福島第一原発の事故原因は人災の可能性が高い

FUKUSHIMAレポート」を参考にする
 福島第一原発の事故調査を行っている団体は公的私的を含めて複数あるが、自主的な活動で事故原因をまとめ上げ出版された上記の本は必ずしも全てが真実とは限らないがかなり事故の本質を見抜いている。
 事故の本質は原子力発電所の全電源喪失事故では無く、本来格納容器に閉じこめる設計になっていた放射性物質が大量に原子力プラント外へ広範囲にまき散らされたかだ。つまり、福島第一原発事故とは、大量の放射性物資が広範囲にまき散らされた事故であり、原発が安全であるかどうかでは無く、大量の放射性物資が広範囲にまき散らされない方策を考えることが福島第一原発の事故の教訓を再発防止に生かす、事故調査の本質だ。
 福島第一原発で何故全交流電源喪失が起きたのかの原因究明では無く、何故、事故の影響が拡大していったかに着目し、大量の放射性物質をまき散らすまでに至る(第一原発1号機で水素爆発が起きた3月12日午後3時36分までの間)時間の何処かで水素爆発の原因である炉心のメルトダウンを防げなかったのかに本書は着目している。
 福島第一原発1号機の地震による直接の損傷も疑われる(建屋の放射線量が3月11日21時に急激に上昇している。但し、燃料棒の被覆管が熔けて気体状の放射性物質が出たとの説もある)が、この直接の損傷では放射性物質が大量に広範囲にまき散らされたりはしない。
 津波による全電源喪失(15時41分頃)でも放射性物質が大量に広範囲にまき散らされていない。地震直後にはスクラムには成功しており、電源喪失が起きても最後の砦として稼働するIC(アイソレーション・コンデンサー)も稼働していた。
 ここまでは原子炉は制御下にあった。制御下にあったから放射性物質が大量に広範囲にまき散らされることも無かった。

「ベントしろ!」は何の意味も無かった
 格納容器の圧力が上がったので格納容器の爆発を恐れた菅直人総理は圧力を下げて注水を可能にするために「ベントしろ!」と叫び続けたが、この時点では消火用の消防配管から水を注入出来る圧力まで下げれば良く、ベントは当然の選択肢であった。
 福島第一原発の吉田昌郎所長も本社の問い合わせに「とにかく冷やす水を持ってこい」と叫び返しているので、この時点ではベント以前に冷却水が不足していたと思われる。
 このあたりを察したのが米軍で原子力空母に積載されている冷却水とホウ酸を利用しようと日本側に打診してきた。もっとも混乱の局地にあり米軍の提案に対して「意味わかんなぁい」状態の政府は的確な返答が出来なかったのだが。
 話が逸れた。
 当時一番必要だったのは冷却水であるが、これは最後の砦であるICが稼働している時間内に手配し手を打たなければならない。電源回復が一番望ましいが、ICの規定時間(1号機で8時間)の間に回復する見込みは無い。マニュアルによれば、最後の砦であるICが規定時間動いた後、電源回復が不能であれば海水注入による原子炉冷却を行うとされている。
 実際には1号機においてはICの機能を誤ってか過失で止めてしまう操作ミスがあったので、本来ICが担っている最後の砦が機能する時間が短くなり、燃料棒の熔解は11日19時30分頃との予測(東電発表、経産省追従情報)があるが、この時点でもまだ最後の砦は動いていた。ICの操作を誤らなければ燃料棒の熔解はさらに7時間先に延ばせたと言われている。
 12日5時46分の消防ポンプによる淡水注入再開(量的には少なすぎる水量だった)まで、実に14時間9分も注水による炉心の冷却が止まっていた。水素爆発の15時36分までの間、燃料棒熔解から20時間(東電発表、経産省追従情報)の間、原子炉はそれでもまだ制御下にあった。
 正面入り口のモニタリングポストの値は12日4時00分まで0.07μSv/hと正常範囲、4時30分に0.59μSv/h、7時40分に5.1μSv/h、水素爆発直前の15時29分には1号機北西敷地境界付近で1,015μSv/hと急激に増加する。
 1号機水素爆発によって放射性物質が大量に広範囲にまき散らされたのだ。
12日19時4分になって吉田昌郎所長の独断専行で海水注入が開始される。これは水素爆発の後だ。

1号機の教訓を生かせずに3号機も水素爆発
 3号機は13日9時25分頃消防ポンプにより、2号機は14日19時54分に同じく消防ポンプにより海水の注入を始める。2号機は建屋のブローアウトパネルが1号機の水素爆発の影響か地震の影響で開いていたので水素ガスを逃がしていた、3号機のみ再度水素爆発を起こした(正確には3号機からの水素の漏洩で4号機の建屋が吹き飛ばされた)。1号機で燃料が冷却されないと燃料棒の熔解が始まり水素が発生し、それが建屋の上部に貯まって爆発することは経験済みであったにも関わらず、同じ事故を繰り返し起こしてしまった。
 当時の官房長官だった枝野氏は「想定内の水素爆発」と3号機の水素爆発を会見で称していたが、実際には防げたにも関わらず的確な対応が出来なかった故の三号機の水素爆発であった。
 原子力発電所プラントの事故の本質は再度述べるが「放射性物質が広範囲にまき散らされた事故」なのだ。その意味で対策は一義的に「広範囲に放射性物質がまき散らされない方策の立案」であり、二次的には「仮に、そのような事態になったときに的確に避難する」だろう。
 もちろん前者が担保されるのが安全管理であり、後者は危機管理の範疇である。共に事前に準備することは可能である。
 原子力発電プラントの最後の砦であるICやRCICが稼働を始めたら、この間に復旧作業を進めるのか、それとも海水注入を行うのか、この判断が電力会社の経営判断に委ねられているのが今回の福島第一原発の事故が「放射性物質が広範囲にまき散らされた」に繋がった原因であろう。
 再発防止には最後の砦はあくまで経営上の最後の砦、つまり、原子力発電所を健全なまま守る安全対策の砦であり、本来、「放射性物質が広範囲にまき散らされる」事故に対する危機管理としては、最後の砦に頼るのでは無く即刻海水注入だろう。日本の原発は冷却が容易な海岸線に建設されている。原発の管理は一義的に電力会社になるが、国の危機管理の観点からは最後の砦イコール危機の始まりなのだから、電力会社の管理を離れ、法律で強制的に海水注入による炉心冷却を規定すべきだろう。現在の緊急時マニュアルはIC等の稼働停止後の処置として海水注入を位置づけている。
 この電力会社と国の管理責任の移転を法律で明記することが原発再稼働に向けて用意しなければならない危機管理のひとつである。
 但し、加圧水型原子炉には別な危機要因があるので、こちらも電力会社の権限と国の権限を別な視点から線引きする必要がある。一般的に福島第一原発1号機のような古い原発は少なくRCICによる長時間稼働可能な最後の砦が各原発には設置されている。この場合の判断は時に応じてケースバイケースで行う必要がある。しかし前提は「広域に放射性物質をまき散らさない」ためにどうするかが国家の危機管理として最優先される。
 事故防止のために安全管理の徹底を表明するのは容易だが、そこには事故に学ぶ経験則が生かされていない。再発防止には事故原因の究明がまず無ければならない。そのために事故原因究明は迅速に行われなければならないが、今現在まで、事故原因を再発防止に生かす事故調査本来の目的達成は遅く原因究明が後手後手で再稼働に向けての対策が説得力を持たなくなっている。
 ※上記の記載時間の特定は原子力安全・保安院の資料による。

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2012.03.31 Mint