伝家の宝刀に手を掛け消費税増税を目指す野田総理

衆議院解散は自らの政治生命を絶つ
 そもそも、マニフェストで否定していた消費税を「上げるのは任期後でマニフェスト違反では無い」と強弁していた野田佳彦総理大臣だが、民主党の総意をまとめ上げられないままに、自ら作った既成事実で6月21日の国会閉会までに消費税造成を採決しなければならない事態に陥った。輿石東氏の引き延ばし路線に乗ることも無く自分を追い込んでしまった。
 しかも、6月11日には消費税増税法案が国会を通らなければ衆議院を解散すると受け止められる発言を行っている。「政治生命を懸けるってことは、成立に向けて万難を排すること」とは、小泉純一郎元総理の郵政法案と同じ手法で衆議院を解散して総選挙に向かうって意思表示だ。
 しかし、国民の圧倒的支持があればこそ争点を一点集中して選挙を戦えるが、今回は大飯原発再稼働等、国民受けってレベルでは逆風が吹き始めている。とても勝算のある選挙にはならないだろう。
 衆議院解散は総理大臣の特権事項。正確には内閣の決定なのだが、反対する国務大臣は罷免し総理大臣が兼務して内閣一致をはかるので、ま、総理大臣の特権事項と称しても良いだろう。その衆議院解散総選挙は総理大臣の伝家の宝刀である。戦略的に持っていることをちらつかせるものだ。見せるのでは無く使うと言ったら(決めたら)国会は混乱し、選挙対策一色で国政の場では無くなる。では、何故に伝家の宝刀の柄に手を当てたのか。
 野田佳彦総理大臣は多くの評論家が予想するような政治手法は取らない。根回しもしない(出来ない)し、野党との交渉も自らは行わない(出来ない)。政治手法としては単純なのが逆に多くの評論家が先を読めない要因かもしれない。
 単純な野田佳彦総理大臣は民主党内部に向けて「反対するなら衆議院解散の自爆テロを行うぞ」と恫喝したつもりかもしれない。内向きの恫喝が外向きの失策に繋がると考えないのが野田佳彦総理大臣の単純明快さなのだが、今回はどうも逆効果になるだろう。

衆議院解散を一番望んでいるのは自民党
 内部向け恫喝で衆議院解散を臭わせたが、一番衆議院の解散総選挙を望んでいるのは野党自民党で、消費税増税法案否決に傾く可能性が高まった。つまり、伝家の宝刀に手をかけたら内部は恐れたが外部は喜んだってことだ。なんとも、政治手法として稚拙なのだが、これもまた野田佳彦総理大臣らしい所かもしれない。時の総理大臣が自爆テロなんて仕掛けるのは常識的には考えられないのだから。
 自民党も消費税増税は選挙公約なのだから賛成派が多いだろう。ここは自民党と組んで消費税増税法案を可決に持ち込もうって野田総理の思惑は、実は大きなボタンの掛け違えをしている。
 自民党の中には民主党に消費税問題をおっかぶせて増税させておいてから政権交代を目指せば良いって意見があると風評が流れるが、どっこい、腐っても自民党である。小手先の政治手法に若手は付いてこない。「税と福祉の一体改革」なんだから福祉の議論をしっかりやってから税を固めるほうが国民の理解を得られるって考える若手が多い。
 自民党内では衆議院解散の確約が取れない執行部への不満も渦巻いている。これが9月の自民党総裁選挙では谷垣総裁は再選されないだろうとの読みに繋がっている。もちろん、消費税増税に「政治生命を懸ける」と言った野田総理も消費税増税法案いかんによらず9月の民主党の代表選挙で再選されないと言われている。
 政治の膠着状態は政治家の一新によって解消する。どうも、国民は両党の代表選挙よりも日本の政治の形を変えることを望んでいる。政党政治の危機と言っても良いだろう。そのための政治のリブートが必要だが、そのためには選挙が必要になる。
 実は野田佳彦総理大臣が抜こうとしてる伝家の宝刀は国民も望むところだ。

倒幕に向けて選挙が第一
 民主主義国家において倒幕は国民の意思によってなされるもので、その意味では現在の幕府が「詐欺師とペテン師の集まり」であるならば、当然、国民は選挙によって倒幕する権利を有する。
 これについてはは一部の自民党の国会議員、みんなの党、大阪維新の会あたりが同じ意見だ。そのために、破れかぶれで野田佳彦総理大臣が伝家の宝刀を抜くことは望むところだ。
 その鍵を握るのは本家が自民党であり元祖が小沢一郎氏だろう。
 実は原口一博氏が菅直人政権時に徹底的な小沢排除に関して「今の民主党は新撰組に乗っ取られた状態」と関西の「たかじんのそこまで言って委員会」で述べている。政権奪回のために党内の新撰組と戦おうとして海江田万里氏を立てたのだが、結果は惨敗だった。ま、玉が悪かったってことだと思うが。
 民主党内で新撰組と戦って惨敗した小沢派は政党を割ることなく政党内に留まるのは自らに倒幕の力は無いが、現幕府が何らかの失策で倒れたときに政権返り咲きのチャンスが新党派を立ち上げるより容易だとの読みだろう。それには「選挙が第一」の小沢派には衆議院解散が格好のチャンスになる。
 前回は党内勢力争いで敗れたが、今回は消費税増税をめぐって黒船の自民党が居る。黙っていれば黒船は倒幕のお膳立てをしてくれる。ここは、目立たぬように行動して衆議院解散総選挙に持ち込むのが得策と考えているだろう。
 本家と元祖が好き嫌いは別にして共通の価値観で歓迎するのが野田総理大臣の「政治生命を懸ける」と「法案が成立しない時には重大な決意を持って対処する」の発言だ。
 そして、これは脅しとして効果を発揮せず、衆議院解散総選挙が既定路線になってしまう危うさを含んでいる。総理大臣の「空気読めない」不用意な発言と言わざるを得ない。

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2012.06.12 Mint