リケジョの話(頑固なリケジョの職場編(2))

リケジョの話(職場編)「ツインユース」
 前作の続編です。
 ホテルの部屋に入ってすぐに「一つ聞いて良いかなぁ。職場の上司と部下だけなのか、俺たち?」と言ったら「それを忘れたら駄目ですよね。特に今夜はそうしないと駄目ですよね」と言われた。『じゃぁ、職場の上司と部下じゃないのは承知なのかぁ。マズイなぁ』と心の中で思った。先に書いたように「遊んでいる感覚(精神的に)」は双方承知だと思っていた。
 部屋のテレビでニュースを見ながら『困ったなぁ、どうしよう』と思っていて22時頃に彼女(頑固なリケジョ)が「私、何時もは寝る前にお風呂に入るけど、今日は着替えと歯磨きだけにする」と言ってホテルのバスルームで着替えて来た。スエットだった。
「スエットなんだぁ」と言ったら。
「何時もこんな感じで出張のホテルに泊まっています。火事とかあった時に部屋を飛び出しやすいですから。今日は特に飛び出すことになるかもしれないしぃ」
 彼女(頑固なリケジョ)の独特の甘えた言葉使いなんだけど、それを使うときは必ず探るような眼をしてくる。
「私、疲れたから先に寝ますけど、何も無い事を願ってます」妙な言葉にこちらがオロオロしてしまう。
「信用ないんだなぁ。なんで同じ部屋で良かったのかなぁ。普通、嫌だよね、職場の上司と相部屋なんて」
「私、嫌じゃ無いですから。上司と部下が同室とは思ってないです。○○さんには娘さんが居ますよね。それがさっきのチェックインしても良いかなと思った理由。たぶん、○○さんは私を娘と思ってくれてるから」
「その娘は小学生だぜぇ。なんで?」
「今までも、たぶん、父親が娘を思う気持ちで私に仕事を教えてくれたり、相談に乗ってくれましたよね、これからもそうでしょうね。だけど、もしかして今夜は私は浮気の餌食の対象ですか?」
「それは無いかな、俺にも選ぶ権利あるよね」
「嘘ついてるの解りますよ。声のトーンが高いですから。私が○○さんの最初の浮気相手になるとは、考えないですか?」
「俺って、浮気できるタイプじゃないから」
「変な感じですね。私、〇〇さんを手玉に取っているみたい? もう、部下じゃないですね」妙な笑い顔をしたので気になったが、「そんな話、やめようか、上司と部下!なんだから」

彼女(頑固なリケジョ)は何か言いたい事があったみたいだけどベッドに入った(ベッドはビジネスホテルなのでシングルが二つ)。私は何時もは眠くなるまでベットで本を読むのだけれど、テレビのスイッチを切って、椅子に座って本を読んでいた。が、色々あって疲れたのか緊張感が緩んでウトウトと眠ってしまって本を落とした。「あ、」と思ったら先にベッドに入っていた彼女(頑固なリケジョ)がビク!と動いた。
「御免、眠れなかった。もう寝るから安心して」と言ったら「安心してますけど、どうしても何か起きたらと緊張して眠られないです」って言う。
「どうしたら安心してくれる? もう、今夜は年取った娘とホテルに泊まったって感覚なんだぞ」
「○○さん、私、まだ25歳ですよ。娘さんさんより年上だけど、年取ったじゃなくて何か別な表現ありませんか」
「じゃぁ、年増の娘で、どうかな」
「今は30歳を過ぎないと年増って言わないんですよ。わたし、まだピチピチ・ギャルですから」
「そうかもな。じゃぁ、ピチピチ・ギャルさん、オヤスミ」とバスルームでホテルのパジャマに着替えて自分のベッドに入った。実は、このホテルに用意されてるのは浴衣(ゆかた)じゃなくてパジャマだったのだが、後年に指定された病院で健康診断を受診する時と同じだったのには病院の更衣室で笑った。この定宿のホテルは先見の明があるって言うのかなぁ。
 本を読む気もしなかったのだけれど、ベッドサイドのランプは点けっぱなしにしておいた。
しばらくして「一つお願いしてもいいですか?」彼女(頑固なリケジョ)が声を掛けて来た。
「何かな」
「私、安心したいので、横で一緒に眠ってくれますか」
「なんでぇ?」
「信用してない訳じゃないんですけど、何か音がする度にドキっとするので眠られないんです」
「信用してくれてないのかなぁ。何もしないって。それじゃぁ、こっちに来るかい」
私のベッドの毛布を上げたら「そっちに行ったら、私、納得したってことになりません?○○さんがこっちへ来てください」と言われた。「でも、それは受け入れたってことで同じだろう」「そんな話にします? 私、一番大切に思ってくれる人は手を出さないっ人って思っているんです。○○さん、一緒に眠ってくれたら最高に信用します」
「メンドクサイ奴ッチャナァ。もう結論出てるだろうがぁ。しょうがないなぁ。最高の信用欲しいし」
彼女(頑固なリケジョ)のベッドに入ったら暖かかった。
「こんだけ暖かいなら眠くなるだろう、普通は」
「普通はそうですね。私、過剰反応しています?」
「どうだかなぁ、君の事は好きだけど、今夜は封印だ」
「私の事、好きなんですか?」
「あ、言葉が違った、何かあったら相談してくれって感じかな。高校の時に彼女って言えるほどじゃなかったんだけど、付き合っていた先輩の女性が「好き」って言葉を嫌ってたんだ。だからその言葉を使わないほうが良いのかなぁ。誤解されるし。ただ、今は「好きだから安心しろよ」って意味で使ったんだけど(実は「高校の彼女」の話は2回(前作参照のこと)しか使ってなかった、なんで、この場面なのか解らなかった)
と言ってる間に彼女(頑固なリケジョ)は寝息をたてはじめた。よほど二人で同室ってことで緊張したんだろうなぁと思いながら彼女の毛布を掛け直して自分のベッドに戻った。疲れていたのもあるけど、何とか乗り切れたなって安心感もあって熟睡できた。


