リケジョの話(頑固なリケジョの職場編)(6))



リケジョの話(職場偏)「遅い初恋」
 前作の続編です。
 彼女(頑固なリケジョ)が会社に「退職願」を出したのは3ヶ月後だった。
 その前にも、何度か夜に一緒に食事をしたりしたけど、彼女は退職の話には触れなかった。
 普段は食事した後に「飲むか?」と言ったら「帰る」と言われたら送って行った「ええ少し飲みたい」と言われたらグランドホテルが多かったけどバーでカクテルを1、2杯飲んで、何のことは無い話をしていた。ただ、彼女が「飲みたい」って言った時は相談事がある時だった「職場で私に積極的なシトが居るんですけど、私、さばく知恵が無くて」なんて話もした。「こんな風に考えたらどうかなぁ、嘘でも「私、好きな人が居るんです」と言って、それでも諦めないのはゲスかな。人を好きになるって自分に真摯じゃないとできないんだ。それが無いと長続きなんて無理」「それって。○○さん自身の私への気持ちですか?」「受け止め方は君の自己責任かな。当たっているようで、外してる部分もあるかな」と答えて送っていた。
 実は彼女は失恋事件のあとに引っ越しをしていて、たまたま私の通勤ルートの途中にあるアパートを借りていた。その関係で通勤で同じ地下鉄駅で出会って出社して、部署は違うのに「同伴出社かぁ」(水商売とは違うんだけど)「アヤシイ」と思われる原因にもなっていた。
 朝の地下鉄のホームで前の電車に乗らずに一本遅らせて立っていて「おはようございます」ってホームで声を掛けられた時に「あれ、1本遅らせたのか」と聞いたら「次を待てば来るなと思ってましたから」なんて言われた。
「それって、二人の疑惑を助長するぜぇ」
「私と○○さんの間に疑惑ってあります? 私も何となくだけど興味を持ったかかなぁ」
「それは、ちょっと違うと思うけど、ま、いっかぁ」
「恋愛ゴッコ」かぁと思って、彼女(頑固なリケジョ)のペースに合わせていた。
 最初にホテルのバーでカクテルを飲むって誘った時に、経験が無かったのか「何を頼んだら良いのですか」と聞かれて「どんな女性を演じたいかによるな」と話したら「私、お酒に弱いから、軽くて、でも大人の女性に見えるのってありますか」と聞かれた。「それって、例えば、初めて彼氏とバーに行って、カウンターに座ってバーテンダーと少し大人の世間話をして注文する時に彼氏が「こいつ、慣れてるなぁ」と思わせたいカクテルってこと? 君は悪女志向だからなぁ。彼氏がドンビキしない程度となると難しいかも」「ま、それは今後も無いシチュエーションですけど、そんな演技ができるといいですね。今の私に似合うカクテルを○〇さん、選んでください。そのカクテル、私がバーで飲んだ最初のカクテルになるますから、責任重大ですよ」
「カクテル初体験かぁ。じゃぁ、ギムレットが良いかな。場末の店だとバーテンダーがレシピを調べるかも。ジンライムは作れるけどギムレットを正しく作れるバーテンダーは意外と少ないから。それと、俺、ギムレット飲む女性に弱いから」
で、ライムの香りが良かったのか彼女(頑固なリケジョ)は「ここ一発の秘密兵器ですね。装備します、ラジャー」なんて言っていた。
「今度このカクテルを飲む横に誰が居るのかなぁ」彼女(頑固なリケジョ)は、見上げる目線で話してきた。
「それは、俺じゃ無いと良いけど、ま、俺でも良いかな」
「なんで、そんな風に私を避けるんですか。私、また、ここでコレを飲みたいです」
「避けてないけどな、でも、ま、一緒にカクテル飲むくらいは、想定内か」
「私って、想定外に導く悪女ですよ」
「その上を俺は行ってるから」
「つまんないぃ」
酔った彼女をほとんど知らなかったので、意外だったけど、タクシーで送って行くと「ここから歩きたいので降ります」とアパートの前の四つ角で降りるのが多かった。この日も同じだったけどタクシーを降りるときに彼女(頑固なリケジョ)は「一人住まいって気楽だけど、寂しい時もあるんです。今日は、ありがとうございました」と言っていた。
夜中に電話して「さっきは、弱音はいたなぁ、何かあるなら相談しろよ」と言ったら「弱音の原因のシトに相談できないです」と言われた。
「なんか、俺って、君を迷わしてるのか?」
「すみません、私、今日は情緒不安定なんです。ただ、電話してくれてありがとうございます。○○さんて、なんか、心が落ち着きました」
 そんな事があって、会いたいと彼女から言われて残念ながら、仕事の関係でその日は無理で調整して翌日に会って食事をした、彼女(頑固なリケジョ)と合流したのが遅い時間だったので居酒屋で食事兼飲み会って感じだった。彼女はホテルのバーでの対応とか居酒屋での対応とか器用にこなすタイプだったので気にしていないようだった。ただ、話の内容は居酒屋でする内容では無かった。居酒屋ではカウンター席は落ち着かないので対面の席を選んで座るのだけれど、常に目を見て話すのはキツイ内容だった。
 
