福島第一原発の事故原因が絞り込まれてきた

1年3ヶ月は長すぎる調査期間だが
 先に書いたように福島第一原発の事故の教訓は必ずしも他の形式の原子力発電所にそのまま反映できるものでは無いが、これだけ広域に被害をもたらした福島第一原発の事故原因を明らかにすることは原発事故の終息に向けて次のステップへの登竜門になる。
 民間事故調(東電への調査は抜けている)、東電事故調、政府事故調、国会事故調の調査報告が出そろった今、事故原因へのアプローチはかなり煮詰まってきている。
 事故原因と事故の責任者が明らかになることにより民事裁判で損害賠償を求める相手が明確になるからだ。今までの被害者への保証は不完全な法律「原子力損害賠償法」が根拠となり、国と企業の責任をあいまいにした「国策民営」の原子力発電の万が一の事故(3.11までは想定外だったのだろうが)を担保するものだった。今後は民事裁判ベースで損害賠償を個々に求める道が開けた。
 もっとも、1年3ヶ月におよぶ調査期間の間に、おおむね事故原因はこのあたりかって推測は多く出されていた。先に紹介した「FUKUSHIMAレポ−ト」に類するものが沢山出版されている。中には事故原因調査を称しながら、明らかに立ち位置は国側とか東電側ってものもあって注意を要するが、おおむね今回の事故報告書が示している事故原因は絞り込まれてきた。
 今回は事故の範囲を「大量の放射性物質が何故、原子力発電施設外に拡散したか」の視点で分析してみる。原発被害に遭われた方が一番重視したいのは、「何故、被曝を防げなかったか」だと思うが、この視点では別途考えるとして、今回は原発施設外に放射性物質が拡散するまでに留める。後者は事故拡散調査として工学的範疇を超えるものになると思われる。
 そして、それは「安全神話」の中で何が行われていたかであって、工学的事故原因へのアプローチと異なる。原子力交付金で地方自治体がガイガーカウンターの1台も買っていない事故前の状況をどう考えるかって範疇で、今回は省略する。

原子力発電は工学的に未成熟か
 残念ながら津波による全電源喪失以前の地震による損傷はどの事故調査報告書でも明らかにされていない。現場である原子力建屋が後の水素爆発で損傷し、機器の地震による損傷状態が明らかに出来ないためだ。しかし、事故直後の避難所での原子力発電作業員の証言では「地震後パイプがぶつかり合って水が降ってきた」の証言がある。また、建屋の地下2階には大潮の時には海水が染みこんでいたとの証言もある。このフォローは各事故調査報告書では触れられていない。
 おおむね、地震によるスクラムは成功したとなっている。実際に老築化による安全性の低下がどの程度あったのか。これは定期点検時の資料を調べれば簡単に解ることで、あえて触れなかったのか、それとも事故の主眼を全電源喪失に置くあまり、漏れてしまったのか定かでは無い。航空機事故調査の報告書と比べると近視眼的な印象はいなめない。
 地震による直接の損傷は有ったかもしれないが、事故全体に比べたら大したことは無いってスタンスだとしたら、重大な安全管理の哲学が抜けている。いまさら廃炉になる福島第一原発の事故調査をしても意味が無くなる。事故を防ぐ教訓を放棄しているからだ。設計時想定していた地震のエネルギーより大きくても、それほどまでなら耐えられるのか。そして、事実耐えたのか耐えなかったのか。この項目に関しては未知のまま残される。
 巨大津波は想定されていたか。これは愚問である。東電の言う「想定外の巨大津波」に理由を求めるのも自己弁護である。原子力発電プラントが事故を起こしたのは津波が原因では無く、全電源喪失が原因である。全電源喪失が何故起きたかでは無く、起きたときにどうすべきかが大切で、工学的に全電源喪失は「想定外」なら工学的欠陥が福島第一原発に有ったことになるが、全電源喪失時の対応は設計時「想定内」だったのだ。
 つまり、最後の砦は用意されていた。津波によるかテロによるか原因は何であれ、全電源喪失時の最後の砦の利用が適切だったのか問われる。

最後の砦を生かせない操作ミス
 福島第一原発の大きな原因は「操作ミス」と考える。この考え方を単純に捉えて欲しくは無いが、事故に対する対応の訓練不足、訓練不足による知識不足、さらに操作確認の欠如。これが最大の事故原因である。
 「なにせ、早朝でもあり、初めてのこともあり」とは阪神・淡路大震災の時の初動の遅れを付かれた当時の村山富市総理大臣の言葉だが、これに近い状況に福島第一原発も陥った。
非常時の操作を「想定外」として訓練していなかった。だから、操作ミスを繰り返し、炉心融解を招いてしまった。もちろん、工学的は炉心融解に至らないための最後の砦があり、これを十分に使いこなせばその後の水素爆発もそれによる建屋の損傷も起こらなかった。まして、放射性物質を施設外にまき散らすベントすら必要無かった。
 政府の内閣府原子力委員会は情報操作していると目の敵にされるが東電の事故報告を受けて2012年6月26日に近藤駿介委員長が評価している。読売新聞の記事なので後にリンク先を参照できないと思うので以下に引用しておく
内閣府原子力委員会の近藤駿介委員長は26日、東京電力が公表した福島第一原子力発電所事故に関する社内事故調査の最終報告書について、「国民に(安全に対する)思想や考え方を変えたと説明しないと、信頼を求めるのは難しい。そういう所に迫っていない」と苦言を呈した。
 同日の原子力委定例会で、東電が報告書の概要を説明。近藤委員長は分析が不十分な点として、緊急時に通常の手順で1号機の非常用復水器を操作したことを挙げ、「緊急時にとる手順ではない。考えられない。どういう教育なのか」と批判。
 操作手順書などは、絶えず新情報を得て改善すべきだとした上で、東電については「詰めが甘く、継続的な改善が不足していた。米国に事務所を構えて情報を取る能力を持っていたのに、新しい思想の潮流をとらえられなかったのか」と述べた。
(2012年6月26日20時36分 読売新聞)

 的確な批判であろう。1号機の非常用復水器(IC)の操作が的確では無かったと指摘している。もちろん、非常用復水器(IC)は最後の砦で8時間しか持たない。その間に海水注入の準備を行い、非常用復水器(IC)が機能を停止した後には海水注入を行うことになっている。
 事故後言われているのは
1)非常用復水器(IC)の停止後では無くて、稼働中に海水注入に切り替えるべきである。
2)民間企業である電力会社に廃炉の決断をさせるのでは無く、政府が法律で海水注入を命じられるようにすべき。
の2点である。
 実際に、この手順を正しく行えば炉心熔解は防げる工学的設計になっていた。それを十分生かし切れなかったので福島第一原発は水素爆発を誘発し、敷地外に放射性物質を拡散した。
 事故から得られる教訓は「ストレステストによる安全性の確認」ってことでは無くて、原子炉の多重防御設備を正しく最後の砦まで理解し、的確に操作する訓練の徹底である。
 全電源喪失を防げって政府の対策30ヶ条は意味が無い。それ以前に原因がなんであれ全電源喪失に対しての工学的多重防御が施されているのだから。これを的確に使えるスキルの充実こそが原子力安全対策の本命であり王道なのだから。


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2012.06.27 Mint