リケジョの話(職場編)「朝の告白」
 翌日の朝に彼女(頑固なリケジョ)の「朝シャン」(これも昔の言葉かなぁ)の音で目覚めた。
彼女には変なコダワリがあって、出張の時に荷物が何時も多いので聞いたら「1500Wのヘア・ドライヤー入っているから」って前に聞いていた。そんなに長く無い髪なんだけど、ストレートヘヤーにして肩に少したらす独特のヘア・スタイルにするには必須のヘア・ドライヤーだったらしい。朝シャンよりもこのヘア・ドライヤーの音(小型のジェトエンジン並み)で目が覚めたんだけど(笑い)。
「おはよう、そんな格好でバスルームから出て来るかぁ」とタオルを巻いて出て来た彼女に声をかけたら。
「あ、起きてました、おはようございます。着替えておけば見られなかったのに」とあわてて着替えを持ってバスルームに消えた。
 あまり意識して無かったけど、彼女のベッドはドアに近い方にした。何か有ったら逃げられるようにって変な配慮なんだけど。当然、バスルームの横が彼女のベッドだった。
「子どもの頃の記憶が蘇りました。ありがとうございます。世の中にはそんな男性も居るんだって貴重な体験させてもらいました。ここのホテルの朝食はバイキングですね。そこで話しません? このまま二人で居るの、そろそろ私の限界です」とバスルームで言って、着替えて来た。
 
「あ、暑い、汗かいちゃった」って言ってバスルームを出て来たので「部屋で着替えても何もしなかったぞ」と言ったら「そこまで家族じゃないしぃ」と笑っている。
「私の下着姿見たら○○さんの考え変るかもしれないしぃ」とか彼女の独特のイントネーションで言う。彼女が、このイントネーションの時は、顔は笑っていても何時も疑いの目だった。
「もしかして、勝負下着なのかぁ」
「バカ言わないでください。朝の会話じゃないですよ」何時もの調子でサラリと逃れるので、同じ部屋に泊まっても特に変化は無いのだなと安心した。
「もう一つ〇〇さんに聞いても良いですか?」と言われて「何?」と聞いたら「スッピンを見せるのは会社の人では〇〇さんが初めてなんです。男性から見て私のスッピンってどうですか?」
「普段、職場でも化粧が薄いから、あまり気にしてないけど、昨日、ベッドに入った時に化粧品の匂いは感じたな。こいつ、大人の女性なんだなぁと感じたけど、スッピンもいんじゃないか。スッピンのほうが肌が白いんじゃないか。ま、俺がまた見る機会は無いだろうけど」(実はあと2回あった、彼女は朝ご飯を食べてから化粧するので、出張で一緒に朝食する時はスッピンなことが多かった)
「そうですか、お化粧してきますので、バスルーム空いたらバトンタッチします」彼女は再度バスルームに消えた。その後で、彼女(頑固なリケジョ)の化粧品の匂いが残ったバスルームで変な気分になりながらシャワーを浴びて着替えた。何故「スッピン」の話をしてきたのか、突然だったので解らなかったが、新しい彼氏として探られたのかもと、それからの会話で感じた。
 