 退職の話が逆に気になったのか、彼女(頑固なリケジョ)の方から話題にして来た。
「止めないんですね。私が会社を辞めるのを」
「このままだと、君は幸せになれないよ。君が幸せな人生を目指してチャレンジするのに俺は賛成なんだ」
「私たち、二人の関係の事ですか?」
「いや、そっちじゃなくて、今の会社に居ても派遣みたいに客先に出入りしてるだろう。そんな仕事からはスキルは得られないから。システムエンジニアに成って欲しいって仕事をしたのに、その後は業務委託に名を借りた派遣だもんなぁ。君はシステム設計向きなんだよ。だから、今の職場は離れたほうが良いかも」
「私と、別れたいんですか?」
「え? 何? そもそも別れるとかって関係じゃないよね」
「○○さんは、何時もそう。私の気持ちを解ってない」
「だって、職場の上司と部下と言うか父親と娘の関係じゃないのか。その感覚で食事に誘って、今の仕事の内容とか、職場の話題で楽しかったよね」
 彼女(頑固なリケジョ)を恋愛の対象と考えた事は無かった。彼女が、そんな感情になったら対応する責任があると考えていたが、何故か彼女は互いの距離感を常に持っていた。職場の仲の良い同僚(後輩ではあるが)くらいの気持ちで、たまたま、それが女性だったって感覚だった。ただ、それが男女の間で3年も続くのは少し変だった。たぶん、彼女(頑固なリケジョ)も感じていたのだろうけど、彼女がそんな関係を辞めたいと言い出したのかと思った。

しばらく沈黙が続いた。食べるのか食べないのか、出ていたオデンを箸で摘まみながら何か考えてるようだった。急に、おちょこの日本酒を飲み干して、注いでほしいと仕草を見せたので、あまりしたことが無かったけど彼女のちょこにトックリから日本酒を注いだ。
 
「私の「初恋」も、そろそろ終わりですね」
彼女(頑固なリケジョ)は遠くを見ながら大きくため息をついた。
「ええ? 初恋? そんな年齢じゃないだろう?」
「真面目に聞いてくれます。私、あの時、ホテルで同室になった時ですけど、彼と別れたって話はしましたよね。○○さんには翌朝の朝食バイキングの時に言いましたけど。それは別れて1ヶ月しか経ってなかった時なんです。それから3年になります、その間、ずっと私は彼氏無しのフリーだったんです。でも、○○さんと、何ていうかなぁ。不思議なことに、付き合ってかなぁ、何か良く解らないけど、食事に誘われたりしたら一緒に居て楽しかった。だって、○○さんは私の彼氏でも何でも無いしぃ」と、いたずらっぽく笑いながら何時もの彼女(頑固なリケジョ)独特のイントネーションで目は真剣だった。
「あ、コクルの?」飲みに行った時に彼女は酔ってそんな話をしてくることがあったんで、私は、わざと冗談にして逃げていた。
「心配しなくて良いです。私、誰かにすがるようなタイプじゃなくなりましたから。それが初恋の終わりかなって感じているんです。思い出してみると3年間も「付き合ってる」は違うんでしょうけど、こうして手も握ったことが無い関係が男性と続くのは、私の人生で初めての経験。これって、私の「初恋」かなぁ。その経験を高校生の時にしていたら私の人生も変わっていたかもって最近思っているんです」
「初恋の経験が無いの?」
「失礼な事言いますね。でも、どうなんだろう、「初恋」の経験無い人って意外と世の中には多いと思いません。私は旭川で北海道大学に行きたいを目標に勉強に一生懸命だった中学、高校の時代だったんです。初恋なんかしてる余裕が無かったと言うか、邪魔だった。けど、北海道大学に合格して札幌に出て来て、大人に成ってしまった後で、別れた前の彼氏と出会ったんです。そこは、大人の恋愛の世界だった」
「そっかぁ、順番が逆かぁ。そう言えば高校の彼女も同じような事を言ってたなぁ。「中学の彼女」と俺が言うのが不思議だって。でも、14歳くらいのガキの経験なんだけどね。彼女も高校生になってから「初恋かもしれない」なんて言っていた」
 
