原発の新安全基準案の緊急対策13か条

まずは、その内容だが
 1)所内電気設備対策
  (1)電源車の配備
  (2)建屋の浸水対策
  (3)電源車の多様性と多重性の強化
  (4)電源車等の接続ケーブルの配備
 2)冷却・注水対策
  (5)緊急時の対応計画やマニュアルの策定
  (6)消防車・ポンプ車・消火ホースの配備による代替注水機能の強化
  (7)消防車・ポンプ車・消火ホースの配備による使用済み燃料プールへの給水
  (8)消防車・ポンプ車・消火ホースの位置的分散
 3)格納容器・水素爆発対策
  (9)緊急時対応計画の策定(低圧注水へに移行手順)
  (10)空気駆動ベント弁用の窒素ボンベ等の配備
 4)管理・計装設備対策
  (11)電源車による通信機器への通電
  (12)プラント監視設備への給電
  (13)緊急時対応機器等の点検、訓練の実施
 昨年の5月にメルトダウンを認めた頃までに報道されていた内容で「福島第一原発の失敗」をかき集めれば導き出される対処療法だ。
 今更の感がいなめない。大前研一氏が「何が何でも炉心の冷却を確保する」のが安全対策として報告書を発表した内容を後追いしただけに見える。対策の30項目が公表されたのが2012年3月。一年かかった。そして、野田佳彦総理から「具体的対策を」と指示を受けて、、2日でこの30項目から13項目を選び出した。何故、こんなに手間取るのか。決める気が無いとしか思えない。
 決めると責任が伴うので何もしない無責任体質が、ここに来て夏の電力不足が目前に迫り、逃げ切れない結果、前から転がっていた古い資料を焼き直し(経済産業省原子力安全・保安院が決めた30項目)、その焼き直しから電力会社から合意を得られそうな13項目を選び出して政治決定しただけのまやかしだ。
 何故なら、既に電力各社は対応に向けて活動を開始している。それも福島第一原発の事故からすぐに整備を始めている。いまさらの後追いの安全対策が今回の政府発表の13項目だ。

既に対処済みの事柄を抽出
 この対策があれば福島第一原発は事故を起こさなかったと言えるかどうかは明確では無い。何よりも福島第一原発の事故調査と原因の究明が終わっていないのだから。13項目の安全策は福島第一原発で困ったことへの対処方法であって安全対策では無い。うがった見方をすれば、菅直人総理が自分の携帯電話で電話しまくった項目の羅列かもしれない。
 しかも、その一部は完備する計画を事業者が着手予定を立案するだけで再稼働は可能とするいいかげんなものだ。原発再稼働に向けては安全対策が必要なのであって、対処療法の個別設備の増強が国民の不安を払拭するとは思えない。
 加えて、将来対処する工程表(好きだなぁ民主党は工程表が)を提出すれば安全対策を取る姿勢を評価し安全だと認める。なんとも論理矛盾な話がまかり通っている。
 何時、来襲するか解らない自然災害に対して対処計画が有れば安全ってのは何処から出てくるのか。今にも地震は起きるかもしれない。少なくとも、民主党が政権にある間に地震が起きないって「そうあって欲しい」って願望だけが先行している。早急に原子力発電を再開したければ、去年の福島第一原発の事故直後に「緊急対策」を発表すれば良く、しかも今回の対策は1年前に解っていたことばかりだ。
 本当に夏の電力需要が逼迫すると解って重い腰をあげたってことか。本来政治は先読みが肝心なのだが、まったく決められない政治は「ねじれ国会」ばかりが原因では無いだろう。
 原発の安全対策で無意味だと思う箇所は多々ある。例えば防潮堤の高さ比べだ。想定される津波より高くすれば安全ってのは勘違いもはなはだしい。現に福島第一では防潮堤から回り込んだ津波によって浸水している。福島第二でも回り込んだ津波の影響があった。
 それと海水注入設備の整備が盛り込まれていない。的確な海水注入により燃料棒のメルトダウンは防げる。ただし、原子炉は廃炉の運命を辿るが。これが一切明記されていない。

政府の体制見直しは何も無い
 福島第一原発の事故で政府の対応に見直す点が無いとは思えない。しかし、今回の安全対策は電力会社に対する上から目線に終始し、政府の原子力発電所災害対策の見直しにはまったく触れていない。次回は「ベントしろ!」と叫ばないってことでも確約してくれればと思うのだが。
 SPEEDIの迅速な利用と避難命令。当面の同心円状の退避地域に加えて、風向きによる警戒地域の明確化が必要だ。
 最近の放射性物質の降下量の測定結果を見ると原発から放出されていないにも関わらず放射性物質の降下量の増加が見られる。あくまで降下量なので、どうも一度降り注いだ放射性物質が風によって空気中に舞い上がっているようだ。除染の実施に加えて繰り返し風に舞う放射性物質の吸引の危険性も広報し対策を促す必要がある。
 原子力発電所の事故は一義的に電力会社に責任があるが、原子力プラントの事故により大規模災害が想定されるときに政府がどのように関与していくかは未決定だ。それ故に、一国の総理大臣が数万の行方不明者が出ている津波災害を無視して原発事故にのみ専念し、現場にヘリコプターで飛ぶ前代未聞の事が起きる。
 事故後アメリカ政府から指摘されたのは「アメリカでは大統領は複数の意見を聞いて決断はする。自らが考えて行動するのは大統領の責務では無い」と当時の菅総理大臣の対応が前代未聞だったことを指摘している。
 自然災害は初動72時間が勝負と言われるが、こと津波被害に関しては初動72時間は原発事故に持って行かれて無策に過ぎてしまった。
 そもそも2011年3月13日の東日本大震災(政府は災害名すら1ヶ月も決められなかった。故にNHKへの募金名は東日本大震災では無い名称になった)後に発表された辻元清美災害ボランティア担当首相補佐官ってのはその後何の仕事したのか。そうそう、蓮舫行政刷新担当相の節電計画等担当相も何を仕事したのか。政府が本来やるべきことは何だったのか。真実を伝えると国民にパニックが生じるって報道姿勢がまともなものなのか。そのあたりも原発再稼働に向けて政府内部の事故対策の見直し課題であり、国民は対策を知りたがっている。
 「安全って言ってますから」だけでは国民は納得しない。そもそも福島第一原発事故で正しい情報を伝えなかった政府は、安全・安心の面で信用されておらず、原発再開はマイナスからのスタートになることを肝に銘じ、説明責任を十二分に果たすことだ。

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2012.04.10 Mint