TPP参加で北海道経済は1兆5846億円の減少

立ち位置を明らかにしておく
 TPPを語る場合に恣意的に「最悪の憶測」をめぐらし、だから反対って論を張るヒョーロンカが多い。そもそもヒョーロンカの多くは不安を煽って反対か、メリットだけ論じて賛成のどちらかだ。
 私の立ち位置は初期の段階ではTPP参加反対であったが現在は賛成である。初期の段階とは民主党政権時代で、国内も海外もまるで政治が出来ない民主党の状況では国内で学級委員並の政治をしていても失笑をかうだけで済むが、外交面では未来永劫に渡って残る条約の締結であり、単に民主党の政権与党としての責任だけで済まされないからだ。
 明治政府が徳川幕府が結んだ不平等条約により貿易に多大の不利益を招いたのを解消する努力は大変なものだった。小村寿太郎や高橋是清が「日本を真の独立国にする」ために払った努力はまさに「政治主導」そものであった。
 もっとも、高橋是清は日露戦争の戦費調達に貢献した戦犯との意見もあるが、所詮、政治家とは人類の崇高な哲学よりは国益を優先する使命を帯びているもので、そのような話は哲学者に任せておけば良い。しかもヘーゲルが言うように哲学とは「ミネルバのフクロウは黄昏に飛ぶ」のだが。
 政権が自民党に替わってTPPへの参加を支持するようになった。何故なら、自民党政治は民主党と違い「過去に学ぶ」ことが出来る政治だから。ドイツの宰相であるビスマルクが「賢者は歴史に学ぶ、愚者は経験に学ぶ」と言ったが、少なくとも清濁併せ持つが、自民党には「歴史に学ぶ」知恵があると思う。だから、最近はTPP参加には賛成である。
 貿易において自国産業を養護する関税撤廃は世界の流れである。これが環太平洋におよんだのがTPPだ。各国は自国の得意とする分野で積極的に他国と貿易が出来るようになるのが良い。それこそが相互依存の国際連携であり、人類の効率的発展を促すために必要な手法である。
 先に「国益を優先するのが政治家だ」と書いたが、TPPの目的は政治家の国益を超えた所に存在する。各国が国内だけでなく国際的に得意分野で活躍するマーケットを広げるのがTPPの精神だ。

残念ながら北海道経済は打撃を被る
 立ち位置を明確にして、なおかつ地元の北海道経済への影響を考えると現状かなり悲惨な状況が想定される。タイトルにもあるように北海道経済はTPPで農産品が全品輸入自由化になれば1兆5846億円の経済減少が生じると北海道庁が試算している。マスコミも1兆5846億円を簡単に報道しているが、北海道のGDPが18兆円程度なので、実に北海道経済が現在の91%に縮小するって経済予測なのだ。
 1割弱の経済の縮小。これに対して現時点で北海道庁は試算を公開しただけで対策は明らかにしていない。あえて極端な表現を使うと(これは現状を正しくあらわしていないのだが)北海道の人口600万人の内、60万人(旭川市の人口を超える)が職を失うってことだ。歴史に学ぶなら北海道の多くの炭坑が閉山した規模を超える大規模な経済減少が起きるってことだ。
 積算の根拠を明らかにしておこう。
 試算は12品目に限ってTPP相手国11ヶ国との貿易で農産品の関税が撤廃されたことを前提にしている。12品目とはコメ、小麦、ビート、でんぷん原料用ジャガイモ、乳製品、牛肉、豚肉、小豆、インゲン、鶏肉、鶏卵、軽種馬である。
 仕事柄上記の農産品の携わっている職業人は影響を受ける。
 直接的減少は農家に及ぶが、その金額は4931億円の減少。関連産業(流通等)への影響は3532億円の減少になる。つまり、産業関連表の知識が必要だが(これは昨年まで私の大学の講義で受けられたのだけど)、これによって地域経済は7383億円減少する。合わせて1兆5846億円の減少だ。
 農産品が打撃をこうむるだけで俺には「そんなの、関係ねぇ!」と思っている人がいるかもしれないが、経済は金の流通量で決まるもので金が流れなくなるとどこかにしわ寄せが来る。自衛隊の駐屯地撤退で50軒もの飲食店が潰れた倶知安町の例がある。自衛隊が倶知安町の夜の街に落とした金額がまさに「金の流通量」が経済だったことだ。歴史に学ぶことだ。


反対するなら金をくれ!では済まない
 ま、ちょっと逆なのかな。
 日本の農業の将来像とTPPは分けて考えるべきだって意見がある。これはマスコミで特に先駆的と見なされているヒョーロンカに多い。が、決定的に違う。彼らは米作しか知らないで米作の統計だけ見て判断してる。もはや日本の米は日本の文化でしか無く国際競争力を持つ農産品では無い。
 しかも、まずいことに北海道は昔は外米とまで言われた不味い米を品種改良して来た。これも霧散するのだろうか。
 北海道の食料自給率は180%程度と言われている。が、食料自給率はカロリーベースなので、トウモロコシを四六時中食べるわけにも行かない。北海道庁の試算ではビートとでんぷん原料用ジャガイモが全滅するとなっている。たしかに砂糖とデンプンの国際価格には太刀打ちできない。で、何故か米が北海道庁の試算に計上されていない。
 米だけは聖域化出来ると判断したのだろうか。実は北海道米は全国区で着実にシェアを伸ばしている。地球温暖化のおかげなのか、北海道米は「おいしい」のだ。
 この米には778%の関税がかけられている。我々が7000円で買う米の輸入原価は1000円なのだ。もっとも、我々が外国産米に直接触れることは無いが。
 TPPは世の中の必然。だとしたら、影響を受ける産業(農家も含めて)は対策を早急に講じる必要がある。
 前述のように政治は「コメ」で動くので北海道農業の対応には弱いかも知れないが、まずコメの扱いについて考えたい。
 現在でも酪農家の出荷するミルク(牛乳)には生食用とか原料用の区分がある。牛乳として提供されるかチーズやバターになるかである。コメもこの区分を拡大したら良いと思う。現在でもコメは飼料用って区分がある。これに加えて醸造用を決めて、外国からの輸入米はずべて醸造用に区分する。
 実は安い日本酒を造るのだ。
 日本酒は世界で愛飲されているワインと同等のアルコール度数の醸造酒である。しかもワインに負けないサケの知名度がある。但し、国際価格がウイスキー並に高価格である。
 TPPによって安いコメが入手出来るなら、これを日本酒製造に回して、出来た日本酒を輸出する。これが、コメ問題に対する一つの解決策だ。
 北海道農業の主要産品については次回述べることとする。

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2013.03.20 Mint