リケジョの話(頑固なリケジョの職場編)(3)

リケジョの話「パソコン通信」
 前作の続編です。
 その後、彼女は私のことを「おとうさん」(うーん、正確な音は「とうさん」に近いかなぁ)と呼ぶようになった。二人だけの時って言ったのに、口を滑らせて職場で他の社員の前でも言うことがあった。
 実は、その東京でのプロジェクトは札幌に展開する予定があって、札幌でも受注したくての営業を兼ねての仕事だった。東京でのシステム構築が良かったのか引き続き札幌でも仕事を続けることができた。そんな職場の営業的な状況は彼女(頑固なリケジョ)には関係ないのだけれど、東京での仕事がクロージングした時に、偶然、函館市で北海道新聞社が開催する「北の文化会議」のコメンテータを依頼された。
 東京に彼女(頑固なリケジョ)を残して数日早めに札幌に帰って車で函館に入って彼女は戻りの航空券を予定の千歳空港(当時は新千歳空港は供用していなかった)から函館空港に変えて函館空港で落ち合おうて話をした。
 私の「北の文化会議」での分科会のパネリストは「パソコン通信が開く地域」だった。当時のパソコン通信の仲間と函館で集まってワイワイするけど来るかいと言ったら「あの、変人の集まりですか、去年のクリスマス・パーティにも誘ってくれて一緒に行きましたけど、なんかテンション高い人ばかりで、どうもねぇ」と言われた。
 これは当時のハドソンの北海道大学の出身者の仲間内のクリスマス・パーティで、参加者は全員パソコン通信の仲間で良ければ来いよと言われて彼女(頑固なリケジョ)を誘って参加した。何もクリスマス・イブに合せて開くことも無いのだろうけど、誰が来年は彼女や彼氏が出来てこのクリスマス・パーティに参加しないかなって予測して盛り上がったり、その予想が当たりになると、皆でそいつの悪口言い合うんだってのが開催の趣旨だったらしい。将来社長になるナカヤンが好きな遊びだから参加者のテンションが高くなる。
「空いてたら行かないか」と誘ったら、クリスマス・イブなのに予定が無かった(それが彼氏と別れる布石だったのかもしれないけど)のか、「職場からメンバー誘って何人かで来てもいいぞ」と言われていたので、彼女を誘って一緒に行くことになった。ただ、あまりパソコン通信の仲間は印象は良くなかったようだ。彼女(頑固なリケジョ)を「○○さんの奥様」と呼ぶ配慮無い(今で言う「情弱」か!)奴が居たのも気になったのだろう。
「私を○○さんの奥様って呼ぶ感覚が変ですよね」と私に抗議して来た「だよねぇ。せめて「恋人」と言ってくれた方が良かったのに」「それも違います! お友達って何で言わないんでしょう。二人が男と女だからでしょうか。それって違うと思いますよね?」と彼女(頑固なリケジョ)は言ってきた。

リケジョの話(職場編)「北の文化会議」
 で、話は翌年の夏に戻る。(「相部屋事件」は、その間にあった)
「仕事を離れてるけど、ま、良ければってくらいのお誘いだけど、函館方面の観光を今回のプロジェクトの東京版の打ち上げできればと思ったんだ」
「宿泊はどうなってるんですか、修学旅行じゃないですよね。また相部屋って今度は危ないですよ、私、○○さんを少し好きになってるから」と、彼女(頑固なリケジョ)は真面目な顔で言った。
「あ、俺のホテルの部屋が「北の文化会議」の事務局から手配されてるからその部屋を自由に使ってよ。俺は使わないから、相部屋は無し。俺はパソコン通信の仲間と大部屋でワイワイ雑魚寝してるだろうから」
「じゃぁ、函館から札幌まではどうします?」
「俺が車に乗せていくよ。車で函館入りするから。ただ、5時間も同じ車内では嫌かい?」
「それ、ちょっとアバンチュール風ですね。そっち、楽しみに航空券を函館空港に変更します」と言われた。
『あれ?アバンチュールの言葉の意味を知ってるのかぁ。その気は無いんだけど』と思った。たぶん話したいことがあると思いながら前日の金曜日に職場に有給休暇届を出して(実は、北海道新聞社が主催する「北の文化会議」だったので、営業行為で仕事にしても良かったんだけど、彼女(頑固なリケジョ)と函館で落ち合うので有給休暇にしておいた。役人的な保身かなぁ、でも、これで職場で問い詰められることは避けられた)早い時間に札幌を立って函館空港に車で向かった。
 
