国境があって多様な文化が平和を維持する

工業大国がTPPに参加する必然性に乏しい
 食料安全保障の立場から互いの農産品をシームレスにするのは解るが、日本は工業製品や知財を持ち輸出する国で、これらの品目が貿易、特に輸出のメイン商品になる。関税が無くなれば諸外国の輸入価格が関税の分安くなり輸出による販売高が増加し外貨の獲得が容易になるって論調が日本の経団連なんかに多いが100%間違いである。
 日本の工業生産の歴史は価格競争の工業から脱してより付加価値の高い独自の工業製品の生産の成熟期を迎えている。戦後の安かろう悪かろうの輸出産業はとうの昔に決別した。世界の中で日本が担わなければならないのはオンリーワンの工業製品の生産と普及だ。
 その意味で先日無くなったアップルのスティーブ・ジョブス氏が生産したiPadやiPodは本来日本のソニーが作り世界に広める商品であった。ウォークマンを作ったイノベーション精神が今のソニーに残っていないのは何故か。これは、日本の工業がオンリーワンを作れない問題として、今後の技術開発問題で大いに語る必要がある工業施策の課題だ。
 そしてTPPである。
 EUは通貨統合によって国境無き広域な経済圏の形成を目指した。これにはメリットもデメリットもあった。そして、昨今の通貨危機でデメリットが全面に出てしまったのだ。しかし、基本的に地域間の受給のアンバランスを平準化し特に東ドイツや旧ソ連圏では生産性が飛躍的に伸びた効果はあった。
 TPPは通貨統合では無くて関税障壁の撤廃によって国境無き広域経済圏を目指すものだ。2011年7月現在、TPPの協議にはシンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリ、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加している。
 当初の枠組みにアメリカが参加してから交渉の進捗が滞っている。オーストラリアでもTPP反対運動が起こっているが、これは「健康、労働、文化、環境政策を取引してはならない」との考え方で、農産品の輸入拡大のために何でも国内に土足で入ってきても良いとはならないって考え方だ。

国境こそが多様な文化を支える砦
 そもそも、TPPでは個別品目の2国間関税協定(FTA)では無くて、包括的に全ての品目で多国間で関税を廃止しようとするもの。これによって貿易の活性化が図られるとのことだ。しかし、では何故、今、個々の品目に関税があるのか、その経緯と必然性の議論に欠けている。
 多国間で最も安い(生産性の高い)品目を共有することで多国間の経済力を高めようってのはEUと同じだ。しかし、同一の品目を国内で生産する非効率は単純に排除(縮小)して良いのか。その議論が個々の品目(農業、医療、保険、放送等多岐にわたる)について詰めないままTPPに参加して本当に良いのかが議論されていない。
 TPPの協議の進捗経緯からアメリカは横入りしてきた格好だが大西洋からEUによる経済圏に遮られ太平洋に出ざるを得ない地勢的条件から環太平洋への進出と主導権を得るのが必然なアメリカの国策である。
 これは先の太平洋戦争(日本政府の名称では大東亜戦争)の時代と同じである。賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶと言うが、当時のアメリカは対日戦争を想定して「オレンジ・プラン」を持っていたのは有名だが、実は同時に対英戦争を想定して「レッド・プラン」を持っていたのはあまり知られていない。
 太平洋を中心にした世界地図にしか馴染みが日本人だが西欧を中心に出回っている大西洋を中心にした世界地図を見ると大国アメリカですら東西から挟まれていることが解る。そして、今、中国の台頭によって太平洋戦争前夜のように新たなアジア戦略を練り直さなければならない時期にアメリカは来ている。
 アメリカの特に農業での市場原理主義がアジアで、特に日本で不可能なのは地形的状況もある。広大な平原を持つアメリカでは農業の大規模化は容易である。大規模化&機械化によって生産性を高め安い農産品を作るのはアメリカに有利だ。日本でこれをやると山間地を切り崩し無理矢理大規模化して、昨今地球温暖化が原因なのか毎年来る100年にいっぺんの洪水によう河川の反乱で農地は跡形もなく流され失われる。
 北海道を除けば、日本の農業は農産品の生産と治山治水の合わさった産業だ。その特性、文化特性とまで言って良い日本の文化をTPPで破壊してはならない。
 国民皆保険制度と医療についても日本独特の、これまた医療文化と言っても良いだろう。これを破壊してはならない。
 各国の独自の諸制度、これを貿易障壁とアメリカは呼んで来たが、それにはそれなりに各国の積み重ねてきた歴史と文化に起因している。アメリカ人の「英語はどこでも通用する」って単細胞で土足で踏み込まれては各国の文化が、そして積み重ねてきた資源(日本で言えば棚田のような)が破壊される。
 国家が、そして地域が文化の最小単位として独立していることが多様な価値観を生み国家の危機に対応できる人材を育む。TPPによる経済圏形成は単一文化による「親ガメこけたら皆こけた」の世界を生み出す。今のEU圏がその好例だろう。孤軍奮闘頑張れるのはイギリスだけになってしまった。
 あれだけ個性の強い国々の集まりであったヨーロッパですら、雁首揃えて右往左往にになるのは多様な文化の存在が失われた結果なのだ。

