古い自民党に戻れない自民党294議席の内情

「B層」は前面に出てこなかった
 投票率が低かった。その原因は民主党に代表される「政治家は出来もしないことを選挙で公言している輩」って政治家への不信感、投票への諦観だ。その最大の戦犯は橋下徹大阪市長だ。彼が太陽の党と合流したことにより投票率は劇的に下がった。第二の戦犯は未来の党の嘉田由紀子知事だろう。原発問題が政策にならないのは前に書いたとおり。同じ「出来もしないことを選挙で公言している輩」の仲間入りだ。
 今回の自民党圧勝は国民の民意の反映とは必ずしも言えない。小選挙区制の特性が294議席獲得の結果に結びついただけで比例区の得票率では前回の衆議院選挙と大差が無い。国民の民意が反映されにくい選挙制度の下で咲いたあだ花とも言えるだろう。
 ただ、結果として自民党に議席を置くようになった議員の内訳は前々回の自民党と大きく質が異なる結果となった。
 当選ラインのぎりぎりに居た若手の滑り込み当選がある。これらの議員は30代、40代の若手である。長老の多くが引退した世代交代が更に加速されたことになる。
 選挙前の自民党は118議席、これが294議席と倍以上に増えたことになる。その中で復活当選した議員70名の中で33名が二期目の当選議員だ。二期前と言うと小泉チルドレン世代である。初当選は119名。この内訳は39歳以下が38人、40代が44人で新人議員の69%が若手になる(以上、産経新聞調べ)。
 前々回の政権交代選挙では自民党は惨敗したのだが、この惨敗の中で生き残ったのは比例区での返り咲きを果たしたベテラン議員達。つまり守旧派で固まった118議席の自民党が残ったわけだ。

与党は保守、野党が革新の時代が去った
 民主党政権下、特に野田政権下で政治勢力図がおかしくなった。何処が保守党なのか解らなくなった。今回の選挙戦で各党の主張を聞いていると(除く、反原発の主張)憲法改正だ日銀改革だと改革派は自民党。対する民主党の野田総理は「古い自民党政権に戻るのは時計の針を逆にまわすようなもの」の主張。古い自民党は既に無いのだから野田佳彦元総理の発言は、風車に向かうドンキホーテのようなものだ。
 結果として国民は改革派の与党を選んだことになる。(まさに、結果としてであるが)
 これからの自民党は新旧、守旧派と改革派のせめぎ合いを内蔵することになる。小泉政権時代の再来だ。ただし、人間には学習能力があるので決定的な対立構造にはならないだろう。国民の望む緩やかな改革が始動する。公共事業も緩やかに回復するだろう。無駄な公共事業を「国土強靱化計画」のかけ声で復活させる機運は谷垣総裁時代ならあり得るが、はたしてあ安倍晋三総理がそれを継承するだろうか。また、守旧派の利権に革新派の新人達がメスを入れられるだろうか。これが、まさに新生自民党のリトマス試験紙だ。
 経済諮問会議の復活はまさに小泉路線の継承だ。そもそも、政治空白は小泉純一郎総理引退の時に始まっている。必ずしも小泉純一郎総理の決断が良かったとは言わないが、少なくとも閉塞感よりも躍動感を国民は政治に期待している。
 格差拡大はとりも直さず社会構造の変革であり社会の躍動感である。その後継者である安倍晋三総理は「再チャレンジ推進会議」なるものを立ち上げたが政権放棄とともに霧散してしまう。だが、自ら実戦して自民党総裁にはい上がってきた。安倍晋三氏そのものが「再チャレンジ」なのだ。そこには守旧派の様相は無い。自民党、与党、革新派のイメージを大切にすべきだろう。

本当の戦いは半年後の参議院選挙
 6年前の参議院選挙は政権交代に向けた大きな試金石だった。ここで大敗した自民党はいわゆる「ねじれ政局」で1年交代で代表が替わり、最後の麻生太郎政権で逆転を許し政権交代に繋がった。
 この試金石選挙での当選を果たした議員達が改選時期を迎えるのが来年(2013年)の参議院選挙だ。表面的に294議席を獲得して大勝したように見える自民党だが、先に述べたように比例区の得票率は伸びていない。今回は投票率が低かったので大勝を演出出来たが世論の実態はまだかなり低い位置にある。
 安倍晋三総理は安全運転で参議院選挙に向かうと言われているが、安全運転では参議院選挙には勝てない。勝てなければ憲法改正は絵に描いた餅になる。
 今回の選挙で原発が争点に成り得なかったのは、国民は「原発再稼働もしょうがない」と、もしくは「放射性廃棄物処理の無作為への責任」を政治家が担う気概を感じないからだ。大きな政治課題の解決策を提示した政党は無かった。
 参議院選挙は7月頃に想定される。この時点で原発は再稼働してるのかどうか。微妙な時期である。大飯原発も定期点検の時期を迎える。選挙直前で原発の再稼働を決めて反発を受けるのが良いのか、選挙後まで先延ばしするのが良いのか。
 自民党が参議院選挙で勝利するためには経済問題と原発問題の2大柱をしっかりと受け止め。半年かけての国民への説明と説得を果たす責任政党への努力に掛かっている。経済問題は統計に表れるが、経済が復興したのがインフレが進んだのかは微妙に解釈が分かれる。しかし、原発問題は動いているかいないのか明確な結論を得られる。
 今回の選挙で当選した議員の特性から自民党が守旧派から改革派に生まれ変われる素養はある。要は舵の取り方だ。その評価は「近いうち」より早い来年の7月に来る。


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2012.12.20 Mint