技術的根拠無し。原子炉40年で廃炉は妥協の産物

原子炉の設計寿命は30年
 前にも書いたが、機械は設計時に設計寿命を設定する。それを元に各部品の耐用年数が決められ、それが全体の設計寿命を下回ることが無いよう、必要があればフェールセーフの設計を行い、設計寿命以前に壊れることが無いようする。
 例えば、人工衛星の寿命だが、これは割と単純で姿勢制御する燃料の消費量が当初積み込んだ燃料に達したときにガス欠で寿命が来る。ただし、地球周回軌道を回っているので墜落とは直接結びつかない。あくまで姿勢制御が可能で設計能力発揮が可能な期間である。そのため、設計軌道に投入する時に予定以上に姿勢制御用の燃料を消費すると設計寿命は短縮する。逆に、思いのほか姿勢制御が上手く行って姿勢制御用の燃料が残ると設計寿命は延びる。
 原子力発電所の設計寿命は30年に設定して設計を始めている。これは大前研一氏が自ら設計に携わった経験から各地で述べている。
 今回の政府決定が「原子炉は40年で廃炉」と述べているので、原子炉に限ったものか、原発全体に及ぶのか不明であるが、ま、ここでは原子炉から発生する蒸気がタービンを回して復水器で水に戻されて再度原子炉に戻る一連の原発プラントを指していると解釈しておく。
 ちなみに、研究開発により様々な原子炉が考えられているが、キャンドル炉あたりはこの制限だと1回も燃料交換を行わないで廃炉になる可能性もある。また、トリウム原発もその規模によっては40年を経ても稼働可能だが廃炉になる。これらの新原子炉も含まず、とりあえず現在の設計寿命30年で設計された加圧水型と沸騰水型の原発プラントと考えておく。
 設計寿命30年で設計された原発プラントが政府の決定で40年になったのは何故か。なんら根拠の無い40年を追求するマスコミは無い。

妥協の産物40年で再発は防止できない
 福島第一原発の1〜4号機は以下のような建設年表になる。但し、4号機は定期点検中で原子炉には核燃料は収納されていなかったが、使用済み核燃料プールが問題を起こした。
1号機1971年3月26日営業運転開始
2号機1974年7月18日営業運転開始
3号機1976年3月27日営業運転開始
4号機1978年10月12日営業運転開始

2012年時点で1号機が40年を超えている。もっとも、上記の福島第一原発は4号機も含めて廃炉へと進むので、今回の政府決定の対象には成らない。国内で稼働後40年を超えている原発プラントは以下のようになる。
日本原子力発電駿河1号機
関西電力美浜1号機
これ以外に、数年で40年に達する原発プラントもある。日本原子力産業協会の詳細はここ
 設計寿命が30年だから30年を経たら廃炉にすれば良いと思うが、なんやかんや理由を付けて引き延ばししてきた。既に40年を経た原発プラントが稼働しているのだから、それより短い30年と発表する訳にも行かない。かと言って50年では国民の理解が得られないだろうって、まったく科学的では無く政治的妥協の産物として40年廃炉説が出てきた。
 そして、それが政府見解となって法制化される。
 先に福島第一原発は40年前の技術で作られているでも述べたが、想定される危機のハードルが徐々に高くなり、それに対応してきた新しい原発プラントと古い原発プラントでは危機管理対応のレベルが違う。そもそも、福島第一原発の1号機、2号機、3号機、それぞれが全電源停止の場合の対応方法が違い、備えられている機器も違っている。新しくなるほど全電源停止に耐えられる最後の壁の機能は充実している。
 それを上手に使えなかったのが今回の事故にどれだけの割合で関与しているかは、正式な事故調査報告書を待たなければならないが。
 「新しい原発プラント程安全である」は、それを操作する人的資源にもよるので必ずしも的を射ていないが人的資源は訓練によってスキルを向上出来る。設計されて設置された機械は訓練など出来ないから、それが持つ安全度は設計時に決まっている。やはり「新しい原発プラント程安全である」は、ある意味正しい。

問題はその差10年の原発プラントの再稼働
 ストレステストだなんちゃら言っているが、問題は設計寿命30年を過ぎた原子力プラントの再稼働である。設計者の側からは寿命が尽きた原発プラントであるが、技術を離れて政治的に経済論的に再稼働させた場合の事故の責任はどうなるのか。結局「想定外」で事故を繰り返すことになるのではないか。
 まず、発想を変えることだ。日本で必要な電力量(場合によっては経済的理由で決めても良い)を精査し設定する。原発プラントを新しい順に並べて、必要な電力量を上の原発プラントから順番に割り振っていく。その原発プラント数が30年を超えたものに達したり、ストレステストで危険度が高いものに達したら原発からの選定は終了。残りの電力は水力、火力、自然エネルギーに割り振る。もちろん電力会社によってはそれでは発電量が不足する所が出てくるだろうが、そこは送電系連携に設備投資して整備する。送電系連携設備は北本連携の電源開発(株)にように電力と別な会社が運営しても良いだろう。
 これで安全で必要最低限に原発プラントの絞り込みが可能になる。
 原子力プラントの再稼働は国益の問題だから、全国に平等に安全な原子力プラントの再稼働をお願いするには、このような方法が必要だろう。
 政治家てのはほとほと科学技術に疎いと思うのは、降下した放射性物質の除染後の廃棄物を「福島の痛みを全国でわかちあう」なんて言って全国に分散しようとしている。これが政治家だ。科学的根拠を持たない。半減期数万年の放射性物質をなんで好きこのんで日本国土のばらまくのか。家の横の生ゴミと訳が違うのだ。そもそも放射能は「とじこめる」が基本の基本だったのではないのか。
 それに比べると原発プラントの「全国でわかちあう」は科学的な根拠と合理性と民主制を保てる策だ。政治家がバカな発言をしなければ、最も原発プラントの再稼働に近い方法だと思うが。

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2012.02.01 Mint