白夜3.98で韓国の国際舞台での位置が解る

外交がドラマで国民に浸透
 韓国ドラマの定番は「いじめ、不治の病、運命」なのだがこの白夜3.98だけはこの定番が無い。手っ取り早く見るのなら韓国ドラマの配信サイトだが、たぶんGyaoでも再送信されるだろう。韓国、北朝鮮、中国、ロシアにアメリカが加わった5ヶ国の国際的綱引き。その中で北朝鮮が核兵器の開発とそれを運ぶ戦略爆撃機の入手をロシアの裏組織と取引する。ヘロイン、偽ドル印刷、と北朝鮮の裏の外交と国民の英雄に祭上げられる秘密工作部隊の編成。これらが、複数の主人公の過去と伴に描かれる。
 ロケ撮影の大半はモスクワからロシア各地。韓国のドラマ撮影でここまでロシアで撮るかってくらいモスクワを描いている。ロシアの特にモスクワ観光にも一役かったのではないだろうか。僕も金と時間があれば夜のモスクワのライトアップした石造りの建物を見てみたくなった。
 韓国民の北朝鮮を見る目も微妙にコントロールされている。軍人が偉い社会、国家のために死ねば英雄って描き方は北朝鮮の脅威を常に国民に植え付ける政治判断だろう。暗に反日も含んでいるのかもしれない。金正日のそっくりさんを使って陰に金正日が居ることを印象つけるあたりはとても政治色が強い。
 残念なのは白夜3.98に出てくる航空機が全てアメリカ製で飛行機オタクであればあるほど航空機が登場するとどっちが敵がわからなくなる(笑い)。全ての国の軍隊のOKを取って撮影なんて不可能なので、この部分は日本ならCGかミニチュアを使うのだろうが、韓国では例えアメリカ機でも実機による撮影を敢行した。これもドラマの迫力を増してる。
 合成かもしれないが主人公の近くをF16がローパスしていく部分は迫力がある。但し「俺はあれに乗ってやる」って誓った子供が軍隊に入って戦闘訓練を受けパイロットに育っても使用機種がF16てのどうなんだろう。時が過ぎた感じがしない。これも韓国ドラマの本質に関係無いといえばそのとうりなのだが。

北朝鮮の脅威と戦う韓国の政治情勢
 白夜3.98のドラマの内容にはあまり触れないが、とにかく人が沢山死ぬドラマだ。その中で主人公達はどんなに大きな怪我をしても死なないって違和感がある。絶対脱出不可能な場面で敵に囲まれてもなんとか脱出を敢行してしまう。
 ラストシーンに向けた演出なのだろうが、ちょっとスーパーマン的過ぎる感じがする。このドラマの背景が緻密に描かれている。国民に自国が国際社会で置かれている立場、列強の自己中心的外交の隙間で凌ぎを削る韓国の外交路線。白夜3.98はドラマの形を借りた韓国外交の事実なのだろう。
 北朝鮮は偽ドル札を印刷してロシアの腐った軍隊からプルトニュウムを横流ししてもらう。国内でも核兵器の開発を密かに行っているがこちらの情報はアメリアを始め西側諸国に筒抜け。核を持っているのは明確だがそれを兵器として使うには運搬手段が無い(実際にはテポドンに装着可能と考えられているが)。そこで次はロシアの超高速爆撃機を盗み出しピョンヤンまで運ぶ。そのために特殊部隊を編成しロシアの空軍基地を急襲する計画を立てる。
 この特殊部隊は北朝鮮から中国の国境を越え天山北路からロシア国境を抜ける。全員玉砕して国家の英雄になることを運命付けられている。中国軍隊との激しい戦闘、それで無線機が壊れるが予定通りロシア空軍基地を急襲することに成功する。で、工作員が操縦して北朝鮮に向けて離陸する、後を韓国の工作員(元空軍パイロット)がロシアの最新鋭戦闘機で追う。高速爆撃機は北朝鮮の国境に達し国内に入るがマッハ3.98で追ってきた戦闘機は上空で体当たりして北朝鮮の作戦は夢と消える。
 白夜3.98の3.98は実験中の最新鋭機がアンコントロールになるマッハ数。このマッハ3.98がドラマのタイトルに隠されてるのをラストシーンで知る。もっとも、航空機のVHF帯の無線通信が北朝鮮上空とロシアの基地間で交わされるってのはこれまた航空オタクには不思議な演出なのだが。