空港の到着口に迎えに行ったら同じ「北の文化会議」のパソコン通信関係の分科会のパネリストで大阪在住の女性も同じ東京ー函館便で降りて来た。当時は大阪からの直行便は無かったので羽田で乗り換えたのがたまたま彼女(頑固なリケジョ)と同じ便だったらしい。
 あ、「我が社の職場の「お嬢様社員」って何時もパソコン通信で書いてるのが彼女(頑固なリケジョ)です」と紹介したら「ふーん、この子なのぉ」と妙に冷たかった。ま、主婦感覚なんだろうなぁ。
 実は私のパソコン通信は仕事で北海道からの調査委託業務だった。懐かしい「北海道新長期計画」(略称「新長計」)の調査の一環で、農業コンプレックス(今で言う、6次化かな)で都市と農村を情報で結ぶパソコン通信の活用って企画だった。最初は広報的な情報提供の場だったのだけれど、集まった仲間内での相互な情報交換に展開していた。当時はインターネットは一部の学情ネット(SINET)だけで、社会人には商用のパソコン通信が情報交流の本流だった。受託業務なので個人が解る前提で当時のNECのPC-VANの機能のCUG(closed User group)を仕事で請け負っていた。
 そのパソコン通信の中で「北の文化会議」の話題で彼女(頑固なリケジョ)を「お嬢様社員」って表現で書いていた。
 実は、ホテルには迷惑だったのだろうけど、「北の文化会議」をネタに函館のホテルにパソコン通信の仲間が結集して、宿なんか無いのでホテルの誰かの部屋に雑魚寝って感じだった。中には当時は地方自治体の係長だったけど、その後に町長になって、今では衆議院議員になった奴も居た(同じ北海道大学の薬学部の後輩だった彼女(頑固なリケジョね)をフロントで口説いてた。彼女には「パソコン通信してる変なシト」だったらしいけど)。
 彼女に私の部屋の鍵をフロントで受け取って来るように言ったら「どうすれば良いのですか」と聞かれたので「北の文化会議で予約してる○○です」って言えば鍵を渡してくれるよ」
「私、○○に名字変わるんですかぁ、うふふ!」と言ってくる。
「メンドクサイ奴やなぁ。変に思われるぜ、2日だけだからな!、あ、そもそも名字は変わらねぇしぃ」
 前乗りだったんで、金曜日に函館入りしていたので、その日の夜は彼女(頑固なリケジョ)と函館の居酒屋で夕食にした。
 「なんか、旅先で会うって変な感じだよな」と私が言うと「誘ったの○○さんですよ」と言われた。「それに付いてきたんだよね」、「なんか、新しいことしたかった、冒険かな?自宅のアパートに帰るまで間違いが無いと良いですけど。私、今回の仕事で初めて仕事で「出張」って経験しました。すごいですね、仕事で飛行機で全国を飛び回るのが出来るなんて。一般事務職では出来ないでしょうけど、私、技術者だから出来たのかなぁ」
「未熟だけど、ま、技術を会得したら、世界に飛びたてるかも」
「笑ってますね私の事」
「いや、本気で仕事するかどうか、疑っているのはたしかだけど」
「人生とサラリーマンって言うか仕事のバランスって今の女性には難しい選択肢ですよね」
「一般論にするかぁ。君の個人的問題と言うか課題だろうなぁ。俺は何で君が函館に来たのか解らない。でも合流して楽しい。ただ、函館に航空券を書き換えた時点で、君は俺にメッセージを発してるんだけど解る?」
「「好き」ですね、知っています私」
「あ、納得かぁ。俺、君の「好き」を受け止めてるからな」
「解ってます。でも、それって、言葉にして確かめ合うことかなぁ。信頼しています。」
土曜日に「北の文化会議」のパソコン通信の分科会を務めて打ち上げ会にも参加した。実は「映画は文化だ」ってグループがあって大島渚さんが参加していた。時間が無かったんだけど夕焼けの函館大学(今の、函館未来大学とは別な校舎かなぁ)で大島渚さんと、お話をした。相当酔っていたみたいで「俺を5万円で呼んだのは、この「北の文化会議」の新聞社だけだぞぉ」とか言っていた(悪い意味では無くて)。

