大国が小国を締め上げては外交では無い

窮鼠猫を噛む歴史
 国家間の実際問題とは別にして動物の関与する生物界では「窮鼠猫を噛む」は実在する。多くの人がチータに狙われたガゼルがチータを角で突き返して逃れるナショジオ(ナショナル・ジオグラフィック)の映像をテレビで目にしたことがあるだろう。
 人間界の兵法にも「座して死を待つより撃って出る」って戦法がある。
 実際75年以上前に日本は対米戦略として「窮鼠猫を噛む」行為に至ったのだ。それが対米戦開戦であり真珠湾攻撃であった。
 当時、「経済制裁」と称してアメリカは最後の締め上げとして原油と鉄屑の対日輸出を禁止した。それは日本のアジア進行(ま、侵略と言う表現もあるが)を食い止めようと企図したのだろうが、アメリカの外交は稚拙過ぎた。日本は「国家を消滅させる戦術」と受け止めて先の「座して死を待つよりは撃って出る」となったのだ。
 真珠湾を攻撃されたのはアメリカの想定外かもしれなしが、それはアメリカ外交の失敗以外の何物でも無い。
 そもそもアメリカは日本をなめていたふしがあって、日露戦争で日本が利権を得たシベリア鉄道の当時の満州地域での運営をアメリカに委託せよと迫っていた。もちろんアメリカのアジアにおける橋頭保としてである。それを日本が承諾しなかったので外交的手法として経済制裁を用いたのだった。
 食えなくなって貧しい思いをするよりは多少譲歩しようかと日本が考えると思っての「経済制裁」だったのだろうが、そこに大国の奢りがあった。日本は生命線を断たれると解釈した。
 経済制裁は外交手段の数あるカードの1枚だが、大使召還、国交断絶、自国民の引き上げと同等の「交渉カード」であるのは対等な関係において有効だ。一方が圧倒的な軍事力を持つ大国の場合、小指の先で捻りつぶすような小国には死活問題に発展する。
 歴史に学ぶときに「経済制裁」は軍事侵攻と同義語で強力でしかも不可逆な「戦闘行為」と相手が受け止める場面もある。

軍事力で勝敗が決まる「紛争」
 中国が対北朝鮮への経済制裁に軟弱なのは北朝鮮を「生かさず殺さず」に地勢的に利用したいからだが、オバマ政権時代なら黙認されたがトランプ政権では中国の「北へ忖度」は受け入れる余地が無くなった。
 中国の「お家の事情」でアメリカを危機に晒すことは出来ない。だから、中国のお家の事情」を見直せってのが先の習近平とトランプの会談のアメリカ側の基本的スタンスだろう。
 で、持ち帰った習近平は王岐山に相談するのだが「アメリカの立場を「忖度」せよ」ってことで北朝鮮に「無茶は辞めてくれ」とある意味「懇願」する。核実験はアメリカのレッドラインだと考えている北朝鮮だが、中国の懇願には「知った事か」とミサイル試射を続ける。
 トランプは「習近平氏の顔に泥を塗る行為」と表現するが、実際は「習近平は何も出来ない無能な奴」って烙印を押したことを内外に表明したことになる。
 中国は自己都合で北朝鮮を泳がしていた「ならず者国家」の準構成員ってイメージをトランプ政権は作っておきたい。そして6ヶ国協議で中国の発言を押さえつけ北朝鮮に核の放棄とICBMの開発中止を迫る路線を構築するってのがアメリカのシナリオだろう。だが、ここで先の「窮鼠猫を噛む」で6ヶ国協議が「ちゃぶ台返し」にあう公算が高い。それはロシアの思惑である。
 ロシアは中国とアメリカの緩衝地帯である北朝鮮を支配下に収めれば、実質中国をコントロールできると考えている。そのために北朝鮮利権を得る事は自国の外交にとって重要な切り札になる。現在の中国は経済崩壊直前の状況にあり、崩壊した場合の富裕層の経済難民が目指すのはアメリカだが、それをロシアに向けるには地勢的に北朝鮮を支配下に収めることが大切だ。北朝鮮閥の財産は中国からのものが多く、それをロシアに還流させるにも北朝鮮利権は自国の支配下に置きたい。

アメリカがアジアを手放す時
 現在のアメリカのトランプ政権の先行きは不透明だが、大統領弾劾なんてことになったらアジアでは中国とロシアの利権争奪戦が始まる。本来、中国がアジアの利権を全て手にするように見えるが、北朝鮮問題を考えると3大国の一員であるアメリカが抜けた後には中国とロシアが凌ぎを削る外交をアジアで展開することになる。
 その場合、日本はかなりロシア寄りな外交を迫られるだろう。
 現在の中国は軍部の暴走を別にすればアジアの覇者に成り得るだけの経済力を持ちえていない。そもそも日本を抜いて世界のGDPが第二位ってのも筆の先から沸いた経済数値で実質経済は債務超過のグスグスな状態だ。
 実はロシアもウクライナ問題からかなり厳しい経済状態に追い込められており、その解決策は豊富なエネルギーを供給し経済を経ち直すことのできる市場の開放待ちだ。北朝鮮は当然の事だが実は中国や日本も対象に入っている。中国の経済が壊滅的なのは国際的に常識だが、その中国で経済危機が起きて一番影響を受けるのはジャブジャブと資本投資してきたアメリカなのだ。そのアメリカがアジアの経済から手を弾かざるを得なくなった時は中国が経済破綻した時でしか無い。その時に中国経済を支えるのはロシアしか無い。そもそも実行力の無い駄目な奴である習近平は自力では崩壊した中国経済を立ち直らせることは出来ない。だから、頼るのはロシアってことになる。なんせ、習近平は毛沢東好きだから生粋の共産主義者だ。
 日本はどうするのか。正直言って日本の外交力ではアジア再編成には口出しは出来ても実質的な手出しは出来ないだろう。大きな理由がエネルギー安全保障である。自国の経済活動を担うエネルギーを海外に依存してる現状では国際的発言力は低い。何故なら「油断」で生命線が断たれるのだから。
 すでにG7後にドイツのメルケル首相は「ヨーロッパの安全保障を他国に委ねる時代は過ぎた」と会見している。名指しこそしないがアメリカが必ずしも西欧経済のトップでは無いって表現だろう。軍事的にも同じだ。自らの国は自らの軍事力で守るって政策が結局(トランプみたな大統領が生まれるアメリカとの付き合い方法として)必要なんだって声明した。
 アメリカに関係ない紛争にまでアメリカが参画する意味を知らないってのがトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」のようだが、そんな鼻っ柱は北朝鮮の核ミサイルとEUの「付き合ってらんない!」を醸しだし、実はアメリカが孤立する結果になっているのだ。

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2017/05/29
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