「昔、中学や高校の頃に、クラスに一人くらい、妙に勉強が出来て成績優秀って女の子居ませんでした? あれが私だったんです。不幸のスタートかなぁ。だから誰も寄ってこなかった。○○さんの高校の彼女って、そんな私にダブルんです。でも、私にはナンパしてくる常識知らずの無鉄砲な後輩、○○さんの事ですよ、は居なかった。今はその無鉄砲なシトが私の目の前に居るのかなぁ。無鉄砲に何故なれるんでしょう? 私の事が「好き」だからかなぁ、その「好き」が解ってないんだけど。
たぶん、私の事を好きなのは、心配だからかなぁ。私、良く解らないけど女性には母性本能って言われる感覚があるけど、○○さんは私に父性感情持ってたのかなぁ。
北海道大学に入って解ったのは私よりもっと優秀な女の子でも中学や高校時代に結構遊んでいたみたい。つまり、私にはそんな彼女達のような余裕が無かったんだって知って悲しくなった。成績が良ければ人生は楽しいって何だろう、成績マニアだったのかなぁ。一番悲しかったのが「戻れない」ってこと。二十歳を過ぎていたのに、恋愛には中学生並みの感覚しか無かった」
「その時に、前の彼氏にアプローチされて落ちたのかい?」
「そうかもしれない。でも変ですね、恋愛の経験も無いのに最初に出会った人と恋愛するって。親もそこが心配だったのかなぁ。私の姉弟は姉と弟が居て私が真ん中って知ってますよね」
「ああ、話してくれたよね。その時に、姉は好き勝手に遊んでいるのが許されるのに何故、私は駄目なんだろう、って言っていたよね」
 何で、家族の話にもなるのか不思議だったけど、彼女(頑固なリケジョ)は今、私に話し忘れたか、話し残したか、そんな話をしたいのだろうなと思った。
「そんな事まで私、○○さんに話してましたかぁ。でも、解ったんです。姉は変な言い方だけど「百戦錬磨」の大人だったんです。私はそれが出来てなかった。純粋なのか幼いのかバカなのか。前の彼氏と別れた理由が理由なだけにショクで立ち直れないと思った。丁度、それがあのホテルで同室になった時と重なっているんです。
あのプロジェクトが終わったら退社して自分を見つめ直そうとと思っていました、だけど、そうならなかった。何故かなと思ったんだけど、あの朝に○○さんは「神様」とか「運命」とか言ってくれましたよね。本当にそうだったのかもと今でも思っています。何で私の人生にあんな事、チャンスかな、が起きたのか今でも解らないです。職場の上司なんだから、仕事の指示しかしなくて良いのに、何故、私の人生に寄り添てくれるのかなぁ」
 そこで、彼女(頑固なリケジョ)は言葉を切って、どこまで話そうかと迷っている感じだった。
「無理に話さなくてもいいよ。俺が知っているのは親から反対されたから、までで良いじゃないか」
 彼女(頑固なリケジョ)はそれでも話すのに迷っている様子だったけど、少し酔って緊張感が取れたのか「聞いてくれますか、たぶん私、ここまで話すと○○さんにスゴク甘えていると思うけど、本当の話をしておかないと私を解ってもらえないと思うんです」と言ってきた。それでも、しばらくは迷っているようだった。
「本当の彼と別れた理由は、なかなか結婚できないのが不満だったのか、彼が浮気したんです。大人の恋愛ですから、ズバリ私以外の人と肉体関係を結んだんです。私、自分に自信過剰な人間だったからショックで。私より良い女が居る訳無いと思っていたから。裏切られたと思う前に、私って生きる価値が無いんだと思った。これからは誰も私を好きにならないんだと絶望した。
でも、あの時に妻帯者だった○○さんと同じベットで眠った時に「好きだから安心しろ」って言われて、あ、絶対浮気しない人って居るんだ。その人と居ると私は安心できるんだって思った。そして、私を認めてくれるんだって思った、そのキッカケがあの日のホテルだったんです。それから沢山迷惑をかけましたね。甘えていたのは自分でも解るんですけど、どうしようも無かったんです、この3年間、私を支えてくれたのが○○さんなんです。私、悪女と言われても、絶対に浮気する男は許せないんです」