リケジョの話(職場編)「おとうさん」
 その「北の文化会議」には別な分科会もあって、当社と関連する会社(いちおう、シンクタンク)の女子社員がそちらの分科会のパネラーで参加していた、演題は忘れたけど「地方の活性化」みたいな演題だったようで、気が付かなかった。
 折角の函館だから函館山に登って夜景を見ようってことになって21時以降のタクシー解禁まで寿司屋で顔なじみのメンバーと時間を潰していた。
 その後、何人かのメンバーでタクシーに分乗して函館山に登ったのだが、不幸だったのか、我々のタクシーに関連会社の女性社員が同乗した。
まだ、電車通りを走っている時に、「お二人、親子なんですか?何回か彼女が職場で「おとうさん」言ってるって聞いたんですけど、本当に「おとうさん」なんですか?」なんてゲスな話を助手席から振り返って言ってくる。年齢差を考えたら「お兄さん」だろうに。
「そうですよ、本当です。あと、お母さんも居ますけど誰か解ります?」と彼女(頑固なリケジョ)が挑発的に言って横に居た私に腕を組んでくる。あ、前の寿司屋で少し飲み過ぎたのかなとも思ったけど、まんざらでも無かった。
『おい、こいつ、北海道のシンクタンク社員で名を売ってるんだぞ。敵に回すなよ。北海道大学の先輩の「ド文(ドップリの文系)」だぞ!』と思ったけど、彼女(シンクタンクの方ね)からの挑発に彼女(頑固なリケジョ)は笑って対応していた。それが彼女(頑固なリケジョ)なんだなぁ。私も同じだけど、最初に敵か味方かを考えてしまう。その意味で彼女も同じ感覚で「敵と味方」を瞬時に判断するタイプなのかもしれない。敵と思われた関連会社の女子社員は『何、この子』みたいな目を向けて来た。
 実はそのタクシーの同乗メンバーは、シンクタンク彼女と主婦感覚の同じ北の文化会議のパソコン通信の分科会のパネラーの彼女と彼女(頑固なリケジョ)の3人に私が乗っていたタクシーだった。彼女は敵は2人って解ってたんだろうな。それも性格なのかなぁ。私には最悪の組み合わせの函館山からの夜景体験だった。
で、問題はその後に起きた(後述)。


リケジョの話(職場編)「帰路」
 翌日の朝にホテルのフロントで彼女(頑固なリケジョ)と落ち合って「苗字は戻ったよね」と言ったら「残念ですけど戻りました」なんて笑いながら話をして、私の車に同乗して招待されていた瀬棚町の同じパソコン通信のメンバーの酪農家の家に3台くらいの車に分乗して集合した。瀬棚町の酪農の現状と少しづつ形になってきたチーズ工場を見学させてもらって、お昼は野外でバーベキューの段取りだった。
 「バター造りを体験しませんか?」って搾乳したばかりのミルクの上澄みを当時の(今もあるか)インスタントコーヒーのネスカフェの250g瓶に半分ほど入れて渡してくれた。私は体験しているので彼女(頑固なリケジョ)に「やってみろよ」と渡したら、上に下に振っている。「私、才能無いんじゃない?」と言うから「10分やって出来なかったら才能無いかもな」と言った「10分もですかぁ」と言いながら振っていた。
「あれ、コツンってなにか出来た。液体が個体になってる」
これが乳脂肪の固形化なんだなぁ。さらに振っていると「なんかが出来てる」になって「この塊がバターなの」とえらく感激していた。
「初めて経験しましたか? 最初は驚きますよね」酪農家の奥様が声をかけてくれた。
「私、バターを自分で作ったんだぁ」と彼女の感激は止まなかった。
「そのバター、持って帰りますか、残った牛乳捨てて絞れば、持って帰ってパンに塗って食べられますよ。塩を加えたら1週間は持つかも」と言われて「そこまでお願いしたら悪いから、私にさせてください。やりかたを教えてくれますか」と言って、奥様と一緒に彼女(頑固なリケジョ)は台所に消えて行った。ま、リケジョだからバターが出来たことに驚いたんだろうなぁ。

