国が信用できないからTPPの合意が得られない

平成の開国は明治時代と同じ不平等条約
 今年(2011年)1月の菅直人総理大臣(当時)の年頭所信表明でTPP参加を「平成の開国」と表現したが、当時の黒船来襲と同じ開国で不平等条約による貿易を押しつけられてアメリカの国益優先に終始するのではないか。
 韓国はTPPには参加せずに米韓FTA締結を行ったが、これは明らかに不平等貿易を招いている。既存の韓国の保険制度が複雑で消費者の混乱を招くから中止せよとアメリカから圧力がかかる。便利な保険を取り上げてアメリカ資本の参入を容易にする恫喝だ。
 FTAの不平等ぶりの最たるものは投資損害賠償だろう。投資を行った外国企業が国の制度改革で不利益を被ったら相手国を直接訴えて損害賠償請求が出来る条項。しかも提訴はアメリカの裁判所で執り行う。
 このため、アメリカの民間企業に膨大な賠償金ビジネスを提供してしまった。
 例えばカナダでは国民の健康を守るために神経性物質の燃料への混入を禁止している。これに対して混入した燃料を販売しているアメリカの会社が、商売にならない貿易障壁だと訴え販売を可能にし、さらに賠償金までも手にした。
 メキシコでは産業廃棄物の廃棄をめぐって有害物質が混入しているからと廃棄場を許可されなかったアメリカ企業がメキシコ政府から不利益を被ったと1670万ドルをふんだくった。
 このISD条項が不平等貿易の根源である。FTAなら相手国の圧力に負けて不平等条約になるがTPPなら各国が一致してアメリカに対抗できるから問題ないとの意見も一部にあるが、TPP参加国の経済規模を合わせると70%がアメリカで20%が日本、残りの国は10%しか無い。その中でアメリカの52番目の州になる恐れは多分にある。ちなみに既に韓国は51番目の州になってしまった。韓国、中国、インドは参加していない。特に中国は「オレ流」がTPP参加でアメリカ流になるのは知的所有権の面からも文化土壌が違い無理な相談である。
 つまり、TPPは実質日米FTAなのだ。
 その中で外交下手の国(日本国政府)がアメリカと立ち回り有利な条件を引き出せるとは誰も思っていない。

国(政府)を信用できない日本国民
 全ての根源は福島第一原発事故以来の国民の政府への不信感だろう。口先だけで実行力が伴わず、たまに実行力を発揮すると明後日の方向に全力疾走で逸脱。そもそも、マルチ商法からの献金で当選した議員が消費庁の大臣てのはブラックジョークだ。
 「ただちに健康に影響は無い」。この言葉がいかに国民に国(政府)への不信感を植え付けただろうか。国民の生命・財産を守ること、加えて適切な教育を行い次世代の成長を育むこと。これが国(政府)の責任だ。しかし、福島第一原発事故では明らかに「国民の生命」すら守れないことを露呈した。
 全ての根源は国民の国(政府)への不信感である。そして福島第一原発事故で「国民の生命」を守れないと不信感を抱かせ、今度はTPPで「国民の財産」も守れないだろうと思われている。政治に一番必要な信頼を失った時に政治は八方塞がりになる。これを打破した後、政治主導の日本国の舵取りが可能になる。
 「反対意見を考慮したら政策は進まない」。これは前原氏の暴言だが、今の民主党政府は明後日の方向に向けて驀進する自滅路線を歩んでいる。政治への信頼を取り戻すのがまず先決だ。福島第一原発事故以前にも政権交代後の民主党政権では政治が担う責任があまりにも軽んじられてきた。
 たらい回しの首相の座と官僚主導の官庁原理主義が既に3年も続いている。福島第一原発事故への対応はこの政治情勢を顕在化させただけで、実は民主党政権が潜在的に抱える問題点を国民に「見える化」しただけだ。
 官僚のパフォーマンスに荷担するよりも大地に足を踏ん張る民主党を確立しなければTPP以前に国(政府)と国民の間の「ねじれ現象」は次回の衆議院選挙まで解消されない。

山本権兵衛は人心刷新で海軍を改善した
 前に民主党はバツイチ議員を使うなと書いた。一時期民主党の代表を務めたが様々な理由で代表の座を降りた面々である。過去の民主党に代表を勇退した議員は居ない。すべて辞任である。その辞任に至る「つまずき」は千差万別だが共通するのは党内の信頼を失ったことだ。
 前にも書いたが世の中には失ってはいけないものが3つある。その順番は軽いものから1)財産、2)信用、3)勇気である。民主党のバツイチは2)信用を失ったにも関わらず3)勇気をもって返り咲いたりしているからこの順番は正しいだろう。
 しかし、こと政治について言えば2)信用を失った後の立て直しは容易では無い。故に政治家にとって2)信用を失うことは再起不能の致命傷である。

 日清激突が想定される政治状況で山本権兵衛は旧薩長の士族で名誉進級などで海軍の中枢を占める海軍将官を辞めさせた。また、佐官、尉官の中からも89名を免職した。しかも山本権兵衛は「無能者を首にすることは、有能者の適材を適所に配置するために必要な事である」と言ってはばからなかった。
 日露戦争に対しては既に退役する予定の東郷平八郎を引き戻し連合艦隊司令長官に大抜擢した。これには異論噴出で時の明治天皇が心配して訪ねると「東郷は運のいい男です」と答えている。
 で、ご存じのように東郷平八郎は日本海海戦でバルチック艦隊を撃破し日露戦争終戦に持ち込んだのだ。但し、日本海海戦については参謀の秋山真之の作戦立案に負うところが大きいが、山本権兵衛は先の明治天皇の問いかけに「東郷は命令を正しく実行する者です」と答えている。つまり、近代戦では情報をより多く入手し部隊全体の作戦を立案し、各自に役割を分担させ実行する戦法が必要で、海賊のように単独先行で敵と渡り合う作戦では負けると踏んでいたのだろう。
 今の民主党は旧来の藩閥政治と同じく出身野党の集合である。政権交代の功労でポストが配分されている。これは明治維新後の政府と同じ構造にある。それを一新して政権交代の原点であるマニフェストによって当選した1年生議員による民主党政権に脱皮する必要があるだろう。
 次回の衆議院選挙で1年生議員は死屍累々となると言われているが、これは民主党内の幕藩政治に起因する。民主党はもはや政権交代を目指した野党連合寄り合い所帯では無い。政治に責任を持ち、国民の生命と財産を守る政党にならなくてはいけない。
 誰が山本権兵衛役を担えるのか。以外と鳩山由紀夫氏ではないかと思う。相打ちや、三方1両損は鳩山由紀夫氏の得意技である。

button  今回の政権交代は薩長連合の復活でしか無い
button  今からは除染の時期、空中線量より地面の線量




2011.11.02 Mint