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リケジョの話(職場偏)「遅い初恋」
前作の続編です。
彼女(頑固なリケジョ)が会社に「退職願」を出したのは3ヶ月後だった。 その前にも、何度か夜に一緒に食事をしたりしたけど、彼女は退職の話には触れなかった。 普段は食事した後に「飲むか?」と言ったら「帰る」と言われたら送って行った「ええ少し飲みたい」と言われたらグランドホテルが多かったけどバーでカクテルを1、2杯飲んで、何のことは無い話をしていた。ただ、彼女が「飲みたい」って言った時は相談事がある時だった「職場で私に積極的なシトが居るんですけど、私、さばく知恵が無くて」なんて話もした。「こんな風に考えたらどうかなぁ、嘘でも「私、好きな人が居るんです」と言って、それでも諦めないのはゲスかな。人を好きになるって自分に真摯じゃないとできないんだ。それが無いと長続きなんて無理」「それって。○○さん自身の私への気持ちですか?」「受け止め方は君の自己責任かな。当たっているようで、外してる部分もあるかな」と答えて送っていた。 実は彼女は失恋事件のあとに引っ越しをしていて、たまたま私の通勤ルートの途中にあるアパートを借りていた。その関係で通勤で同じ地下鉄駅で出会って出社して、部署は違うのに「同伴出社かぁ」(水商売とは違うんだけど)「アヤシイ」と思われる原因にもなっていた。 朝の地下鉄のホームで前の電車に乗らずに一本遅らせて立っていて「おはようございます」ってホームで声を掛けられた時に「あれ、1本遅らせたのか」と聞いたら「次を待てば来るなと思ってましたから」なんて言われた。 「それって、二人の疑惑を助長するぜぇ」 「私と○○さんの間に疑惑ってあります? 私も何となくだけど興味を持ったかかなぁ」 「それは、ちょっと違うと思うけど、ま、いっかぁ」 「恋愛ゴッコ」かぁと思って、彼女(頑固なリケジョ)のペースに合わせていた。 最初にホテルのバーでカクテルを飲むって誘った時に、経験が無かったのか「何を頼んだら良いのですか」と聞かれて「どんな女性を演じたいかによるな」と話したら「私、お酒に弱いから、軽くて、でも大人の女性に見えるのってありますか」と聞かれた。「それって、例えば、初めて彼氏とバーに行って、カウンターに座ってバーテンダーと少し大人の世間話をして注文する時に彼氏が「こいつ、慣れてるなぁ」と思わせたいカクテルってこと? 君は悪女志向だからなぁ。彼氏がドンビキしない程度となると難しいかも」「ま、それは今後も無いシチュエーションですけど、そんな演技ができるといいですね。今の私に似合うカクテルを○〇さん、選んでください。そのカクテル、私がバーで飲んだ最初のカクテルになるますから、責任重大ですよ」 「カクテル初体験かぁ。じゃぁ、ギムレットが良いかな。場末の店だとバーテンダーがレシピを調べるかも。ジンライムは作れるけどギムレットを正しく作れるバーテンダーは意外と少ないから。それと、俺、ギムレット飲む女性に弱いから」 で、ライムの香りが良かったのか彼女(頑固なリケジョ)は「ここ一発の秘密兵器ですね。装備します、ラジャー」なんて言っていた。 「今度このカクテルを飲む横に誰が居るのかなぁ」彼女(頑固なリケジョ)は、見上げる目線で話してきた。 「それは、俺じゃ無いと良いけど、ま、俺でも良いかな」 「なんで、そんな風に私を避けるんですか。私、また、ここでコレを飲みたいです」 「避けてないけどな、でも、ま、一緒にカクテル飲むくらいは、想定内か」 「私って、想定外に導く悪女ですよ」 「その上を俺は行ってるから」 「つまんないぃ」 酔った彼女をほとんど知らなかったので、意外だったけど、タクシーで送って行くと「ここから歩きたいので降ります」とアパートの前の四つ角で降りるのが多かった。この日も同じだったけどタクシーを降りるときに彼女(頑固なリケジョ)は「一人住まいって気楽だけど、寂しい時もあるんです。今日は、ありがとうございました」と言っていた。 夜中に電話して「さっきは、弱音はいたなぁ、何かあるなら相談しろよ」と言ったら「弱音の原因のシトに相談できないです」と言われた。 「なんか、俺って、君を迷わしてるのか?」 「すみません、私、今日は情緒不安定なんです。