 ホテルの朝食はバイキングだったので、クロワッサンとソーセージの山盛りとサラダを選んで席にもどった。「野菜が少ないですね」なんて言ってくるので、「好きなものを沢山食べるのが俺の方針なんだ。なんか、女房臭いなぁ」と言ったら「娘臭いって言ってくれてもいいのにぃ」と言ってくる。ちなみに彼女の選んだのは野菜サラダばかりだった。
「どうして、昨日は何もしなかったです?」と彼女(頑固なリケジョ)に聞かれた。
「え、朝から、その話? 彼氏が居る女性に何かする気も無かったし、君に娘と思ってくれますと言われた瞬間にすっぱりと消えたから」
「話して無かったけど、彼とは数か月前に別れてるんです。今の私はフリーなんです」

彼女(頑固なリケジョ)が何故、彼と結婚まで行かなかったのか、理由は親の反対が原因と聞いていたので結局が破局かぁと、ちょっと彼女に勇気が無いなと思ったけど、なんでそれを私に話すのかなぁと思って、興味無いように答えた。
「だから?」
「〇〇さん、私に言えって言うんですか? ある意味、これからの私ってどう生きていけば良いのかなぁと考えていたら、昨日の夜に同じ部屋に○○さんと泊まるなんて偶然になったんです。私、恥ずかしいけど、それも運命かなと思ったんです。でも、何も無かった。私、魅力無いですか、あ、違います、私に魅力感じなかったですか。私、女性としてワンランク・ダウンしたのかなぁ。彼と別れたら駄目になったのかなぁと思ってたんです」
「それは、失恋の後に良く起きる精神不安定だ。考えすぎ。もっと、自分は自分って意識を持って、しっかりしろよ! 俺、嫌いになるぞ!
昨日の夜は俺で良かったな、そうだったのかぁ。ま、自分を見失しなわないことかな。君とは付き合っているのかどうか解らないけど、俺との距離感が解っていたけど、昨日の夜は何時もと違うなって感じた、彼と別れたせいなのかなぁ? 何か冒険したいのかなって、それも「俺が対象なのかな」とも感じたけど、でも、それを受け留めたら不良上司だからなぁ。職場でバレたら馘首だろうなぁ。ま、その相手が君なら、それでも良いかな思っているけどね。昨日の夜に言ったよね「好きだから安心しろよ」って」
 
「私の事が好きなんですか?」
「昨日の夜も言ったけど、言葉のニュアンスの違いかなぁ。君は今25歳だよね。素敵な女性になるには、まだ沢山の時間が残されてるさ。人生は自分が、自分だけが主人公なんだ。昨日の夜は、もしかしたら俺が君の人生を決める事になったのかもしれない。でも、それを俺はしなかった、それは、君を否定してる感じがしたんだ。そうならなかったのは、君の人生は君自身が決めるんだって誰かが、ま、神様かなぁ、運命とも言うけど、それが昨日の夜だったのかなぁ。自分の人生は自分で力いっぱい生きなければ。
人生にはチャンスが沢山有るんだから自分で力いっぱい頑張れ。まずは精神を落ち着かせることかな。朝に話す話じゃないけど、何時でも抱きついてきたら俺は受け留めるけど、その前に自分をシッカリ取り戻すって事も大切だろうな、それでも最後の選択が俺ならと考えるけど、たぶん、そうならないな。それが普通に戻ったってことかな。俺って、君の恋愛対象じゃなくて応援団なんだって、解っていたよね、言葉で言うのは初めてだけど」
「時々、グランドに降りて来る応援団ですね」と彼女(頑固なリケジョ)は言ってきたけど、目が涙目になっていた。
「それは、君を信じているから、多少はハメを外す時もあるかな。それが「好き」って事なんだな」
ホテルの朝食のビュッフェで彼女は涙を流しはじめた。
「やめろよ、朝だぜ、綺麗な化粧が台無しになるから」
「大丈夫です、私の化粧品はウォータープルーフですから」
「何言ってか、わからん?」(私の女性の化粧品への理解不足なんだけど(笑い))

「さて、仕事に行くか」と言ったら「仕事の前に個人的なお願いして良いですか」と言われて「何?」と言ったら「〇〇さんの事を「おとうさん」と呼んで良いですか。二人だけの時だけですけど」と言われて職場の上司を「おとうさん」って変だろうとは思ったけど、彼女の涙の意味がそれなのかなぁと思って「何があるのか解らないけど、別に良いよ」って言った。それが問題の発端になるのは当時は気が付いていなかった。
リケジョの話(「頑固なリケジョの職場編(3))に続く

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2019/12/24
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