官僚の考えた政治ショー
安倍晋三総理大臣が福島第一原発を視察して、視察後の会見で「5号機と6号機も廃炉にしてもらいたい」と発言するのは政治的パフォーマンスでしか無いのは先に書いた両原発が置かれた立場で明確である。
にも関わらず、民間企業である東電に命令では無く要請したのは何故か。
それは、政府は原発の再稼働も行うが、廃炉により長期的には原子力発電を縮小していくってパフォーマンスを国民に見せるためだ。
欺されてはいけない。いままで廃炉になって当たり前の原発が稼働していただけなのだ。それは電力会社と政府の暗黙の了解だ。
筆者が繰り返し書いているように原発の設計寿命は30年だ。30年も前の技術で作られた工業プラントは故障のリスクが高まる。故障が操業停止で会社の損失であるうちは良いが、こと原子力発電に限っては企業損失の範囲を超え社会的損失を引き起こす。だから、稼働の10年前に設計されているとして「40年運転制限制」は本質的には設計から40年、稼働から30年に設定すべきなのだ。
廃炉必須な原子力発電所を、あたかも政府の意志で廃炉にしたような演出にマスコミは何も言わない。アベノミクスで踊り回っているからこの廃炉問題も「世論に政治が動いた」みたいな扱いをするのだろう。それは巧妙に仕組まれた罠に自ら飛び込むような愚行だ。
先のエクセルの一覧を見ると、日本原電(駿河一号機)、関西電力(美浜1号機、美浜2号機、美浜3号機)、中国電力(島根1号機)、関西電力(高浜1号機、3号機)、九州電力(玄海1号機)あたりまで稼働から40年ル-ルに抵触する恐れがある原発だ。これらは経済的に再稼働が難しい部類にはいる。
それを、反原発へのカウンターパンチとして「意志を持って廃炉にした」なんてことに欺されないことだ。
全部再稼働はそもそも無い
同じく、まったく再稼働無しも無い。
日本の原発問題は極端に走る傾向がありYes or Noの単純化した論議に陥りやすい。アベノミクスも「インフレが良いかデフレが良いか」みたいな極端な議論に陥りやすい。そもそも「コントロールされたインフレ」が経済政策の基本で実態経済が政策によってコントロールされていないのが「インフレ」であり「デフレ」なのだから、その是非を議論することは無意味なのだ。
原発も現在の化石燃料の高騰とそれに伴う電気料金の高騰を睨むと、再稼働せざるを得ない。問題は、どの原発を再稼働させるかである。
こんあたりはリスク管理の観点から見るか、危機管理の観点から見るかで事情が違ってくる。現在、再稼働申請が行われてる原発は加圧水型(PBW)である。(9月30日になって東電が柏崎刈羽の改良沸騰水型(ABWR)の再稼働を申請したが)加圧水型はベントの機能整備が5年間猶予されるのが大きな理由だ。そもそも、加圧水型にベントが必要かどうかの議論は棚上げされてのことだが。
現在の原子力規制ではベントは認められていない。沸騰水型ではフィルター付ベント装置を付けるが、これで原発敷地内に排出される放射能は100mシーベルト/hを超える(原発敷地境界上で)。現在の規制では原発由来放射能による被曝は年間1mシーベルトだ。時間に直すと0.14μシーベルト/hだから、その10万倍になる。それでも格納容器の爆発よりは良いと考えるのはリスク管理の手法だ。
住民側の危機管理から考えると、現在の原発敷地を2倍にし、せめて1/4の25mmシーベルト/hに下げ、その間に速やかに避難するのが良い。その時は風向きは絶対的指標なので速やかに情報公開される仕組みが必要だ。原子炉建屋の屋上には遠くから見える旗を掲げる等、簡単な事だ。何十億もかけてSPEEDIを作る必要は無い。
再稼働に向けて住民避難計画も必要だ。これも安全管理と危機管理の両面から検討が必要だ。先に書いたように日本での議論は極端に走る傾向があって、原発は安全だと言い出すと決して事故を想定した情報を出さなくなる。出せば、それみたことが安全じゃ無いだろうと極論を主張する団体があらわれる。
原発は人類が制御出来ないものだって極論もある。それは交通事故を見て、人類は車を制御できないと言うのと同じ極論だ。
危険はそれから得られる利益との損益関係にある。交通事故が起きて人が亡くなっても自動車全廃論が出ない。これは物流の恩恵と交通事故の損益を考えているからだ。
一番の問題は福島第一原発事故の原因がはっきりしていないことだ。だから、事故の教訓から正しい措置を学べない。
現在の高濃度汚染水を見る限り、福島第一原発の建屋は地震以前に地下漏水が有った(証言有り)。そして、全電源停止時の訓練不足によるオペミスが事故の直接原因と筆者は考える。そして、40年も前の安全技術で作ったものを使い続けた経営問題が間接事故原因だ。
原発は短期的には再稼働せざるを得ない。しかし、長期的には新しい方式の原発を模索しなくてはいけない。その技術開発で人材も技術も存続し得る。そして、廃炉の技術開発も行えるのだから。