ただ、電話してくれてありがとうございます。○○さんて、なんか、心が落ち着きました」 そんな事があって、会いたいと彼女から言われて残念ながら、仕事の関係でその日は無理で調整して翌日に会って食事をした、彼女(頑固なリケジョ)と合流したのが遅い時間だったので居酒屋で食事兼飲み会って感じだった。彼女はホテルのバーでの対応とか居酒屋での対応とか器用にこなすタイプだったので気にしていないようだった。ただ、話の内容は居酒屋でする内容では無かった。居酒屋ではカウンター席は落ち着かないので対面の席を選んで座るのだけれど、常に目を見て話すのはキツイ内容だった。 退職の話が逆に気になったのか、彼女(頑固なリケジョ)の方から話題にして来た。 「止めないんですね。私が会社を辞めるのを」 「このままだと、君は幸せになれないよ。君が幸せな人生を目指してチャレンジするのに俺は賛成なんだ」 「私たち、二人の関係の事ですか?」 「いや、そっちじゃなくて、今の会社に居ても派遣みたいに客先に出入りしてるだろう。そんな仕事からはスキルは得られないから。システムエンジニアに成って欲しいって仕事をしたのに、その後は業務委託に名を借りた派遣だもんなぁ。君はシステム設計向きなんだよ。だから、今の職場は離れたほうが良いかも」 「私と、別れたいんですか?」 「え? 何? そもそも別れるとかって関係じゃないよね」 「○○さんは、何時もそう。私の気持ちを解ってない」 「だって、職場の上司と部下と言うか父親と娘の関係じゃないのか。その感覚で食事に誘って、今の仕事の内容とか、職場の話題で楽しかったよね」 彼女(頑固なリケジョ)を恋愛の対象と考えた事は無かった。彼女が、そんな感情になったら対応する責任があると考えていたが、何故か彼女は互いの距離感を常に持っていた。職場の仲の良い同僚(後輩ではあるが)くらいの気持ちで、たまたま、それが女性だったって感覚だった。ただ、それが男女の間で3年も続くのは少し変だった。たぶん、彼女(頑固なリケジョ)も感じていたのだろうけど、彼女がそんな関係を辞めたいと言い出したのかと思った。 しばらく沈黙が続いた。食べるのか食べないのか、出ていたオデンを箸で摘まみながら何か考えてるようだった。急に、おちょこの日本酒を飲み干して、注いでほしいと仕草を見せたので、あまりしたことが無かったけど彼女のちょこにトックリから日本酒を注いだ。 「私の「初恋」も、そろそろ終わりですね」 彼女(頑固なリケジョ)は遠くを見ながら大きくため息をついた。 「ええ? 初恋? そんな年齢じゃないだろう?」 「真面目に聞いてくれます。私、あの時、ホテルで同室になった時ですけど、彼と別れたって話はしましたよね。○○さんには翌朝の朝食バイキングの時に言いましたけど。それは別れて1ヶ月しか経ってなかった時なんです。それから3年になります、その間、ずっと私は彼氏無しのフリーだったんです。でも、○○さんと、何ていうかなぁ。不思議なことに、付き合ってかなぁ、何か良く解らないけど、食事に誘われたりしたら一緒に居て楽しかった。だって、○○さんは私の彼氏でも何でも無いしぃ」と、いたずらっぽく笑いながら何時もの彼女(頑固なリケジョ)独特のイントネーションで目は真剣だった。 「あ、コクルの?」飲みに行った時に彼女は酔ってそんな話をしてくることがあったんで、私は、わざと冗談にして逃げていた。 「心配しなくて良いです。私、誰かにすがるようなタイプじゃなくなりましたから。それが初恋の終わりかなって感じているんです。思い出してみると3年間も「付き合ってる」は違うんでしょうけど、こうして手も握ったことが無い関係が男性と続くのは、私の人生で初めての経験。これって、私の「初恋」かなぁ。その経験を高校生の時にしていたら私の人生も変わっていたかもって最近思っているんです」 「初恋の経験が無いの?」 「失礼な事言いますね。でも、どうなんだろう、「初恋」の経験無い人って意外と世の中には多いと思いません。私は旭川で北海道大学に行きたいを目標に勉強に一生懸命だった中学、高校の時代だったんです。初恋なんかしてる余裕が無かったと言うか、邪魔だった。けど、北海道大学に合格して札幌に出て来て、大人に成ってしまった後で、別れた前の彼氏と出会ったんです。そこは、大人の恋愛の世界だった」 「そっかぁ、順番が逆かぁ。