リケジョの話(職場編)「3人目の席」
「それって、あまり品の良く無いジョークだなぁ。だって、それって原理としてだけど、あくまで、原理ね、君と浮気してることにならないか?」
「私となら、浮気してもいいんです。○○さんは、そうはならなかったけど」
「勝手な理由だなぁ。でも、そのトラウマが消えたなら良かったじゃないか」
「それは、今も消えてないんです。ただ、○○さん、この3年の間に、私に手を焼いて好き勝手にしろって思ったこと無かったですか? 私、悪女志向の我がままを全部○○さんに向けていたような気がします。3年って長いですよ、私も28歳になりましたから、さすがにピチピチ・ギャルでは無いし。会社で仕事を教えてくれる教育係みたいな感じでしたから、別な誰かの面倒見た方が楽だな、とか思いませんでした?」
「有ったかもしれないけど、なんか君に戻ってしまうんだなぁ。仕事じゃなくて、気になるんだ」
「変な人ですね、彼氏でも彼女でも無い二人なのに」
 彼女(頑固なリケジョ)はその話をした後で黙って私を見ていた。何時か話そうと思っていたことを、今、話せたので良かったって表情だった。

「○○さんの「初恋」って3人かなぁ」
急に穏やかな表情になって、リケジョらくしない変な話だった。
「初恋は人生で一人じゃないのか?」
「○○さんの初恋じゃなくて、○○さんを初恋の相手にした人? お互い、色々話しましたね。私、初めての経験です。不思議なくらい話していて自分が壁を作らなかった。何でも話せる人って初めての経験だったので不思議でした。私、悪女志向なんです。素直じゃ無いんです。でも、何故か素直な自分になれたんです○○さんと居ると。私が何故トマト嫌いかって話を知ってましたよね。それって、たぶん夜に電話してきた時の話の中で言ったのかな私。ワイン飲んで寂しいなと思っている夜に決まって○○さんから電話が来ました。それってズルイですよ。人恋しい時に話せてうれしくなるから。そして、そんな事まで話したんだって驚きました」
「ああ、砂糖をかけて食べたら友達に馬鹿にされた話ね。ま、旭川人の特徴だから気にしなくてもと思ったけど。君のプライドの高さを感じたな。前に話したよね、高校の彼女から「何か持ってるから大切にして」って言われた事。それが何かって今でも解ってないんだ。ただ、高校の彼女が感じた事を君も感じたのかなぁ。俺も最初、職場の時の会話と二人の時の会話と随分違う子だなぁと感じてたけどね」
「あ、その話もしてくれましたよね。何だろう? たぶん、安心と言うか信頼と言うか、余裕なんでしょうね。私は「口説きのテクニック」なんて失礼な言い方してたけど。私が相手だとその余裕が出るのかも。私、普通の男の子は迫って来るって感じるから。もっとも、それすら感じさせない秘めたテクニックなのかなぁ。
〇○さんは中学校の時に初恋ですね、中学の彼女が一人目かな、あ、パソコン通信で予備校の時代に再会したのは読みました、素敵な話でしたね。私、現役合格で人生に大切な経験を得られなかったのかなぁと、読みながら思いました。前に高校の彼女が「失敗を重ねても良いじゃない」って言っていたのを話してくれましたけど、私に欠けていたのは挫折かな。沢山の挫折を経験したひとにはカナワナイのかも。あ、悪口では無いですよ。人生って経験の積み重ねですよね、ストレートに生きると経験が少ないのかも。
それから、高校の彼女が二人目。私、一番、高校の彼女の気持ちが解る。そして遅いけど社会人になった時に〇〇さんに初恋をしたのがア・タ・シ。3人目。それ、感じてくれてました?」
 少し酔ったのか、頬が赤くなった彼女(頑固なリケジョ)は恥ずかしそうに自分の手を見ながらうつむいて話した。何時ものことで、深刻な話を彼女としたく無かったので話の流れを変えよう思った。
「やっぱりコクッテルじゃないかぁ。御免、社会人になって初恋なんて感覚無くなっているから。俺のこと、そんな感じで見ていたのかぁ。ちゃんと対応出来なくて迷惑かけたなぁ」
「迷惑じゃないです、私、その間に色々○○さんに教えてもらって大人になりましたから。で、世の中には探せば○○さんのような男性も居るのかなと立ち直ったんです。3年もかかったけど。そろそろ別な彼氏探しを始めようかなと思い始めたんです。だって、初恋は実らないって3人、じゃなくて2人か、で経験してるから解りますよね。たぶん、初恋は「好き」なんでしょうね「恋愛」と違う、そこまでは解って来ました。すごく遅れてますけど」

