リケジョの話(頑固なリケジョの職場編)(4)

リケジョの話(職場編)「毛無峠」
 前作の続編です。
 カルデラの村の赤井川村と小樽市を結ぶ峠が「毛無峠(けなしとうげ)」になる。高校の彼女が春先に高校の倶楽部活動の一環の夜行会(やこうかい)で歩いて残雪の道を越えた峠だ(詳しくは「小樽潮陵高校編」を参照のこと)。
「その話が少しでも解りたくて函館から札幌まで車に乗せてあげるよって話に乗ったのだけど、私の頭は今日の体験で、もう満杯。なんで私に沢山教えてくれるんですか。だって、函館から札幌までドライブで十分なのに」
「十分の主語が無いな。何に十分なんだ」
「それを聞きますか。うーん、返事出来ません」
「例えば、この先でトラックが車線をはみ出して来て正面衝突になった時に俺はどっちにハンドルを切るかって考えた事ある」
「そんな事、起きないですよ。考えもしないです」
「もし、その時があったらって話さ」
「普通は避けるために左に切るって話ですか」
「うん、うん、普通はね。でもトラックが大きくはみ出しても俺は絶対にハンドルを右に切らないって潜在的に君が思っているのが「好き」って事。好きって信頼ってことかなぁ、それを受け止めるのもアリだろうなぁ」
「好きって信頼ってことですか?」
「俺にはね。でも、君には別な解釈ありだろと思うけど」
「例えば、どんな言葉ですか?」
「もう、言葉じゃないだろうなぁ。あの時に「一緒に眠ってください」って言われた時に感じだのが「好き」って感じなんだ。言葉はいい加減で「大切と感じた」とも言えるのかな。言葉で説明できないよ」
「抱き合ったら解るんですか?」
「バカだなぁ、もっと沢山解りあえる方法はあるんだぞ」
「今日の私って頭が満杯なんです。函館に行って良かったです。「おとうさん」は本当にすごい「おとうさん」なんですね」
「単にオタクだよね。そこから、卒業したいんだけどね、俺は」
「大学は留年しても、卒業しないですよね。大学の時と同じで〇〇さんは私から卒業しないですよね、何時までも一緒に居てください」彼女(頑固なリケジョ)の言ってる意味が良く解らなかったけど、ちょっと深入りしてるかなぁって感情もあって、話題を変えようとした。
 それより、俺が最初に食事に誘った時の事を覚えているかなぁ。なんか、お互い警戒心の塊だったよね。でも、なんで付いてきたんだと思った時に、あ、信頼できるかどうか試されてるんだなと思った。だから、職場での上司と部下の関係だけど、信頼してくれるのにはどうしようかと考えた。たぶん行き過ぎてるんだろうな今は。あのホテルでのツインユースが無ければ、こうは成らなかったかもね」
「昔の話ですね。私、誘われ無いように職場で悪女してましたから、まさか誘ってくるとは思わなかった、で、どうすれば良いのか迷ってました」
「断るのが最善の選択なんじゃないかなぁ」
「でも、出来ない場面もありますよね」
「それって、人間として弱くないかなぁ。損得を考えて無いか。俺は好き嫌い明確だから損得の前にその判断がある。好きだからホテルで何も無かったんだけどなぁ」
「〇〇さん、何故、私の事が好きなんですか?」
「その答えが欲しいかい。それは、俺が言う事では無くて君の心の中に既に答えが有るんじゃないか。それが何かは知らないけど。多分、正解なんだろうな。俺が君を好きだと君が感じるのは、既に君の心の中に何かがあるからなんだ。だから、これからは君の心に聞いたら答えは解ると思う。ヒントは車の運転と同じかな「愛してる」はアクセル、強く踏めば前に進む。「好き」はアクセルなんだけど戻すとエンジン・ブレーキにもなる。ペダルを踏むかは戻すかは当人次第じゃなくて両人次第なんだろうなぁ。もっともMT車(マニュアル・シフト)の場合だけどね。AT(オートマティック)車は知らんけど」
「私、AT車でアクセルを床まで踏んでいます?」
「それは、君しか知らないよ。俺はちょっとアクセルを踏み過ぎたかなと今は感じてるけど、踏み過ぎなら、それを言ってくれるのが君だと信じているから」
 
