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リケジョの話「同士」
その後、彼女とは(ツンの彼女ね)倶楽部活動で会うチャンスも無かったんだけど、たまたま放課後に図書館(当時は図書室かなぁ)で調べ物をしているときに一人で勉強してるのを見かけた。沢山の同窓生が居る場所だったので、自分から声を掛ける自信は無かったので近くの席で調べ物をしていると声を掛けてくれた。
「勉強の邪魔かな?」 「いや、そんなこと無いですけど」 「図書室で話すと回りに迷惑になるから、外に出ない?」 と言われて、一緒に当時の小樽潮陵高校の正面玄関のグランドを見下ろす丘の上に出た。 「夜行会(やこうかい)どうだった」 「天気は良かったんだけど、とにかく前に行かないと倒れたら置いてかれて死ぬんじゃないかと必死でした」 「なにか掴んだ?」 「最初は楽勝かなって思っていたけど、峠を越えるあたりで小樽の街が見えた時に泣きそうになりました。やったぞと思って。達成感って言うのかなぁ。後は下ればゴールだって解った時の感激は忘れられないです。先輩は、去年、あそこ歩いたんですか?」 「歩いたよ。私の人生感が変わるくらい辛かった。みんなが気を遣って、大丈夫かとか手を引いてやるとか言われたの。今年より天気が悪くて、雪道は結構凍っていた。軽装の靴だったんで急な坂で滑って転んだりもした。 峠を越えてもう小樽の街が見えてからの下り斜面が大変だった。滑って転ぶと服がぬれるよね。これがすごく体温を奪うみたいで寒かった。「唇が紫色になってるけど、大丈夫か」なんて言われた。 中学校で山岳部の経験がある部員が居て細いロープを背負ってきたので「アイザイレンしないと危ないかな」って言われてロープで結び合うことになった。でも、それって、誰かが滑ったら皆で落ちるよね(ま、下手なら別だけど、普通は足踏んばってサポートするけど、彼女には皆が一緒に墜ちていくと感じたのだろう)。 私、イヤダって言ったの。「それじゃぁ、皆で1本、そして、俺と繋がないか、滑落防いでやるから」って言ってきたの。なんか、私の弱みに付け込んでくるみたいで、そんない言い方されるのが嫌だった。 私「ほっといてよ!、私にだって意地が有るんだから!」って大声で叫んだんだって。あの時は、相当疲れていて私には、その記憶は無いんだけど。あまり声が大きかったんで皆に聞かれたみたい。それが噂話で広まるときに、私の「男嫌いの武勇伝」になったんだ。 アナタが見たミス潮陵のコンテストに私が二年生なのに選ばれたのは、その彼が「山でフラれた同級生なんだけど」ってって勝手に写真部に話したの。実はアナタの知ってる私のミス潮陵は、そんなうわさ話が広まったのが背景にあったの。本当の私は全然違うんだけど。それに、この高校には、私より、美人は沢山いるよ。アナタに「ミス潮陵」ですよねって言われた時に「何処まで知っているのかな」と思ったら何も知らなかったみたいね。 あ、話す必要無いかもしれないけど、私、ミス潮陵に選ばれた時にその山岳部経験の彼を呼び出して、ひっぱたいたの。これも武勇伝かなぁ」 彼女は笑いながら言った。 「その経験から「男を磨けよ」って声をかけてくれたんですね。去年の自分の経験を知れば僕も成長できるよって意味で」 「え? アナタの記憶は、そっちの話かぁ。やっぱり私、魅力ないんだぁ。 私の小樽潮陵高校での体験で夜行会の後半の峠越えってすごかったんだ。それをアナタが体験してどんな事を感じたか知りたかった。私と同じだね。あの経験って、これからも頑張れるって自分の自信になるよね。アナタは私と同じ体験をした、そして同じに感じた。アナタは私の「同士」だと思う。 私、1年生の時に変な噂を流されたから、この高校に居る間は男の子は誰も声かけてくれないでしょうね。でも、アナタは違った。ま「怖いもの知らず」かな。アナタなら私と同じ感覚だから解ってくれるのかも。何かあったら相談して。力になれるなら助けてあげるから」 そんな話をしてくれた。 実はそれを良い事に数日後に図書室で会った時に深刻そうな顔をして「先輩に相談したいことがあるんですけど」と彼女(ツンな彼女)に言うと「何?」と言われて「映画を見に行きたいけど一緒に行ってくれる人が居なくて。先輩に相談したら解決しますか?」と言うと「バカなの!たくもぉ!」と言いながらも一緒に映画を見に行って、その後に喫茶店で話をす機会を何回も作ってくれた。(小樽で映画を、それも洋画は月に2作品くらいしかロードショーにならない。試験期間の関係もあって、年に5本くらい、彼女の卒業までに10本は見てないけど) |