津波原因説なら事は単純
東京電力の報告にある「事故は津波が原因」は単純すぎるのだが、結局、津波により全電源喪失が起きたってことだ。津波に襲われて原発施設が壊れたのでは無いと主張している。逆に読めば全電源喪失は津波によるもので、津波対策を行えば全電源喪失は防げるとも読める。ま、読めると言うより主張している。
原発の発電原価の計算に津波発生確率を考慮して計算し、現在の5割増しのコストとかでお茶を濁しているのは、この「事故は津波が原因」からの類推に他ならない。
一方、1)東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(委員長の畑村洋太郎)(今後は長いので「1)事故調査委員会」と表記する)の中間報告では「地震による配管の損傷が事故原因」と結論づけている。東京電力がメルトダウンに至る一連の計測データを提出しているが、これは事故発生時の正確なデータと言い難い。意図的かどうか別にして現場の作業員の体験やメモと合致しない。そこで現場の作業員の体験とメモに立脚して事故原因を推測すると地震発生直後に福島第一原発は重大な損傷を引き起こしていたと結論できる。
この論調は福島第一原発四号機の設計に携わった田中三彦氏が9月に雑誌「科学」に発表した論文に書かれている。また、地震直後に上から水が降ってきたとの現場作業員の証言とも合致する。
福島第1原発に設計責任は問えないにも書いたが
福島原発危機 現場ジャーナリストが伝える「生々しい証言」にも配管からの大量の水漏れの証言がある。
ここでは「津波原因説」と「地震原因説」として、両者を検証してみる。
再度繰り返すが、事故原因はトリガーだけでは無く、事故拡大に至ったプロセスこそが重要で、単純にこの二つのみに事故原因を二者択一するものでは無い。
原発再稼働に向けての思惑
事故原因は先の2つだけに絞ると、再発防止の論点が見えてくる。
「
津波原因説」では津波への対応がしっかりしていれば原発が再度事故を起こすことは無いとなる。そのための対策として数年掛けてより高い防潮堤を築けば危険は回避される。だから、その時は原発を運転しても安全だとなる。
しかし13mの津波に対応出来たと言っても15mの津波ならどうするのか。またその時は「想定外」と言って責任を回避するのか。そのようなツッコミへの再発防止策としては全電源喪失の場合に外部電源車や系統の二重化により全電源喪失を回避するオプションを取り付けたり準備することで対応する。今後、全電源喪失は起きない対策を講じるとしている。
一方、「
地震原因説」では事は簡単には進まない。震度6以上の地震で原子力発電設備の配管を中心とした循環系が壊れた。原子炉そのものでは無く、原子炉から熱を取り出す配管や原子炉に冷却水を戻す配管、加えて海水を利用した復水器と原子炉を繋ぐ配管。この何処かに破断が発生すると、発生箇所によっては致命的な原子炉暴走を引き起こす。今回は緊急炉心冷却システム(ECCS)が十分に稼働せず、ICやRCICが最後の砦として稼働したのは津波の前であった。実際に一号機のICが稼働したのは14時52分である。津波が到達し全電源喪失が起きたのは15時37分であった。経済産業省原子力安全・保安院が冷却水が通過する配管に0.3平方センチの亀裂が生じたとしてシミュレーションすると結果が合致する。
この場合、「そもそも設計段階で今回のような震度に耐えられなかったのだ」となる。今回のような大規模な津波は1000年に一度かもしれないが震度6程度の地震は日本では年に数回起きている。そんな現状から一気に原発のリスクは増大する。耐震設計の見直しにより震度6に耐えられない原発は廃炉しか無い。外付けオプションで対応できる範疇では無いから。
とにかく40年も使い続けたのが間違いだったって意見の多くは「地震原因説」に近い。40年の間に何回か危機的揺れを耐えてガタが来ていた。刈羽崎原発が地震で損傷した例に同じく、ストレス・テストでシミュレーションした結果、耐震構造不足で廃炉になる原発が出てくるのが「地震原因説」だ。
原発の再稼働は最新の耐震基準に合致した一部の原発に限られる可能性をふくんでいる。
国民は、どちらの説に納得するだろうか。
もっとも、東電と通商産業省が原因の特定でさや当てしているのは意味が無いのかもしれない。何が原因でも放射能を外に漏らさない対策こそが原発再稼働に必要だとも思うが。