国会事故調査委員会は「人災」の用語を使うが

「人災」を使うには用語の定義が不明確
 「福島原子力発電所の事故は終わっていない」ではじまる報告書のダイジェスト版(全12頁)がhttp://www.naiic.jp/にある。
 福島第一原発事故を「原子炉で核燃料がメルトダウンした事故」と捉えるか「広域に放射性物質が拡散した事故」と捉えるかで、事故報告の内容が変わるとは前に書いた。今回の国会事故調の報告書は後者寄りだが、放射性物質が原子炉敷地から外部に拡散したプロセスの説明が弱い。
 全ての事故報告書が調査の切り口を明確にしているのだが、結局、事故調査の核心である「現物調査」が出来ていないのが原因で前者の真の意味での「原子炉事故原因調査」にたどり着けないでいる。
 今回の国会事故調査委員会の報告書はマスコミでは「人災」と結論づけたと報道されているが、では誰の人災なのかは報告書に具体的書かれていない。先にも書いたが事故調査は事故の再発防止の要となるが、それと同時に事故の責任者を明らかにして、だれが事故の償いを担うべきかを明確にし、今後の裁判の参考になるものだ。残念ながら国会事故調査委員会の見解は「誰がやっても同じことに陥った。日本の文化に起因する」となっている。ちょっと、事故調査の報告としては散漫であり、文化論に持ち込んでは「感性的エビデンス」に振り回されているとしか思えない。もっと科学的エビデンスを積み重ねた客観的な結論を導き出せないものか。
 現場検証の現物評価の出来ない事故調査委員会の限界なのかもしれないが。

今回明らかになった新事実
 とは言いながらも先の民間事故調、政府事故調、東電事故調による報告書と明らかに違う事実も数多く期さされている。以下ダイジェスト版(全12頁)の記載箇所とともに説明する。
 事故の発生プロセスは4ページ目から記載され始める。その冒頭でやはり現物調査が不可能な現状を認め、だから東電の言うように「想定外の津波」に事故原因を特定することには疑問を呈している。現物を調べることが出来ないのだから地震による損傷の有無は判断できない。それを地震には耐えたが津波にやられたと短絡的に考えるのは間違いであると指摘している。その前段で保安院と東電の共通認識として耐震性強化の計画があったが実施はあくまで民間企業の裁量としていた点も述べられている。
 特に1号機の地震による損傷はいくつかの聞き取りの結果、可能性が高いと指摘してる。小規模のLOCA(小破口による冷却水漏洩事故)が起きた可能性は高いとしている。また、問題になった1号機のIC(アイソレション・コンデンサー)の操作だが、第一に運転員が参照すべきマニュアルが無い、運転員は該当する事故を想定した訓練を受けていない等に加えてICのパイプに水素ガスが混入し、いわゆるベーパーロック状態で十分に水が巡廻しなかった可能性がある。また、事前にマニュアルや訓練が行われていない故に運転員の操作ミスとは言い難いと指摘している。
 また、2号機や3号機のRCICは正常に動作していたと結論づけている。実はこのRCICおよびICについては事故直後に山口栄一氏(同志社大学教授FUKUSHIMAプロジェクト委員長)が指摘していたのだが、東電はその発表直後「温度計の数値は信用できない」と変な理由で山口栄一氏の指摘を黙殺した経緯がある。今回の国会事故調査委員会の指摘は山口栄一氏の指摘を裏付けたことになる。
 特に事故の進行状況は本編(全641頁)に詳しいが、1号機に関しては先の地震による小破口からの冷却水の漏洩が有ったことを細かく推論を積み重ねている(本編151頁〜)。

当初は2号機に全力投入
 全電源喪失で挙動が解らなくなった2号機に気をとられて1号機への対応がおろそかになった。1号機は操作員がICによる冷却が急激で温度が急激に下がり過ぎる結果炉心損傷を招くので止めたってのが今までの情報だが、国会事故調査委員会ではそれ以前に小破口からの冷却水漏れがあり、原子炉からの漏洩を確認するためにICを止めたと結論づけている。
 つまり、現場の運転員は損傷があって圧力が漏れているのを確認する必要性を感じていたってことで、これも小破口が発生していた可能性を推測させる。
 また、事故直後の作業員の証言にあった水が降ってきたも国会事故調査委員会では証言を把握しており、何の水であったかは特定できていない。(本編228頁〜)
 1号機のICの手動停止にも疑問が向けられている。東電からは「炉心の温度が55℃/h以上に降下したため操作員が手動でICの弁を閉じた」と発表されている。
 ICは福島第一原発1号機が稼働を始めてから一回も動いたことがない。しかし、圧力容器の圧力が上昇すると自動的に稼働を始める。自動稼働したら原子炉の温度が55℃/hよりも早く冷えるのなら、そもそもICは過剰性能である。それ以前に原子炉の温度がどのように変化しているかはメータで計るものでは無く、原子炉圧力容器の圧力の時間変化を追いながら計算する。しかも、1時間の変化を知るには1時間後に再度計算して前回との差を求めなくてはいけない。が、現場の操作員にはそんな余裕は無かった。つまり、温度勾配は誰も計算しておらず、知り得なかった。その知り得ないものを根拠にICを止めるのは説明が矛盾している。
 現場の操作員への聞き取りからは「圧力が急激に落ちたのでICだけなのか、IC以外に圧力を下げる(漏洩)原因が無いかの確認のためにICを止めた」との証言を得ている。東電の発表とは明らかに違っている。また、操作員は手順書に従いICの開閉を繰り返して原子炉圧力を緩やかに下げようとしていた。
 政府事故調では全電源(交流も直流も)喪失によりICの弁が閉の状態で止まってしまったと表記されている。しかし、前述のように操作員はICの弁を制御下に置いており制御が出来なくなったのは3/11の18:18以降である。そして、計算によれば18:00には燃料棒が露出しており、水素ガスが発生して配管の細管に入り水の流れを止めていたと考えられる。つまり、ICは発生した水素ガスにより機能を失ったと考えるのが合理的だと国会事故調査委員会は見解を述べている。
 1号機の圧力逃がし弁であるSR弁についても、政府事故調の動作したに対して動作していないとの見解だ。
 以上、上げるときりが無いのだが、本報告書は「政府事故調の見解には賛同できない」と政府事故調の見解を記載して後、国会事故調の見解を書いているので長くは成るが解りやすい。
 そして、要約編の最初にある提言1〜7の7番目で「国会に独立調査委員会の設置を」をあげている。調査報告書だが解らないことも沢山含まれている。今後、さらなる調査を進める必要があるだろう。  600頁におよぶ報告書だがpdfで入手出来るので、ダイジェストだけでは無く、本編も一読をお勧めする。
 で、本報告書の結論だが東電、安全委員会、保安院がしかるべく備えておかなければならなかったものを放置した「人災」と結論づけている。組織が起こした事故として、同じ組織なら誰がやっても「人災」は繰り返されるとの結論だ。この部分は事故調査委員会の結論としてどうなんだろうか。組織を作り直せば「防げる」のだろうか。
 原子力発電設備の耐久性や設計当時の技術、その後知られるようになった技術等、理工系から知りたいことはあまり記載が無い。文化系の事故報告書である。


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2012.07.07 Mint