原発の再稼働の道筋は一つしか無い

知恵のない政治家は政治主導出来ない
 知恵が無いから官僚から電通への丸投げで行われている公聴会。そもそも、2030年の電力エネルギーの原発依存度を0%、15%、20〜25%の中から選んで意見を聞くって前提自体が単細胞論議だ。単細胞で良いと判断するのは政治家が原子力発電の動向を理解していないから。主催する政府のエネルギー・環境会議(議長:古川元久国家戦略担当大臣)はマークシート方式のようなメニューで政策決定するのが正しいと考えているのだろうか。条件反射的にマークシートしか返答の方法が無いってこれまた戦後の偏差値教育しか知らないレベルの低い政治家の政治主導が陥る体たらくなのか。
 そもそも2030年に電力エネルギー作成の技術がどのように進化するのかまったく想定せずに、現在の電力エネルギー作成の延長線上にメニューを提示するのは技術革新への理解にはなはだ欠ける。こんな発想で「2番では駄目なんですか」ってのが今の民主党の科学技術理解の限界だ。
 2030年と言えば今から18年後だ。民主党が政権を持っているのはあと数ヶ月だから、机上の空論を税金を使って行うこと自体が無意味だと気が付かないらしい。
 福島第一原発の事故調査は各種出てきたが、核心を突いた事故原因は明らかにされていない。現地調査が高線量で阻まれるのと、水素爆発による建屋の損傷で機材の腐食が進み、仮に現地に入れたとしても事故状況を時系列に明らかにすることは今となっては不可能な面がある。
 日本の原発の稼働年数の一覧表がここにある(atom.csv、可能な人はエクセル形式で開くと参考になる)
 事故を起こした福島第一原発1〜3号機の稼働年を見て欲しい。
福島第一1号機1971年3月
福島第一2号機1974年7月
福島第一3号機1976年3月
福島第一4号機1978年10月
 どれも、稼働から30年以上過ぎている。また、4号機は3号機と建屋を共有しているのでリスクは実質3号機と同じと見て良いだろう。

廃炉か再稼働か線引する必要がある
 今回の福島第一原発の事故原因は各種報告書では核心に迫っていないと書いたが、「古い技術によって作られた原発を使いすぎた」って意見は業界を中心に多い。古い設計思想では原発に対する安全基準が未知数で現在から見たら不備な点が多々ある。
 個々の原発を設計する度に新しい技術を加味してきた。それは安全性の向上だけでは無く効率の向上、操作性の向上、つまり儲かるように技術を加味した面もあるが、基本的に安全が最大の「儲かる」なのだから、新しい原発のほうが安全であると言い切って説得するのは可能だろう(私自身は必ずしもその意見に組しないのだが、政治手法としての説得方法について述べている)。
 では、古い原発はどうするのか。ここはスケープゴート的ではあるが、廃炉にする。原発は発電を止めれば安全な訳では無いが、少なくとも稼働から30年を過ぎた原発は再稼働しない。廃炉の技術開発の試金石にする。これもまた説得力があるだろう。
 その線は何処で引くか。
 英語でワンジェネレーション(一世代)とは30年である。世代交代ってのも30年を一つの節目としている。つまり、30年前に設計された原発及びその原発と建屋を隣接する原発は廃炉行程へ進める。先の表では着工が1982年以前の原発は再稼働しないって結論だ。
 これでは原発廃炉で債務超過に陥るって電力会社も出てくるだろうから、少しゆるめて稼働から30年を経たもの。これだと日本の原発の19機が該当する。全体の1/3強だ。少し譲って再延長の10年を認めて設計から40年を経たもの。これででは4機しか該当せず、その中に福島第一も含まれるので妥協の産物にしては電力会社寄り過ぎるだろう。
 福島第一3号機+4号機以前とすれば14機が廃炉になる。このあたりが妥当な数字か。
 この廃炉原子炉は毎年リストアップされて2029年には北海道電力の泊3号機を最後に日本に原発は無くなる。

