リケジョの話(小樽潮陵高校編(2))

リケジョの話「同士」
 その後、彼女とは(ツンの彼女ね)倶楽部活動で会うチャンスも無かったんだけど、たまたま放課後に図書館(当時は図書室かなぁ)で調べ物をしているときに一人で勉強してるのを見かけた。沢山の同窓生が居る場所だったので、自分から声を掛ける自信は無かったので近くの席で調べ物をしていると声を掛けてくれた。
「勉強の邪魔かな?」
「いや、そんなこと無いですけど」
「図書室で話すと回りに迷惑になるから、外に出ない?」
と言われて、一緒に当時の小樽潮陵高校の正面玄関のグランドを見下ろす丘の上に出た。
「夜行会(やこうかい)どうだった」
「天気は良かったんだけど、とにかく前に行かないと倒れたら置いてかれて死ぬんじゃないかと必死でした」
「なにか掴んだ?」
「最初は楽勝かなって思っていたけど、峠を越えるあたりで小樽の街が見えた時に泣きそうになりました。やったぞと思って。達成感って言うのかなぁ。後は下ればゴールだって解った時の感激は忘れられないです。先輩は、去年、あそこ歩いたんですか?」
「歩いたよ。私の人生感が変わるくらい辛かった。みんなが気を遣って、大丈夫かとか手を引いてやるとか言われたの。今年より天気が悪くて、雪道は結構凍っていた。軽装の靴だったんで急な坂で滑って転んだりもした。
峠を越えてもう小樽の街が見えてからの下り斜面が大変だった。滑って転ぶと服がぬれるよね。これがすごく体温を奪うみたいで寒かった。「唇が紫色になってるけど、大丈夫か」なんて言われた。
 中学校で山岳部の経験がある部員が居て細いロープを背負ってきたので「アイザイレンしないと危ないかな」って言われてロープで結び合うことになった。でも、それって、誰かが滑ったら皆で落ちるよね(ま、下手なら別だけど、普通は足踏んばってサポートするけど、彼女には皆が一緒に墜ちていくと感じたのだろう)。
 私、イヤダって言ったの。「それじゃぁ、皆で1本、そして、俺と繋がないか、滑落防いでやるから」って言ってきたの。なんか、私の弱みに付け込んでくるみたいで、そんない言い方されるのが嫌だった。
 私「ほっといてよ!、私にだって意地が有るんだから!」って大声で叫んだんだって。あの時は、相当疲れていて私には、その記憶は無いんだけど。あまり声が大きかったんで皆に聞かれたみたい。それが噂話で広まるときに、私の「男嫌いの武勇伝」になったんだ。
 アナタが見たミス潮陵のコンテストに私が一年生なのに選ばれたのは、その彼が「山でフラれた同級生なんだけど」ってって勝手に写真部に話したの。実はアナタの知ってる私のミス潮陵は、そんなうわさ話が広まったのが背景にあったの。本当の私は全然違うんだけど。それに、この高校には、私より、美人は沢山いるよ。アナタに「ミス潮陵」ですよねって言われた時に「何処まで知っているのかな」と思ったら何も知らなかったみたいね。
 あ、話す必要無いかもしれないけど、私、ミス潮陵に選ばれた時にその山岳部経験の彼を呼び出して、ひっぱたいたの。これも武勇伝かなぁ」
彼女は笑いながら言った。
「その経験から「男を磨けよ」って声をかけてくれたんですね。去年の自分の経験を知れば僕も成長できるよって意味で」
「え? アナタの記憶は、そっちの話かぁ。やっぱり私、魅力ないんだぁ。
私の小樽潮陵高校での体験で夜行会の後半の峠越えってすごかったんだ。それをアナタが体験してどんな事を感じたか知りたかった。私と同じだね。あの経験って、これからも頑張れるって自分の自信になるよね。アナタは私と同じ体験をした、そして同じに感じた。アナタは私の「同士」だと思う。
私、1年生の時に変な噂を流されたから、この高校に居る間は男の子は誰も声かけてくれないでしょうね。でも、アナタは違った。ま「怖いもの知らず」かな。アナタなら私と同じ感覚だから解ってくれるのかも。何かあったら相談して。力になれるなら助けてあげるから」
 そんな話をしてくれた。
 実はそれを良い事に数日後に図書室で会った時に深刻そうな顔をして「先輩に相談したいことがあるんですけど」と彼女(ツンな彼女)に言うと「何?」と言われて「映画を見に行きたいけど一緒に行ってくれる人が居なくて。先輩に相談したら解決しますか?」と言うと「バカなの!たくもぉ!」と言いながらも一緒に映画を見に行って、その後に喫茶店で話をす機会を何回も作ってくれた。(小樽で映画を、それも洋画は月に2作品くらいしかロードショーにならない。試験期間の関係もあって、年に5本くらい、彼女の卒業までに10本は見てないけど)