 あの日は午後から雨が強くなって、瀬棚を出発する前に彼女(頑固なリケジョ)が最近できた、仁木から赤井川村を通って毛無峠を越えて小樽市の朝里へ抜けるルートを知らないと言ったので、そちらを走った(先に書いたように、そのルートが一緒に居る時間が長かった)。岩内町から国道5号線を仁木町までは仕事で何回か走っているので彼女(頑固なリケジョ)に運転を任せて(彼女はマニュアル車の運転が出来た)ノートパソコンで北の文化会議の感想なんかを助手席で打ち込んでいた。仁木の手前で「これから山岳道路だし、知らないルートになるから運転交代しよう」と言って、運転を交代して、彼女がパソコンの記載内容のチェック、私が運転手に戻った。
 
そのルートは途中から小樽潮陵高校時代の倶楽部活動の夜行会(やこうかい)のルートなんで、高校の彼女との出会いと別れの話をドライブしながら話していた。
「いいなぁ、そんな思い出のルートを今、走っているのですね。その高校の彼女って、後輩の○○さんにナンパされて幸せだったでしょうね。もし、その出会いが無ければ暗い高校生活だったんじゃないかなぁ。私、気持ちが解る」彼女(頑固なリケジョ)が車窓を見ながら言った。
「一番思い出に残っているのが彼女が言った「私を高校の彼女って言ってくれたらうれしい」って言葉。今、君に話して、期待に答えられたのかなぁ」
「何で、それが私なんですか?」
「たぶん、先輩だった彼女は、そんな出会いを俺が将来体験するだろうなって思って話してくれたのかな。実際、15年くらい前の話だけど。君を同乗させてここを車で走るなんて考えてもいなかったからなぁ。たぶん、高校の彼女が君に何かを教えたかったんだろうな。それが今かな?」
「不思議ですね、その高校の彼女って、当然、17歳くらいですね」
「ああ、しかも、北海道大学に進んだから君の先輩だよ」
「私より、大人だぁ。かなわないなぁ。私って本当に駄目な人生歩んできたかも」
「それは無いな。高校の彼女も君も、一生懸命に生きていると俺は思うよ。人生って日々の積分だから差が出来てもしょうがないじゃないか。ただ、今、一生懸命生きているなら良いじゃないか」
 実は当時の毛無峠越のルートは舗装が出来たばかりで、わだちに雨水が溜まって、ハイドロプレーニングに度々なった、早く札幌に戻りたくて急いでいたので80km/hくらいでコーナリングしてたんだけど、FF車なんでアクセルコントロールが効かないで外に持っていかれる。ハイドロプレーニングになるとアクセル緩めながら走った。
 右カーブではスローイン・ファスト・アウトの原則で対向車線に突っ込んでコーナリングした。「黄色いセンターラインは追い越し禁止じゃなくて、はみ出し禁止って知ってました?」と彼女(頑固なリケジョ)に言われたので、ま、運転を指示されるのは嫌いなんで「今までの俺たちは全部、職場の上司と部下の関係から、はみ出してる。だから、車くらいは自由に運転させてくれよ」とちょっと強く言ったら「私が悪いんですか」と言ってきた。
 