原発のスクラップアンドビルドが正しい政策
 原発が無くなって一安心ってのは、そもそもこのリポートの趣旨では無い。原発を単機保持しても定期検査時のバックアップが火力では採算性が悪い。おおむね原発は3機をもってワンセットで安定的に経済的に運用できる。
 では、廃炉にした原発の替わりはどうするのか。経済的背景が許すのであれば電力会社は新しい原発を作り30年のサイクルで回していく事業計画を作るべきだ。何故なら、ここまで増やしてしまった原発。それも使用済み核燃料の始末が決まらないまま積み上がった使用済み核燃料を廃棄する技術開発が必要になるからだ。その研究開発や実際の稼働には発電関連で電気料金によるしか無い。後始末のためだけに電気料金に上乗せするのは次世代への借金を残す。両輪備えて次世代に引き継がねばならない。
 原子力発電所プラントは開始から終了までのサイクルが確立されていない。確立すべき技術開発を後回しにしてきた。そして、ここで原子力発電から撤退しては放置状態を招く。
 特に、使用済み核燃料は各原発での保管の限界が近づき、仮に原発が稼働し続けていたとしたら、数年で保管場所が無くなる事態に陥っている。原発事故が無くても数年で原発が止まる事態に政治は何もして来なかった。何とかの一つ覚えで「核燃料サイクルの確立」と言って推し進めてきたが破綻したのは明らかだ。
 ここが原子力村の弊害で、村の中で決めたことは村の掟になり誰も見直そうとか辞めようとか言い出さないことだ。歴史は繰り返すが原子力村の状況は旧日本軍となんら変わりが無い。ましてや核燃料リサイクルはガダルカナル島の攻防戦と同じで最後「餓島」なるまで誰も辞めようと言い出さないのだから。ま、その人々を自力で糾弾出来ず極東裁判(東京裁判)になったのも同じ道を歩んでいるのかもしれないが。
 この原子力村だけが支配する原子力政策に新しいイノベーションが必要になる。再処理工場と高速増殖炉の方向を改め新しいイノベーションで切り開いていく必要がある。その原動力は「トリウム原発」に求められる。現実的に世界の趨勢も「トリウム原発」である。インドが実証実験を始め、中国は全面的採用を前提に技術開発に着手している。なによりも、1967年にアメリカで実証実験炉が3年稼働し、理論は確立されている。しかも、発電を行わなければ増殖炉として核種変更が可能な原子炉になる。
 途上国は発電を主体にトリウム原発の実用化を急いでいるが、日本は核種変更を中心に貯まった使用済み核燃料の処理(プルトニウムの核種変更)の技術開発を行うべきだ。そのためには今後世界で出てくる使用済み核燃料処理料を原資にする原子炉の開発で日本が最先端技術を確立し、次世代のビジネスへと引き継ぐのがまともな考え方だろう。
 原子炉の使用済み核燃料を地中深く埋めて捨てるのでは無く、再利用する技術を未来に残すのが世代間の不公平を招かない知恵だ。
 2030年には違った形式の原発が実用化されているだろう。日本がやらなくても中国がやってしまう。その時に化石燃料を燃やして発電してるのは世界で日本だけかもしれない。世界のイノベーションから取り残されるのだ。数ヶ月の余命の民主党に2030年なんか決められないのは明らかだ。せめて、廃炉の事業仕訳だけでもやっておくべきだろう。それ以降は別な政治家が考えることだ。
 18年あればトリウム原発の実用化、増殖炉化には十分間に合う。
 原発のスクラップアンドビルドは石炭から石油へのエネルギー変換の時に政治主導で炭坑のスクラップアンドビルドを行ったのと同じ手法だ。何故、当時は出来て今は出来ないのか。それは、当時は国益のもとに集った官僚と政治家が原動力となったが、いまは自己の利益のことしか考えていな官僚と政治家しか居ないからだ。
 石炭の時にやれた事が原発に対して出来ないはずは無い。官僚と政治家を入れ替えれば後から「失われた18年を悔やむ」ことにはならないだろう。


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2012.08.09 Mint