リケジョの話「卒業」
 その彼女(ツンね)が卒業する頃だった思う。
 当時の物理部は何となく放課後になると集まって雑談しながら設置されている器具の性能試験をする感じった。
 火薬を扱うなんてのは授業の延長線上に無くて「ロケットを作りたい」なんて私の活動は異端だった。
 そんな放課後に部室に行くと3年生になって卒業直前の彼女(ツンね)が部室に来ていた。前に書いたけど、進学校なので3年生は部活動には参加しないで同好会程度にしか顔を出さない。
何人かの部員も居たけど3年生が部室に顔を出すのは珍しい事だった。
「先輩が部室に来るの珍しいですね」と声をかけた。
「大学も決まったし、次のステップに進む前にちょっと自分を振り返りたかったんだ」と言われた。彼女の、いまの状況(実は東大受験はパスして北大にした時点で合格は太鼓判だったらしい)知らなかったけど、数名の部員が居るのに窓際に誘われた。
「アナタ夜行会で私に寄り添ってくれたよね。その時、私、アナタには何かあるって感じたの、それが何かを言えるほど人生経験してないけど、そのアナタの持ってる何かを大切にしてね」
 実はその「何か」を自分で探る旅が前編だったんです。
「何時も、好きにならないでって言ってる意味の事ですか?」
「それがアナタの欠点かなぁ、夜行会の時に話しかけてくれたのはアナタだけ、解るかなぁ。私ってこの高校で過ごしていて、人に嫌われてるのが好きになったの。そんな私のバリアーを皆は知っているから声を掛けない。でも、アナタは知らないから声をかけた。すごいよね。そんな男性に初めて出会った」
「先輩は、そんな話をしたかったんですか」
 窓の外を見ながら彼女(ツンの彼女)は「ここから見える風景ってもう見る事が出来ないでしょうね。私はアナタの1年前に卒業してしまうから。ただ、アナタと一緒の景色を見たって覚えておきたいの」
「先輩は僕を好きだったと言っているのですか」
「勘違いしないで、私の中で本当に数は少ないけど良い友達に出会ったってことが嬉しい。それがアナタなの。恋人とか恋愛とかじゃなくって、変な言い方だけど年下だけど色々教わった先輩かなぁ。私は好きって言わない性格なのはアナタ良く知ってるよね」
 物理部の部室には沢山の部員が居たので話はそこまでだった。2人で何を話しているのだろうって目もあったのだけれど、先輩(ツンの彼女)知る部員も少なくなっていて、あまり興味を持たれなかった。
 夕日に陰る景色を見ながら一つだけ彼女に質問した「先輩は物理部が好きなんですか?」
「私が3年間も物理部の活動に参加したのはアナタが居がいたからかもね。昔から授業の延長線みたいだった倶楽部活動をあなたはロケットってとんでもない意見で参加してきたよね。指導の先生も目をパチクリしてた。それがどうなるかを見たかったの」
「でも、それは失敗しましたね」
「失敗してもいいじゃん。人生って沢山失敗することかな」

