砂糖(ビート)は生き残れるか?、小麦は?
農産品の中で砂糖は世界的にやっかいな作物だ。各国(特にEU)が補助金を出して保護している。国際競争力はブラジルが全貿易量の49%を占める(2011年)ほどの寡占状態にあり、各国とも補助金を使って自国砂糖生産を維持している。この理由は18世紀から紅茶やコーヒーを飲むようになって、値段の上下の激しい砂糖を安定的な価格にする歴史的経緯がある。日本も砂糖には328%の関税をかけて輸入を実質的に阻止している。
国際価格競争力は2倍も開きがある。現在の方法で生産額を1/2することには無理がある。但し、北海道においては農地の大規模化により1戸当たりの農業所得は耕作面積に比例して増えている。コストダウンも規模の効果で可能になっている。直播によるコストダウンは20%程度可能と言われている(農家の手間は増えるが)。また、政府が決める価格で高止まりなので、コストダウンの意識が農家に少ないと言われている。ヨーロッパ式の直播の普及(昔は直播だった)等、改良の余地はあるが、十勝3〜5連作の一角だが、一番手間がかかる作物なので、期間を設定し縮小に向けた戦略が必要かもしれない。
小麦は関税率252%であるとマスコミは伝えるが、正しくは上乗せ方式だ。ただし、日本の需要の90%が現在輸入にたよっている。国産小麦は10%程しか無い。この輸入小麦に関税を掛けてトン当たり17円を上乗せして国内に販売している。その額は農業会計の補助金の原資になる。
国産小麦の生産額は74万トンで金額は260億円。しかし小麦関連補助金は1300億円にもなる。まるで、原発の発電コストが安いのは研究開発に国が5000億円肩代わりしているのと同じ構造だ。
国産小麦はトン当たり12万5000円で販売されるが、製粉工場へはトンあたり6万円で引き取られる、この差額が補助金であり、国産小麦の半分は補助金ってことになる。その財源が関税なのだから、関税が撤廃されたら、原資に困ることになる。小麦生産が回っていかないこととなる。
消費量の10%を守るために費やすには半端な金額では無い。ここは、農業生産体系を見直す良い機会かもしれない。補助金農政からの脱却には小麦は格好の標的になってしまうだろう。
韓国農業に先進事例がある
実は、このように生産品目の商業価値がまったく無くなった事例が韓国にある。韓国は二国間協定であるFTAをやたら多くの国と結んだ。このため、ブドウなどはチリから入ってきてブドウ農家の60%が廃業に追い込まれた。
オレンジ、チェリー等も関税撤廃で輸入量が増えたが、こちらは作付けが少なくあまり影響は無かった。韓国も補助金で対応するかと言えば、1990年代から農業の解放は何時か迫られると先読みし、農業体質の強化を目的に施策を打ち出してきた。それが「119.3兆ウォン投融資計画」だ。
農業を続けることが難しい農家には廃業支援金(ま、補助金だな)、高齢農家には農地を担保に年金支給(土地利用の流動化)、農業からの退出を促す。で、リアイアした農家の耕作地利用として1)専業農家の育成、2)若手人材の育成、3)農家の所得安定、4)食品の安全性向上、5)環境にやさしい農業の促進、6)生命工学の活用、7)IT技術の活用、8)農村のセーフティーネットの拡充、9)農村への人と資本の流入促進を政策として掲げて行っている。
予算の年平均額は8500億円ほどで、現実に効果が現れているのは若手ベンチャー農家が生まれている点だ。規制緩和が進み農業の体質改善が進んだのだ。実際に農産品の輸出が伸びている。
おもしろい話では、学校給食で地産地消を義務づける条例が不平等だとアメリカから指摘を受け、税金で無償化している小学校は地産地消のまま、親が負担する中・高校は解放したが地方では条例で「地方で決めた栽培法で収穫できた農産品を義務づける」と条例を解消せずにひねった事もあった。
TPPと農業改革は別の論議だと言うヒョーロン家が多いが、TPPは農協の黒船なのだろう。既存の既得権益を守るような反対運動は国民のコンセンサスを得られないだろう。また、実際に現場で働く農家は、黒船対策を「国がどうにかしてくれるさぁ」などと見ていてはいけない。千載一遇のチャンスとして行動しなくては未来は開けない。
一番のリスクはここ数年の農業機械への投資だろう。農業機械は作物に合わせているので作付けが不可能になった農業機械は減価償却の原資も出ない。黒船到来に向けて守りの戦略と攻めの戦略の両立が必要だろう。