「大人の対応かぁ。良いんじゃないか。俺は君の初恋の相手だったのかぁ。ピチピチ・ギャルの時代を経て大人になったなぁ。俺って、そのあたりには鈍感だったのかなぁ」
「鈍感が良かったのかも。私、会社を辞めても、再就職先は同じ業界だから、○○さんは業界に広くネット持っているから、また私と仕事することがありそうな気がする。もし、そんな機会が有ったら、私のことを「職場の彼女」って呼んでくれます?」
「それって、前に話した中学の彼女と高校の彼女と同じじゃないか。しかも共通項は中学の彼女は別だけど、リケジョで悪女かな」
「そんな共通項がありますか? それは○○さんの好みの共通項ですよね。お願いだから私を他の誰かと一緒にしないでください。私は私ですから」
 ここが彼女(頑固なリケジョ)の気の強い所だった。彼女の個性を大切にしないと「サイテェー(石原真理子のような言い方で)」と言われて嫌われる。だから新しい彼氏が出来なかったのだろう、別に私が原因では無いと思う、より大人になって個性が更に強くなったからなんだろうけど、それは良い事なんだろう。人の生き方は個々人が持つ個性なんだから。
「女性って、誰かの記憶に残って居たいんです。前の2人と並んだ3番目の席に私を置いてくれるとうれしいです。同じ席じゃないですよ、並んでです。今日、私の退職の話をして解りました、○○さんが会社辞めるなと言わないなら、私、胸を張って退職します。一番気になっていたんです。退職を止められたら戻ろうかと思っていたんだけど、背中を押してくれるんですね。

