしているが、その真ん中から若干西側に奈井江火力発電所と砂川火力発電所がある。共に石炭を利用した発電所だ。
 他の石炭火力発電所は輸入石炭を利用しているが、ここの2発電所は国内炭それも周辺の空知炭田からの露天掘りの石炭を利用している。その発電量は奈井江火力発電所が総出力35万kw、砂川火力発電所が総出力25万Kwで合計60万Kw。
 これと同等の電力が北本連系を通して北海道から本州へ送電されている。
実際には西当別変電所を起点に→西野変電所→西双葉開閉所→大野変電所へと至る「道央北幹線・道央西幹線・道南幹線」を経由して泊発電所(原子力発電所)や知内発電所の電力を東北電力に供給している。
 余剰電力が出るってのは砂川、奈井江の石炭火力発電のおかげだ。
 電力に出所は付いていないので、ま、北海道の石炭を利用した電力が被災地や東京に送られていると表現しても良いだろう。

多様なエネルギー源から電力を作る
 先に述べたように北海道の電力は石炭火力の割合が高いがその石炭はオール北海道産では無い。一番大きな石炭火力発電所である厚真火力発電所はほとんどの石炭を海外からの輸入に頼っている。
 石炭は輸送コストを考えると地産地消が望ましいが外国からの石炭は港まで船で搬送するのがコストを切り詰める要だ。
 先の奈井江石炭火力発電所、砂川石炭火力発電所は内陸にあり石炭の海上輸送は出来ない。だから、石炭の輸送コストが高くなるのだが、近場で石炭が採掘できれば輸送コストは低下する。そして、両石炭火力発電所は空知炭田に隣接している。
 今回見学した三美鉱業の露天掘りの現場はかつて坑道を掘り進んだ時に坑道を作れなかった薄く地表に近い炭層を対象に行っている。地学や科学の時間に学習したと思うが石炭は大昔に沼や湖水に積み重なった材木が層をなして長い年月で炭層を形成している。この厚さは千差万別である。人が入って坑道を作れるような厚い炭層は意外と少ない。
 今回見学した場所での炭層は褶曲していて縦に幅25CMなんて薄い層もあった。そこから自らハンマーを用いて石炭岩を「お持ち帰り」させてもらったが。
 自転車通勤している人は実感していると思うが、自転車の夜間ライトは自転車に設置しているダイナモ(発電機)で得られる。つまり、エネルギーが発電機に供給されれば電力は得られる。そのエネルギーが原子力であれ人間の自転車のペダルを漕ぐ力であれ電力は得られる。
 多様なエネルギー源を持つ(持てた)北海道は全国に向けて自らの地産地消で作った電力を国内に送電している。原発停止で発電供給能力がタイトな電力会社は原発発電のモノカルチャーを反省すべきだろう。
 日本のエネルギー自給率が4%しか無い現状をどれだけの人が知っているのか。
 「油断」に対する危機管理は過去の技術の再現も必要になる。石炭の採掘技術、その石炭を利用して電力の供給(発電)。古い技術として葬って良いのだろうか。危機管理の基本は起きた事象への暫時対処だ。とりあえず、今の日本で石炭エネルギー利用で電力を賄える事実に目を向けるべきだろう。
 不確定要素が多い自然エネルギー補完する旧来のエネルギー利用(遺産?)も大切にしなければいけない。
 世界の発電エネルギーは天然ガスに移行しつつあるが、そのつなぎとして日本の最高技術であるクリーンな石炭火力発電が世界に輸出可能な技術であることにも着目すべきだろう。

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2011.07.08 Mint