「何か、悪い事したのか?」と聞いたら「私、自分では気が付かないけど、後で振り返ると人に悪いことしてる女なんだって知ってますから」
「そうだな、それって、さっき話した俺の高校の彼女に似てないか? 人に嫌われるのが好きってのが高校の彼女だった。ま、入学した直後に強烈な夜行会(やこうかい)って体験をして自分を確立したからなぁ。それと決定的に「男嫌い」って噂を立てられて、ある意味で男性と出会わない辛かった高校生活になったのかもしれない。勉強が出来るって価値観で評価されてたけど、俺と話している時は楽しそうだった。今の俺たちと似てると思わないか?。
 今までの俺の女性との付き合い方は、当然、試行錯誤の結果だけど、その秘訣を君に教えるつもりはないけど、解ったら少し「好き」が解るかな」
「それって、○○さんの、口説きのテクニックですよね。私に教えていいんですか。これから私に対応するのに困りませんか?」
「そこは、君が大人だって思うから話すけどね。中学校の時、高校の時、大学の時もそうかなぁ。男と女って感じを持たないんだなぁ。なんか、お互いが人間って感覚で女の子と付き合うのが俺なんだ。たぶん、高校の彼女の影響かな。だから、様々な男女の感性の違いが理解できた。
 実は話してないけど、大学生の頃には「人妻」とも付き合っていたんだ、彼女に「絶対抱いてはイケナイ女を知っておきなさい」と言われて「人妻、彼氏の居る女、初体験」って言われたんだ。「女を抱いて自分の人生が決まるような男は最低だからね」と言われた。でも、そこにはズルイ部分があってさ、女性と話していて臆病になる事が多かった、ま、今の俺を見たら信じられないかもしれないけど。相部屋事件もそうなんだけど、同じ人間なんだからって感覚が女性に対しても強いんだ。だから「傷付けてはいけない」って気持ちになるんだけど、それって、男と女の付き合い方って面で軟弱かもなぁ」
「それって、逆ですよ。軟弱な人ほど何するか解らないから、女性は警戒する」
「俺を警戒してるかい?」
「あ、「おとうさん」を警戒する娘なんて、居ませんよ」
「ヤヤコシイ奴ちゃなぁ、君は!。都合によって「○○さん」と「おとうさん」を使い分けるからなぁ」


リケジョの話 「ア・イ・シ・テ・ル」
 そんな話をして札幌に着いたのは「計画通り」に夕方になって雨の天気だったので暗くなっていた。彼女(頑固なリケジョ)のアパートの前で荷物を降ろして「お疲れ様」と言ったら「コーヒーを飲みに寄りませんか」と言われた。
「ま、今もフリーなんだろう、フリーの君の部屋に行くのは無理かな。前なら出来たと思うけど、今日は色々思い出話をしたしね。感情的にハイテンションだし」
「私のこと信用していないんですか?」
「あれ? この間の東京のホテルの時と立場が逆転してないか?」
「あ、本当だ」彼女は正面から私の目を見ながらしばらく考えて「○○さん私に対して警戒心が強いんですね」と言った。
「それは、オアイコだろう。ホテルではメチャ警戒していたから」
「そう見えましたか? たぶん、私のほうが警戒心は弱いのかも」
「今日は沢山体験して頭が満杯なんだろう。情報を整理して、ゆっくり休めよ。そして明日また職場で会おう。今日はこんなに長く一緒に居て楽しかった。明日も職場で会って楽しいために、今日はお誘いを断るけど、解るよな」と言って別れた。
 彼女(頑固なリケジョ)はコクリと頭を下げただけだった。ただ、目から涙がこぼれていた。何回目かなぁ彼女が私の前で涙を見せるのは。その涙は「寂しい」って意味だったのだろうけど、そこに触れないほうがお互いのためかなと思い、傘を車の中に放り込んで「早く入らないと雨に濡れるぞ」と言って車に戻ってアパートを離れた。
 バックミラーを見ていたら雨の中に傘もささないで車を見送る彼女がまだ立っていた。T字路で進路を変える時にブレーキを軽く5回踏んでコーナを曲がった。(ま、ドリカムを知っているシトしか解らない話だけど、その前にとある小説でこのサインは知っていた。彼女(頑固なリケジョ)にも話した事があった)
リケジョの話(頑固なリケジョの職場編(5))に続く


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2019/12/24
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