リケジョの話(職場編)「高校の彼女」
「私、○○さんの高校の彼女の気持ちが解るんです、ある意味で悪女風を強いられて生き方が下手なんだと思いますけど、私も同じ、高校の彼女って、支えてくれる後輩だった○○さんがナンパしたから「初恋」を体験して大人になって行ったのでしょうね。私も同じかなぁ。職場で部下をナンパする上司って居ないですよ。普通、パブとかに出かけてしますよね。しかも、毎回手を変え品を変え相手を変えて。
最初、夜に電話をもらった時にナンパなのかなぁって警戒しました。なんで私が相手なのかと思って、あ、私は魅力的なんだと勘違いしたけど、ナンパじゃなかったんですね。気を遣ってくれたんですね。私に夜中に電話するのに○○さんも躊躇あったんだなぁって解るには時間がかかりました。だって、変ですよ、夜中に女子社員に電話する上司って。嫌われたら職場で問題になりますよ。最初、私は扱いやすい女と見られたのかと警戒しました。でも、全然違った、なんで、私に電話しようと思ったんですか?」
「君の魅力に誘われたからかな。何か迷っていることがあるんだろうなと思ったから。結構、夜中に電話するの妻帯者には大変なんだぞ。そこのリスクを解るかなぁ」
「嘘ですよね。正確に言うと〇〇さんと上司と部下って関係は一度も無かったんですよ。同じプロジェクトで半年一緒に仕事した以外は。組織上は私は一回も部下じゃ無かった。それが、良かったのかなぁ。逆な立場で考えてください、上司を初恋の相手にするなんて、ありえないですから。高校の彼女の話をしてくれた時に「アナタは私が好きなんだろうなと思ったけど、じゃぁ、私は何故付き合ってるの」と自問したって話をしてくれましたよね。○○さんの私への気持ちと、私の○○さんへの気持ちは違うんです。ただ、理屈っぽい言い方だけど二人のベクトルが同じだったのかなぁ。
 一つ聞いていいですか、仕事の時は「僕はね」って言ってるのに、私と二人の時に「俺はね」って言いますよね。何故なんですか?」
 そんな話は居酒屋の雑踏の中でするかぁって感覚があったけど、ホテルのバーじゃないから素直に答えようと考えた。確かに自分でも不思議だったが、彼女と二人で居ると自然とそうなっていた。彼女(頑固なリケジョ)が気にしているとは思わなかった。一番答え辛い質問だった。
「今度は、俺がコクル番かぁ」と言ったら彼女は『言ってください』と答えを知っているのに言わせたい感じだった。一呼吸置いて話そうとしたら、会話を遮って「焼き鳥食べせんか、なんかツクネの塩焼き食べたくなった。肉食系女子になってコクルの聞きますから」とメニューに目を落とした。彼女のオーダーをカウンターに告げて仕切り直した。そのワンクッションが彼女(頑固なリケジョ)が私から得た「口説きのテクニック」なのかなぁ。
 
「全部「好き」って言葉にしていたけど、普通、男が「俺」って言うとお前、つまり女性に対して従えって感じだよね。それは無いんだ。あのホテルでの一件の時からだと思うけど、信用してくれって意味で「俺」って言ってたかなぁ。頼って良いよって意味かなぁ。盾になって守ってやるよって感覚かなぁ。二人で会うときは使っていた。そう言えば電話の時は使ってなかった気がしたけど」
「そうですね。「俺」って言うたびに確認するような目を向けてくれました。それが電話では出来ないのも知っていたのですね。最近気が付いたのは私って○○さんから見て危なっかしくて心配な存在だったのでしょうか? 勝手な憶測ですけど。だから、付き合ってじゃなくて、面倒を見てくれたのかなぁ。それが「俺」なのかなぁ。
 
長い間、ご心配をおかけしました、でも、やっと自分の足で歩くことが出来るようになりました。まだ、完全じゃないけど、トラウマから立ち治るには3年かかりました、でも3年で立ち直れたのは○○さんのおかげだと思います。あの日が無ければ、私、自己嫌悪に陥って自殺してたかもしれなかったんです、それくらい自分の人生に絶望していたんです。本当に感謝しています。これから私は独り立ちして頑張ります。悪女路線かどうか解らないけど、たぶん、心の傷は消えないから、悪女を演じないと頑張れないかも。私、○○さんに対しても悪女に戻ります、今まで人間として見ていた目を、これからは女性として見てください。プラトニック・ラブって男性のご都合ですよ。私、立ち直ったら最初に○○さんを真剣に見ました。そして恋したみたい」
「君が自殺しなかっただけでも、良かったかなぁ。失恋って女性には凄いストレスだからなぁ。あの頃のキミを思い出すと、「弱さ」を感じたのだけど、今は「強く」なってるよね」
 彼女(頑固なリケジョ)の真剣な目が輝いていた。そして、悪女を装うように笑っていた。
「俺に恋するようじゃ、まだ駄目だな」
「だって、他に練習台が居ないしぃ」
「俺が練習台? 逆にそうとうレベル高い練習だぜ!」
「言うと思った。私の事を好きなくせえにぃ」
彼女の甘えた声と疑るような目が交差していた。
 