 帰りの車の中で「〇〇さんて、パソコン通信で農家の人と交流してるんですね」と言われた。「ま、それが北海道からの受託条件だからね」「私、勘違いしてたかも。パソコン通信って都会的な一時のトレンドでエリートと言うか変人と言うか、そんな人がやっているんだと思っていた」
「それは、否定しないけどね」
「私、バターを洗うって言うんですか、その作業を教えてもらいながら奥様に台所で聞かれたんです」
「何を? あの人は朝日新聞の書いた北海道がパソコン通信で農業を活性化するって記事を読んで職場に電話して来たんだ。我が家にはパソコンがあるけど、どうやったらパソコン通信って出来るんですかって電話で聞かれて、札幌から行くのは無理ですけど、ニセコ町には数人パソコン通信やっている奴が居ますから、住民課の係長を訪ねたら解ります。あ、それって、函館に来た君の北海道大学の学部の先輩のあいつなんだけどね。それとニセコよりも倶知安町の駅前の電気店を探せば教えてくれますよ「モデム」って言って解る店を探してくださいって、話したんだ。そのあと、無事にパソコン通信に参加できて、ご夫婦で職場までお礼に来て、あ、あの時のしぼりたて牛乳の差し入れ飲んだよね」
「あ、あの時のひとなんですか。穏やかで優しい感じの人でした」
「で、何を聞かれたの?」
「「アナタ、大人なんですね、良かった」だけだった」
「なに、それぇ!」
「あの、奥様は〇〇さんの事を心配していたんだって。職場の「お嬢様社員」なんてパソコン通信で舞い上がって書いて何考えているのかなぁ思ったけど、私に会って大人の女性だって解って安心したって台所で言ってくれた」
「ピチピチ・ギャルは卒業したんだぁ」
「なんですか?」
「少しづつ、大人になっているって事かな。俺の感覚と同じだなと思ったのさ」

 直線では瀬棚から国道5号線に戻って、国道230号線で中山峠を越えて札幌に戻れば最短距離なんだけど、あえて、日本海沿いを岩内町まで走ってから国道5号線に出て小樽経由で札幌に戻ろうと(そのほうが一緒に居る時間が長い)ので車載のアマチュア無線で「JI8○○〇(正確にはジュリエット、インディア、エイト○○○)は日本海北上ルートを取ります。札幌での歓迎会(もう一人のパソコン通信のパネラーの彼女(主婦)が大阪から来たのを札幌ビール園のジンギスカンパーティで迎えるとハドソンの奴らが仕込んでいた)は参加予定です。オーバー」
「了解です。一番モーテルが無いルートを選んだ理由は、パーティの時に聞かせてください。オーバー」
「横で彼女聞いてますよ。たぶん、パソコン通信してる、おじさま達ってゲスねと思っていると思います。清く正しく美しくと同乗者を札幌まで無事に届けるミッションの開始です。オバー」
「ラジャー、無事に帰還できますかねぇ、沈没するほうに100ポイント。パソコン通信で書かれてた以上に、彼女美人だしね。グッドラック」
「ラジャー、美人なのかどうか別にして彼女はパーティには参加しませんからパソコン通信の変なおじさんから守れますね。要らぬ心配はしなくても大丈夫です。73(セブンティ・スリー)」
「え、これって、アマチュア無線なんですか?」彼女が無線機(モービルトランシーバー)を指さして聞いてきた。目がテンになっていた。
「そうだよ、この車に無線機が積んであるのは気が付いていただろう」
「これ、ワタスキ(映画「私をスキーに連れてって」)のシーンなんだぁ」
「あ、あの映画でも出てたな。俺も映画は見たけど、アマチュア無線ってパソコン通信よりもっとオタクだよなぁ」
「〇〇さん、なんで、私に色々教えてくれるんです。今日だけでも頭がいっぱいになるほど教えてもらった」
「JI8○○○、人命救助に成功しました。バイタルは安定、ただ、精神的にダメージがあるみたいです。救護にはメンタル・ケアできる隊員の出動が必要かと思います。本部の手配をお願いします。オバー!」
「ワタスキでも見たけど、そのマイクの送信ボタンって言うんですか、押してないですよね。なんで、そんなに気を遣うんですか。私は今まで精神的に脆い時期があったけど、立ち直ってますから」
「そうかなぁ、「手配は完了。札幌までの搬送を頼む」と言って来るかな? 君はまだ「好き」が解らないのかなぁ。立ち直ってないよ。立ち直ったら「好き」が解るはずだけど、ま、別に一生解らなくても良いんだけど」
ハンドマイクをフックに戻しながら、この事を話したかったのかなと話を向けた。
リケジョの話(頑固なリケジョの職場編(4))に続く


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2019/12/24
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