福島第一原発のアイソレーション・コンデンサー

アイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)
 先に福島第1原発に設計責任は問えないを書いた。これは津波で原子炉が決定的な被害を受ける前に既に地震によって原発の配管が外れる等で故障して原子力発電所そのものが壊れていただろうと推測されるから。事故調査委員会の正式の報告書を待って最終判断を下すことになる。
 ただ、福島第一原発の事故の状況を再度調べてみるとアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)の設計に葛藤があったことが解かる。福島第1原発は40年前に稼働したGEのマークT原子炉だが40年前の設計と最新の設計を比べると安全性は進歩しているので、古いものほど危険な部分は残される。
 但し、古い技術は安全性を配慮し過ぎて贅肉部分が多くて経済性に欠けるので新しい設計ではこの部分をそぎ落とし危険性を増した部分もある。
 このアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)を技術的見地からまとめておく。
 アイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)は沸騰水型原子炉で使われる。発生した蒸気が発電用タービンを経由して復水器で水に戻され再度原子炉に巡廻するが、この行程に異常が起きた時に原子炉内で発生した水蒸気の熱を奪い水に戻し、再度原子炉に入れる非常用の原子炉冷却装置である。
 通常、原子炉の上部横に水タンクに納められて設置され非常時切り替えると原子炉内の蒸気が流れ込んで水に戻り重力によって原子炉に戻される。つまり、ポンプを使わない原子炉冷却装置だ。このポンプ、つまり外部電源が無くても動くのがアイソレーション・コンデンサーのミソだ。
 また、水タンクが高温になって蒸気を復水出来なくなれば水を(海水でも良い)交換して炉心からの蒸気を水に復水し続けることができる。
 今回の福島第一原発の1〜4号機について調べると1号機はアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)が設置してあったが2号機以降では設置されていない。2号機以降出力が大きくなるのでアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)では十分機能しないとの考えRCIC(原子炉隔離時冷却系)が設置された。これは熱で派生した水蒸気でタービンを回し、水を巡廻させるもので、1号機のICよりも長時間稼働が可能だ。この2号機の設計段階で、1号機のICは「古い技術」になったのだ。もちろん、「古い技術」は「安全性の劣化した技術」とも言える。

全電源喪失でも動いていた
 地震直後に1号機では炉心の水位が下がらないのでECCS(緊急炉心冷却装置)が作動していなかった。炉心の圧力が上がったのでアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)が稼働し始める。8分後に炉心の温度低下が1時間あたり55度を超えたので熱ストレスを避けるために運転員が手動でこれを止めた。津波で電源が喪失するとアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)の配管破断の信号が出て自動で非常用復水器への弁が閉じてしまう。再度手動で弁を開け炉心の温度変化によって開閉を繰り返す。水タンクの温度が上昇し蒸発による容量が減ったので水タンクに水を注入しようとしたら水タンクへの給水ポンプが故障していて給水できなかった。
2011.09.30 加筆:水タンクの蒸発に対して当初消防ポンプを使って水を補充していた。加筆終了 以上を時系列にまとめると以下のようになる(東電5/17頃発表資料)
3月11日
14:46 地震発生
14:52 非常用復水器が自動起動
15:00 手動で弁を閉鎖。非常用復水器停止。
15:35 津波到達、全電源喪失
18:10 作業員が手動で弁を開き、非常用復水器起動
18:25 手動で弁閉じ、非常用復水器停止
21:30 手動で弁開け、非常用復水器起動
3月12日
01:48 復水器に給水するポンプの故障を確認。非常用復水器永久停止
 また全電源喪失から1号機、2号機、3号機のメルトダウンに至る時間は下記のとおり。
1号機で14時間09分後、2号機で6時間29分後、3号機で6時間43分後(細野豪志首相補佐官が5/16発表)。
 1号機のアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)は事故直後からの対応の時間稼ぎにその効果を発揮したことがわかる。
 1号機でのその後の推移は事故調査委員会の調査を待つとして2〜4号機にはアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)で無くRCIC(原子炉隔離時冷却系)が装備された経緯についてである。
 情報を精査する必要があるが、GEの設計したマークTでは非常用復水器が付いていたが、浜岡原発で非常用復水器配管が水素爆発を起こした事故がありすべて撤去されたとの説がある。ネットで有力だが情報源は1ヶ所に限られているのでガセネタの公算が高い。残念ながら当初この誤報に衆議院議員の原口一博氏が信じてしまい、関係各方面で顰蹙をかってしまった。設計段階で採用の有無の議論があってアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)の代わりにRCICを設置した。原子炉から発生する蒸気でタービンを回す仕組みで、若干複雑であるが、効果は高いと想定される。
 最近になってGEと日立の間では大容量のアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)を利用する設計が復活している。全電源喪失でも動くメリットを考慮してのことだろう。福島第一原発事故の前に協議して新設計ではアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)が採用されている。
 原子力安全委員会(NSC)は2010年10月には原発の脆弱性に関して会議を開催し、財団法人原子力発電技術機構が作成した「地震と津波にかかわる残存危険性」を軽減する代替技術を検討したが特段アクションは起こさなかった。
 また、アイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)の非常時の有用性についてGEからアドバイスがあったがこれも黙殺してしまった。
 これらの怠慢はウォールストリートジャーナルにすっぱ抜かれている。ただし、この記事もRCICを電動と勘違いしているが、RCICは熱で生じた蒸気でタービンを回す自立型の炉心冷却装置である。

リダンダンシーの高さが安全を高くする
 全電源喪失でも動く装置が無駄な訳が無い。しかし、リダンダンシー(冗長度)を高くするには費用が嵩む。安全とコストは常について回る課題だ。しかし、100%安全な航空機を作ると重くて飛べなくなるように、世の中は99.99999の小数点以下の9を何個求めるかに安全とコストのバランスを求める。例えば有人宇宙飛行では機器の信頼性は69で小数点以下6桁まで求める。
 原発も同程度は想定されているだろう。が、機器がいくら信頼性が高くても地勢的要件次第では機器の使用条件を超える過酷な状況が起きる。これは設計条件を超える場合だから設計の責任は負えないと先に書いた。
 そして、原発の設計条件を審査するのは国だ。設計条件に甘い所があれば改訂させる権限も持っている。今回の福島第一原発事故の詳細が明らかになると設計条件の甘さが浮き彫りになってくるだろう。その時、国は責任を問われなかった役人の無謬性にまで踏み込んだ裁判が起こされるだろう。
 アイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)は最新のRCICに変更しなくても良いって判断もまた設計条件の甘さ、全電源喪失は無いに起因している。そもそもICやRCICが動く事態は起きないって考え方に支配されている。
 ストレステストで何をやるか知らないが沸騰水型原発にアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)の装着と運用訓練の徹底が既に福島第一原発事故からの教訓では無いのか。防潮堤を高くするよりアイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)を最新に改修するほうが現実的ではないのか(日本の古い沸騰水型原発は改修が必要なものが多い)
 また、複数炉設置されている原子力発電所銀座では互い違いに間引き運転するのも一つの選択だ。最大2基以上同時に稼働させないってのも安全対策になるだろう。
 アイソレーション・コンデンサー(非常用復水器)のような装置では不十分でRCIC(原子炉隔離時冷却系)に変更する必要が既成事実としてあったにも関わらず何故付け換えられられていないのか。その状態での稼働を容認し続けたのか。この説明責任は国にある。
2013/1/24加筆:RCIC(原子炉隔離時冷却系)の詳細項目を追加。


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2011.07.21 Mint