 彼女は新しい彼氏を作るけど良いですかって意味で言ったのかなぁ?
 何も私に許可を得る話ではないのだけど、彼女(頑固なリケジョ)なりの価値観と言うかケジメだったんだろうか。

リケジョの話(木綿のハンカチーフ)
 数日間前に夜に電話で話した時に「仕事に向き合うには会社での地位を作らないのかぁ、少し会社行事に参加したら」って話をしたのだけれど、「私、結婚したら仕事離れるタイプだから」と言われた「寿退社かぁ、君は、そんな感じじゃ無いけどな、も少し、会社と仕事に向き合ったら一人前の女性になれるぞ」とか誘っていた。たまたま数日後に別な社員の送別会があった。
 「二次会行くかぁ」って誘ったら10名程が付いてきた。ま、退職する社員は社長がさらっていた行ったので、遊び好きの社員が付いてきた。私は二次会の会計は自分で払う方針で会社に回さないので、店でも知っていて安くしてくれるんだけど、10名って多くねぇと財布の中を心配した。
 席についたらリケジョも来ていたのは意外だった。彼女は二次会には来ないタイプだったから。で、飲んで盛り上がってカラオケが始まるんだけど、彼女が「私、唄いたいです」とマイクを握った。曲は「木綿のハンカチーフ」だった。時々唄いながら私のほうを見るのが不思議だった。
 唄の上手下手で言えば声量が無いので下手だったけど、一生懸命って感じがこの唄に合うんだなぁと聞いていた。数曲過ぎて私の番になったのだけれど、予約はさだまさしの「吸い殻の風景」(これも、検索して歌詞を聞くと納得するかも)だったのを「主人公」に替えた。10名の中に女性は4名程居たのだけれど、それまで、マラカスとか振って盛り上がっていた場が静かになった。
「62番の〜」あたりで女忍者が泣きだした。つられたのか、他の女の子も酔ったからなのかもらい泣きしはじめった。唄い終わって「おいおい!」と言ったら女忍者は号哭に近かった。「お前、「主人公」で泣いてては、場が盛り上がらないぞ」と言ったら「最初で最後の優しい言葉ですね」とさらに泣き始めた。
「おい、誰か「兄弟船」唄え!」ってマイクを渡した。
カラオケでドンビキに成った時に「兄弟船」を唄わせるのは私の常套手段だった(笑い)。
 飲んだシメでその後、数人とラーメン横丁に行ったのだけれど彼女は付いてきた「私、ダイエットしてるから、ラーメンは駄目ですけど、皆と話せて楽しかった」と周りに言っていた。ま、彼女(リケジョ)をアパートに送って行くのは私の役割だと思っていたら「よし、帰ろうか、送って行くよ」って、変な(笑い)奴が現れた。彼女(リケジョ)は私のほうを見て『どうする』みたいに困った感じだったけど、酔っていたので「お前が、彼女に手を出すのは10年早いわぁ!」と言った奴は驚いていた。
 実は残りの男の子は知っていたのか「○○さんの彼女をナンパする馬鹿な奴」って雰囲気だった。
 帰りに彼女(リケジョ)を送ったタクシーの中で「俺、余計な事言ったなぁ。「彼氏でも彼女でも無いのにさ」」と言ったら「時々、彼女にしてください。今夜は助かりました。私、男性との付き合いがまだリハビリ中なので良く解ってないですから。女性が会社の組織の一員になるのは難しいですね。でも、挑戦して見ました。良い経験をありがとうございます」
「迷惑だったかなぁ?」
「少し、考えます。たぶん、私のチャレンジなのかなぁ。誘ってもらって感謝しています」
「誘ってないけどな、着いてきたのは君の判断だろう」
「結果はそうですね。私のアパートに寄りませんか、私、美味しいコーヒー淹れるの得意なんです」
「それが駄目だから「彼氏でも彼女でも無い関係」が3年も続いたよな」
「私、酔ったから、誘ってる風に見えるのかなぁ。どうしたら「ありがとう」を伝えられるんでしょうか」
「伝わってるよ。無理するなよ、傷付くぞ。君の最後の城が自宅なんだ。そこに俺れを入れては駄目だぞ。最後の城では君が「主人公」じゃないか。今のままで良いんだから」
「優しいんですね」
「俺は、優しい人間じゃないんだなぁ。ただ、君が「好き」なだけなんだ」
「何時も、言いますね。ありがとうございます」
「俺って、君を彼女って言っていいのかなぁ?」
「考えておきます」
「そこは「駄目!」って即答すれよ!」
「今日は、色々な事がありましたね。私のチャレンジの始まりかな。歩きながら考えたいので、ここで降ります」
 5分程の距離だたけど街角の十字路で彼女はタクシーを降りた。

