原発を輸出するには、技術開発の国策化が必要

福島第一原発は人災であった
 安全神話を信じた人災の面と実際に津波が到来してからの人災(オペレーションミス)の双方があるが、後者は関係各方面が特定されるのでマスコミは伝達していない。学者の報告書でも詳細には触れられていない。
 事故に至った経緯はメルトダウンを招いたことだが、IC(アイソレーションコンデンサー、通称イソコン)が正しく動いている間に次の手順である海水注入に取りかかればメルトダウンは防ぐことができた。つまり、過酷事故の最後の砦が開いてしまった(ICの稼働)時点で海水注入に全力を注ぐのが本来の事故対応である。しかし、「なんとかしよう」の試行錯誤が制御不能になるまでの時間稼ぎの最後の砦のICの稼働中にすら行われ、しかもICを止めてしまうってオペレーションミスを引き起こしてた。
 ICが動いたら海水注入準備が設計時の思想であったが、古い原発故か特に1号機では準備が遅れた。2、3号機に比べてICの最後9の砦の時間稼ぎは8時間しか無い。2,3号機は72時間の時間稼ぎが可能なように設計されていた。
 もちろん、過酷事故を事前に想定して多重の安全措置を講じておかなかったことも人災ではある。特に大量の放射性物質をまき散らした水素爆発は予見可能で、かりに予見出来ないとしても1号機が水素爆発した時点で予見もへったくれも無く3号機が水素爆発するのは明らかで、2号機のブローアウトパネルが外れているのを見れば、同じように3号機の建屋から水素を抜く穴が必要だと類推できる。浅間山荘事件の時のように鉄球をクレーンでブローアウトパネルにぶつけて壁に穴をあけるくらい思いつくだろう。また、それこそが現場で個別対応に忙しい部隊に対して後方部隊が考えなければならないことだ。
 それを1号機が(3/12)に水素爆発してから3号機の水素爆発(3/15)まで放置され続けたのだ。これもオペレーションミスである。
 このようなオペレーションミスは福島第一原発固有のものである。故に、福島が事故を起こしたから原発は危ないってのは多分に都市伝説的な風評である。
 ただし、別な原発に福島第一とは別な危険要因が潜んでいるのは事実だ。だが、福島第一原発と同じ形態の事故が起きる可能性は低い。なんせ、40年も前の設計思想でアメリカで設計された原発なのだから、福島の教訓を生かす、なんてのは科学的には意味を持たない。広義の意味で「福島の教訓を生かす」なら解るが、個別の原発に適用されるものでは無い。

その日本が原発輸出&国内再稼働
 先に書いたように日本の原発が全て福島第一原発のような事故を起こすのでは無い。また、技術開発によって原発の安全設計(あくまで、設計)は進歩している。原発を再稼働させない科学的根拠は乏しい。同様にエネルギーを必要としている外国に日本の技術で新たに原発を輸出することを阻止する科学的根拠も乏しい。
 しかし、一方ではアメリカと中国の間で新方式の原発稼働を模索している。トリウム原発だ。アメリカでは実証実験を行った結果を持っているし、中国は日本と違い電力は国策だ。日本のように「国策民営」故にコスト問題と安全問題を天秤にかけなければならない状況に無い。中国での原発は「国策国営」だ。だから、中国では多少効率が悪くても安全性の高い原発を普及させることができる。そのために、核暴走に安全なトリウム原発を中国で増やして行きたいとアメリカは考えている。
 また、自国でトリウムを採掘可能なインドもトリウム原発の実用化に向けて実証実験炉を稼働させている。
 日本の三菱、東芝、日立の持つ原発技術はビフォー・フクシマ型であり、世界はアフター・フクシマに型に技術開発の舵を切っている。
 短期的にはビフォー・フクシマ型を輸出するにしても、所詮、旧世代の原発はマーケットが縮小する。最大の問題点は使用済み核燃料の処理である。トリウム原発では燃焼効率が良く、その放射性廃棄物の量は1/10以下である。しかも、原子炉の設計によっては核種変換が出来るのでトリウム燃料以外にプルトニウムも燃料にすることができる。ただ、プルトニウムは発電効率が低いので廃棄物処理炉がメインになる。
 アメリカは原発の新設が無くなったので原発メーカーのウエスチングハウスを売りに出し、東芝が買収した。これで東芝は沸騰水型原子炉(BWR)も加圧水型原子炉(PWR)も供給できる体制になった。三菱はPWRのみ日立はBWRのみ扱っている。
 しかし、ここで歴史をふり返ると同じような事が過去にあった。日本海軍の真珠湾攻撃で巨艦巨砲の戦艦を失ったアメリカは再度巨艦巨砲を作るのでは無く、空母を中心とした機動部隊を重点的に作った。戦術も機動部隊中心の、まさに日本が得意としたアウトレンジ戦法である。ビフォー・フクシマ型を整理したアメリカはアフター・フクシマ型にシフトして行くのである。まさに、先の大東亜戦争の日本海軍敗戦の戦略的背景と似ている。
 日本は巨艦巨砲を手にして、アメリカは機動部隊化を進める構造がビフォーフクシマとアフターフクシマの原発技術の発展に重なる。


成長戦略は技術開発戦略だ
 日本もアフター・フクシマ型の開発競争に加わらなくては取り残される。世界では制御の容易な電気エネルギーの需要は益々高まってくる。そこに安全性の観点と国家戦略兵器の意味合いを持つのが原発だ。核戦争の副産物であったプルトニウム製造マシンとしての原発はその役割を終えた。ウラン型でプルトニウムを生産して核兵器の原材料にする需要は冷戦とともに終わったのだから。
 日本でもトリウム原発実証炉のFUJIの設計が細々と進められている。
 東芝にはビルゲイツと共同でKANDLE方式の4S型の研究開発を進めている。
 これらの研究開発を国策で支援し、世界に打って出る技術を早急に確立しなければ日本は取り残される。国策民営で正力松太郎が取り仕切ったような構造を改革しなければならない。エネルギー、特に日本では電力は戦略兵器だ。エネルギーを時給出来ない(自給率4%)日本ではエネルギーを止められたら産業が成り立たない。そもそも、先の大東亜戦争のトリガーはアメリカの原油輸出禁止であった。当時、日本軍は「油断」によって7ヶ月しか稼働できない状況に追い込まれた。ま、今の北朝鮮と同じ状態だったので、今後、北朝鮮が何を仕掛けてくるか非常に危惧される状況なのだが。
 世界の原発は福島第一原発の事故で大きく舵を切らなくてはいけなくなった。それまでは電力の需要が逼迫すればやがて原発が必要になると考えていたが、旧来型の原発では限界があるから、大きく舵を切って新型の原発を開発することにした。
 日本の成長戦略にエネルギーは欠かせない。唯一、原発による電力エネルギーが日本の産業の糧になる。そのための長期的戦略、マーケットリサーチ、そして技術開発の国策国営が必要である。

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2013.06.17 Mint