日本はせいぜい戦国時代
 現在の複雑な国際関係をドラマにするのは日本には出来ない。海外で外交と情報戦で活躍してる人の数が少ないし、全て外務省のベールに包まれている。それを国民に開示しようって姿勢も政府に無いし、国民の関心も高くない。
 経済活動で海外で働く人は多いが外交戦略の担い手として海外で働くのは極限られた一部の人だけだ。だから、日本では戦略的な話は戦国時代のドラマとしてNHKの大河ドラマを筆頭に多く制作される。これもまた現代史を何時までも別科目にしない教育の弊害で日本人の国際感覚は戦国時代の国取り物語程度しか育たない。
 今現在国際社会で何が脅威かについてもあまり知識が無い。北朝鮮の脅威以前に次期首相候補たるものが「中国脅威論」を述べるのは滑稽だ。その脅威を除くためにどのような外交を行うかが政治家の務めであって、外交に相手国を脅威と決め付けて口を挟むのは政治家の仕事では無い。戦略を練るのが外交であり方針を決めるのが政治家だ。中国脅威論を述べたいのなら、外交官になれば良い。政治家が脅威論を述べるとそれは方針に転嫁し、相手国とは一戦交えるって方向を示唆してる行為なのだから。
 このような日本の外交の現状を見ると韓国のように「白夜3.98」を作ることが政治問題化するだろう。日本がアジアで「かつての侵略国」と見られ、韓国は被侵略国と見られているから反応は違うと思うかもしれないが、基本的にその国で流れてる全ての放送は外交上の情報収集に組み入れられるもので、北朝鮮だって国民に向けてと言うよりも諸外国向けてニュースを流してる。
 日本に不動の外交姿勢が無い現状で、ドラマだけが一人歩きすることを外交不作為の政治家が問題視するのは「想定内」ってことになる。
 白夜3.98はNHKでは作れないし、視聴率至上主義の民放でも作れない、作れないから日本はますます世界の外交から疎い国民になっていく。
 明治維新を「日本人にも勢いが有ったなぁ」と懐かしむだけだ。

北朝鮮の脅威と表裏一体
 韓国も北朝鮮も戦略は違うが方針として南北統一は民族の悲願と考えている。そもそも過去を辿れば朝鮮戦争は中国の支援を受けた北朝鮮の「南北統一」の武装蜂起であった。これが予想に反してアメリカの反共勢力が本気になって反抗してきたので北朝鮮は追い戻された。が、裏に中国が控えているのでアメリカも深追いをしないで現在の停戦ラインのまま50年以上小康状態になっている。
 歴史にifは無いが、あのとき深追いしていたら人類史上3度目の原爆投下が同じアジアで起こったかもしれない。で、その逆パタ−ンが現在の北朝鮮で起こっている。
 北朝鮮は金正日の選択によって「自衛のための自爆国家」になりつつある。通常敵の侵略から自国を守るために戦う軍事力を「自衛権」として整備するが、現在の北朝鮮は核を保有したが使い道が無い状況にある。そもそも核兵器は通常兵器と違いいわゆる「戦略核」を呼ばれるように持っているぞってことで兵力の均衡を保つ兵器だ。
北朝鮮は持っているけど兵器として使える可搬性が無い。そこで使える選択肢は非常に消極的だが「攻撃したら全ての核兵器を自国内で爆発させ自爆する」って選択肢になる。自爆後の地域の核汚染を憂慮するなら自国を攻撃するのは止めろって外交だ。
 その選択をしてるな、と思わせるのが白夜3.98で描かれていると考えるのは考えすぎだろうか。

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2006.01.05 Mint