少しの間があって彼女が「それと...」
「え、何?」
「あの、おぼえてないでしょうけど、夜行会で「あんた、可愛いいね」って言った責任あるからね」
「そんなこと、ありましたっけ」
「やっぱり覚えてないのね。私、あの時にアナタに、生まれて初めて男の子に、そんな事を言ったんだよ。でも、忘れてね。ただ、私は言った責任は果たしたからね」
「その責任感で付き合ってくれたんですか」
「責任感?それは倶楽部活動の話?。アナタには卒業前に「ありがとう」と伝えたかった。私、アナタと付き合っていたのだろうか、たぶん違うと思う。先輩の女性に「映画見に行きませんか」なんてナンパする男の子ってこの高校ではアナタくらいだよ。それが嬉しかった。たぶん先輩や同級生と違って後輩だからって心に隙間ができたのかなぁ。そして、アナタは人間嫌い、いや、悪口で男嫌いって呼ばれた私に何時も気を遣ってくれた。何故なのか解らなかった。たぶんアナタ、私の事が好きなんだろうなぁと思って納得してたけど、じゃぁ、私は何故って、それが何かは解らなかった」
「先輩も僕のこと好きだったから?」
「単細胞ね。それがアナタらしいのかも。私、解ったんだ、アナタに誘われて映画を見に行ったり話したりしたのは何故って。色々教えてくれたからなんだって事に気が付いたの。年下だけどアナタは私に沢山物事を教えてくれたんだよ」
「僕がですか?先輩に教えたなんて感覚全然無いですけど」
「例えば映画。アナタは私に見せたい映画を選んで誘ってくれたの? 私には映画鑑賞なんて習慣が無かったから一緒に見た映画には考えさせられた作品が多かった。そして将来テレビとかで再放送とかがあると、あ、最初にアナタと見た映画だと思い出すのでしょうね。ズルイね。
例えば「レマゲン鉄橋」って映画覚えてる?」
「ええ、当時のテレビドラマのナポレオン・ソロのロバート・ヴォーンが出演してるって興味を持っていたので一緒に見に行きましたよね」
「アナタの性格かな、映画の評論始めるでしょうね。私、そこまで映画好きじゃないんだ。ただ、あの映画を見た時にすごくショックを受けた。ドイツ軍の大佐あなたの言うナポレオン・ソロが処刑されるのがラストシーンだったよね。私、一番正しい事をしたのがあの大佐だと思ってたからショックだった。自分が正しいって思って行動しても評価されないのが大人の世界って強烈に感じた」
「ま、映画だから」と、むきになって話す彼女が意外だからから答えた。
「で、そんなアナタが私の教育係だったんだと思えるようになった。それが私がアナタに興味を持った理由かなぁ。周りでは「付き合っている」って言われたけど。「好き」って言ったらアナタは満足かな? でも、私、アナタに「ありがとう」と言うのが一番良いかなと思う」
「ここで僕は、泣き崩れたらかっこいいですか?」
「またそれ。一つだけ私がアナタに不満だったのは何時も私に敬語だったよね。だから好きにならなかった訳じゃないけど、たぶんアナタは私が好きと言ったら離れていくような気がした。アナタに女性を受け留める力って、まだ無いよね。でも、直ぐに経験できるんだけどアナタはその体験を拒絶してるみたい。私がそれを妨げたかなってちょっと反省してるんだ。
 アナタの意識の中では私は何時までも「先輩」だったのね。でも私の中では逆でアナタはいつの間にか私の先輩になったの。そのことを伝えておきたかった。
 私、アナタの事を忘れない。だから、アナタも中学生の時の彼女、その話は最初の夜行会(やこうかい)の時に私に話したよね。私は覚えているよ。その彼女の事は知らないけど、もしかしてアナタの初恋の人? 彼女が、うらやましい。この高校には勉強は出来るけど「初恋」の経験が無い生徒が多いよ。私も含めてかな。
私、もしかしたらアナタに「初恋」したのかも」
「それって、先輩、僕に打ち明けてますよ」
「違う!アナタは「初恋」を知っているから、でも私は知らないのよ。もし良ければ中学生の時の彼女と同じように私を忘れないで。今度誰かにアプローチする時は「高校の時の彼女に正直で居たいから」って言ってくれたら私は、うれしい。アナタが「高校の時の彼女」って私を呼んでくれたらうれしい。私が初めて気になった男性がアナタだったんだから」
「初恋ですかぁ。そんな事を言われるとは思わなかった。先輩って歴戦の勇士ですよね」
「バカ!、歴戦の勇士だったらアナタみないな後輩に図書館で口説かれて落ちるかぁ! あ、落ちてないけどね。気になったのは私の気持ちが重荷になるなら「ありがとう」って伝えておくね。「さようなら」とは言わない「初恋」の話は忘れて。先輩と後輩の関係には別れは無いから。今日はなんかアナタに会えそうな気がして部室に来たら会えたね」
「フォークダンスの時と同じですね」
「あら、それも覚えているの。私、あのとき何でフォークダンスに参加したか忘れたんだけど、アナタと手を繋いだ時にドキドキしたんだ。何回か一緒に映画見に行ったりしてるのに変だね。その時にアナタは私の人生の先輩になったんだよ。それが「初恋」の感覚なのかなぁ?。高校3年生にもなってるのに、あの時は2年生だったけど「初恋」っておかしいかなぁ。私、勉強にばかりに熱心だった、そのあたりはオクテだった。
 だけど、アナタが他人の人生に責任を負うまでには時間がかかるかなぁなんてのはオクテの私にも解るのよ。「好き」って言わないのは私の性格もあるけど、アナタが原因なのよ。私の「ありがとう」を忘れないでね」

 その後、彼女(ツンな彼女、最後はデレだったかなぁ。実際は強烈はツンのパンチを浴びせられたんだけど、それが解るのは数年後になる)はリケジョまっしぐらで北大の理学部に進んで大学院にまでいったようなんだけど大学受験を目の前にして彼女を追いかける余裕は無くなっていた。もっとも、北大は現役では落ちたし(苦笑)。

リケジョの話(北見工業大学編)に続く

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2019/12/24
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