日露戦争勝利後40年で日本は大敗し敗戦を迎える
 アメリカと日本の関係を親米、反米の2極対立では無く歴史から学んでみよう。
 先に書いたようにアメリカは米英戦争、日米戦争を想定するに至った以前にはロシアのアジア進出の阻止に重大な関心があった。そのための目の上のタンコブが日英同盟である。太平洋に向いた時に英国に背中から撃たれないためには日本を上手に利用する必要があるが、これが英国と手を組んでいるのではアメリカの脅威でもある。
 日露戦争で戦争終焉に向けてアメリカが日本に手を貸したのは当面のロシアのアジアからの撤退と日本と共同でアジア侵出そしてアジアからの英国排除の三題話に好都合だったからだ。
 ロシアからの戦利品である満州鉄道も日米で共同運行に当たる手はずになっていたが仮想敵国であったロシアへの勝利に酔った陸軍が首を縦にふらず実現しなかった。歴史にイフは無いが、この時満州鉄道日米共同運行が実現していれば後の太平洋戦争(日本国政府の呼称、大東亜戦争)は起こらなかったかもしれない。
 そこで、アメリカは、とりあえず日本の軍事力を弱めようと日本・アメリカ・フランス・英国との四カ国条約をワシントン会議で締結し、かねてから解消で盛り上がっていた日英同盟を解消させた。
 その後、アジアの利権の拡大でハワイ、フィリピンを傘下に納めたアメリカは日本の中国(当時の満州及び蒋介石統治)侵略を阻止すべく兵糧攻めに入る。そして太平洋戦争(日本国政府呼称:大東亜戦争)に突入する(突入させられる)。
 アメリカの対アジア政策は過去にこのような歴史を持つ。そして日本は日露戦争勝利からわずか40年で国土は破壊され敗戦を迎えた。
 ちなみに今から40年前の1971年8月15日(終戦記念日)はニクソン・ショックの年である。その年の12月には円ドル交換レートは変動制でそれまでの360円/ドルが308円/ドルでスタートする。
 結局、日米のこの100年は全て日本の外交無知とアメリカの狡猾な外交による歴史であった。いや、ペリー提督の黒船来港から不平等条約にまで遡れば江戸時代末期より連綿と続いている。
 翻って今の民主党政権。自民党に輪をかけて外交下手である。外務省は外交に国益を加味できないワインソムリエの集まりである。
 国民は信頼できない政権にTPPのような高度な外交手腕は任せられない。まさに明治維新の時の徳川慶喜幕府である。
 TPP推進がどのように国益に叶うのか、今の民主党政権には説明できる政治家が居ない。ならば、不参加が合理的で民主的で経済的な選択である。

button  TPPで指導力を発揮出来ない菅総理大臣
button  何が言いたいのかイミフメの菅直人総理の年頭会見



2011.10.27 Mint