後日、リケジョの彼女に夜に電話したら「「女忍者」の彼女、また、失恋したらしいですよ。それで感情的に高ぶったのかなぁ」「君は?」「つられ泣きです。女の子って、そんなのありますよ。それより、私が頑張って唄った「木綿のハンカチーフ」は伝わりました?」
「「彼氏でも彼女でも無い関係」に、木綿のハンカチーフがありかぁ?」
「ありますよ、私が○○さんを卒業した時に○○さんの手元に残るのが「木綿のハンカチーフ」です。私、あの唄を、自分は「スーツ着た僕」になれるかなと思いながら唄ってました」
「え!、逆だったのかぁ。酔っていたから君からのラブソングと思って聞いていたなぁ」
「私、旭川から札幌の大学に来て一人暮らしを始めた時に精神的な覚悟と言うか「都会に出る」って夢と勢いあったのでしょうね。あれから8年になりますか、今の私はボロボロです。
でも、あの時の気持ちに戻れるかなって最近頑張っています。だから、「木綿のハンカチーフ」の「スーツ着た僕」になりたいんです。
○○さんの大学の卒業の時の思い出の曲ですよね。前に電話で話してくれた。私、○○さんの前で、何時か目の前で唄たえる自分になりたいなと思っていたんです。あの時に唄おうと思ったのは○○さんの前での私の決意表明かなぁ」
「頼もしいなぁ。その時にもう一回君に向けて「主人公」を唄えったら良いな。そこで泣かなかったら君は人生の主人公だ。あの時は「もらい泣き」じゃなかったろう」
「○○さんの、あまり上手じゃなかった「主人公」の唄ですが、私が唄った「木綿のハンカチーフ」への返歌って感じました。何時、○○さんを卒業かなぁ。それまで「彼氏でも彼女でも無い」関係をよろしくお願いします」
「こっちが、田舎で待つ太田裕美なのかぁ、君の「木綿のハンカチーフ」は」
「御免なさい、もう少し頼らせてください。でも、頑張ていますから、卒業できると思います。「スーツ着た僕」にはあと一歩かなぁ」
 そんな会話があってから、数日後に、彼女は会社に「退職願」を提出していた。仕事の区切りが付いた、さらに1ヶ月後に彼女(頑固なリケジョ)の退職の朝礼があった。
社長が退職願の稟議書を見て私は呼ばれたのだけれど「彼女と何かあったのか?」と言われて「何も無いから退職願いを彼女は出したんですよ」
「え!?」
「会社は彼女を育てましたか?彼女の希望が何かを受け止めましたか?なんも出来ない会社に絶望して退社するんでしょうね。その責任は私だけが負うのですか?そのあたりの考え知りたいですね」
「お前の論理かぁ。経営って人を使って銭儲けするくだらない世界なんだ。ただ、俺はお前と彼女の関係は、ま、間違った情報も多いのだけれど色々知っていた。お前ほど詳しくは知らないけど、変な事件で彼女が会社を辞めるのではないのなら、それはそれで良いかな。「卒業」って言えば良いのかな」
「離れたんですよ。会社に愛想つかして」
「おまえ、きつすぎるぞ。でも、そうかな、一つだけ聞いてよいかな。お前、彼女の事をどう思っている?」
ぐっと、心の中で噛みしめたけど、ま、昔からの付き合いもあった上司なんで「好きなんです」と答えたら「それが、お前のテクニックなのかぁ。俺には出来ないな。彼女を卒業式で送り出せるお前の気持ち、俺は解らないんだろうな」と言われた。
リケジョの話(頑固なリケジョの職場編(7))に続く

button  リケジョの話(目次)
button  リケジョの話(小樽潮陵高校編)


2019/12/24
Mint