そう言えば高校の彼女も同じような事を言ってたなぁ。「中学の彼女」と俺が言うのが不思議だって。でも、14歳くらいのガキの経験なんだけどね。彼女も高校生になってから「初恋かもしれない」なんて言っていた」 「昔、中学や高校の頃に、クラスに一人くらい、妙に勉強が出来て成績優秀って女の子居ませんでした? あれが私だったんです。不幸のスタートかなぁ。だから誰も寄ってこなかった。○○さんの高校の彼女って、そんな私にダブルんです。でも、私にはナンパしてくる常識知らずの無鉄砲な後輩、○○さんの事ですよ、は居なかった。今はその無鉄砲なシトが私の目の前に居るのかなぁ。無鉄砲に何故なれるんでしょう? 私の事が「好き」だからかなぁ、その「好き」が解ってないんだけど。 たぶん、私の事を好きなのは、心配だからかなぁ。私、良く解らないけど女性には母性本能って言われる感覚があるけど、○○さんは私に父性感情持ってたのかなぁ。 北海道大学に入って解ったのは私よりもっと優秀な女の子でも中学や高校時代に結構遊んでいたみたい。つまり、私にはそんな彼女達のような余裕が無かったんだって知って悲しくなった。成績が良ければ人生は楽しいって何だろう、成績マニアだったのかなぁ。一番悲しかったのが「戻れない」ってこと。二十歳を過ぎていたのに、恋愛には中学生並みの感覚しか無かった」 「その時に、前の彼氏にアプローチされて落ちたのかい?」 「そうかもしれない。でも変ですね、恋愛の経験も無いのに最初に出会った人と恋愛するって。親もそこが心配だったのかなぁ。私の姉弟は姉と弟が居て私が真ん中って知ってますよね」 「ああ、話してくれたよね。その時に、姉は好き勝手に遊んでいるのが許されるのに何故、私は駄目なんだろう、って言っていたよね」 何で、家族の話にもなるのか不思議だったけど、彼女(頑固なリケジョ)は今、私に話し忘れたか、話し残したか、そんな話をしたいのだろうなと思った。 「そんな事まで私、○○さんに話してましたかぁ。でも、解ったんです。姉は変な言い方だけど「百戦錬磨」の大人だったんです。私はそれが出来てなかった。純粋なのか幼いのかバカなのか。前の彼氏と別れた理由が理由なだけにショクで立ち直れないと思った。丁度、それがあのホテルで同室になった時と重なっているんです。 あのプロジェクトが終わったら退社して自分を見つめ直そうとと思っていました、だけど、そうならなかった。何故かなと思ったんだけど、あの朝に○○さんは「神様」とか「運命」とか言ってくれましたよね。本当にそうだったのかもと今でも思っています。何で私の人生にあんな事、チャンスかな、が起きたのか今でも解らないです。職場の上司なんだから、仕事の指示しかしなくて良いのに、何故、私の人生に寄り添てくれるのかなぁ」 そこで、彼女(頑固なリケジョ)は言葉を切って、どこまで話そうかと迷っている感じだった。 「無理に話さなくてもいいよ。俺が知っているのは親から反対されたから、までで良いじゃないか」 彼女(頑固なリケジョ)はそれでも話すのに迷っている様子だったけど、少し酔って緊張感が取れたのか「聞いてくれますか、たぶん私、ここまで話すと○○さんにスゴク甘えていると思うけど、本当の話をしておかないと私を解ってもらえないと思うんです」と言ってきた。それでも、しばらくは迷っているようだった。 「本当の彼と別れた理由は、なかなか結婚できないのが不満だったのか、彼が浮気したんです。大人の恋愛ですから、ズバリ私以外の人と肉体関係を結んだんです。私、自分に自信過剰な人間だったからショックで。私より良い女が居る訳無いと思っていたから。裏切られたと思う前に、私って生きる価値が無いんだと思った。これからは誰も私を好きにならないんだと絶望した。 でも、あの時に妻帯者だった○○さんと同じベットで眠った時に「好きだから安心しろ」って言われて、あ、絶対浮気しない人って居るんだ。その人と居ると私は安心できるんだって思った。そして、私を認めてくれるんだって思った、そのキッカケがあの日のホテルだったんです。それから沢山迷惑をかけましたね。甘えていたのは自分でも解るんですけど、どうしようも無かったんです、この3年間、私を支えてくれたのが○○さんなんです。私、悪女と言われても、絶対に浮気する男は許せないんです」 |