アメリカを「当事者」にした北朝鮮
アメリカにとって誤算だったのは北朝鮮に「標的はアメリカ」と表明されたことだろう。
まず、1)北朝鮮のスタンス(関り)に着目したい。
北朝鮮は金正恩による独裁国家なのだが、そこには国家の政府として「国民を食わせる」って思想が無い。そもそも国家とは何かを紐解くと、基本は律令制度にあり、国民の生命と財産の安全確保である。その為に国外に対しては「国家安全保障」なのだろう。国家を成り立たせるために、日本書記が編纂された意味は日本が国家として独立してると宣言したいからだ。。国家が独立に際して「憲法」を制定するように、日本では現存する資料としては日本書記なのだろう。
6か国協議で影響力を持っているのはアメリカなのは事実なので、そのアメリカに「核ロケット撃てますけど」って事はアメリカの介入を招き「今まで我慢してましたけど、言わせてもらうぜ」って感じだ。何故、あえてアメリカに喧嘩を売るかと言えば国内体制の確立に外部に敵を設けて対抗意識を構築するためだ。だから、逆にアメリカから「好きにしたら」と言われるのが一番怖い。律令制度も無い独裁国家にとって「外的」こそが国家統一の「錦の御旗」なのだろう。
2)中国はどうか。
6か国協議には監視役として名を連ねているのだから、自ら動くことは無かった。習近平外交のボタンの掛け違えは米中首脳会談にあった。アメリカ流のビジネス感覚に共産主義独裁政権のトップ(ビジネス経験がゼロ)が度肝を抜かれたのだから。お前に任せた、頼むぞ!」って感覚は共産主義体制には無い。だから一方的に押しまくられた。「北朝鮮問題はお前に任せる。アメリカの意向はこうだから、対応してくれ」なんてお土産をもらって、加えてシリア爆撃なんてビジネススタイルも見せつけられた。国際的に中国の役割分担を強要された訳だが、正直言って国内体制の階段を登るだけの能力しかない習近平に突き付けられた課題を履行する能力は無い。
世界から「外交下手」の烙印を押されないために頑張ったが、ここはアメリカの外交の勝利で「習近平は何も出来ない奴」って烙印を押されて外交の舞台から一歩後退だ。唯一、汚名挽回には北朝鮮侵略で金正恩体制の崩壊と中国主導の北朝鮮体制構築だが、習近平にはその力は無い。アメリカの「まずは、中国を蚊帳の外に」って深慮遠謀にはめられた状況だ。
3)韓国はどうか。
実は一番選択肢の多いのが韓国だ。状況がどう進展しようと対応可能な選択肢が沢山ある。外交にとって選択肢が多いときは自らが動くのではなくて状況判断に力を注げばよい。但し、大統領不在の状況で起きた事案で国家として機能していない弱さは好都合だっただろう。アメリカから「何かやれ!」って命題を突き付けられることも無いし、ある意味で「蚊帳の外」だが、その意味で外交的に安泰であったのだから。
日本がアメリカの核の傘下で安全保障したように、韓国には「アメリカの核の傘下」、「中国の核の傘下(朴槿恵大統領が模索していた)」、「北朝鮮の核の傘下」と選択肢は多いのだから「様子見」ってのが一番の得策と考えるだろう。
4)ロシアはどうか。
ウクライナではしたたかな外交を行ったプーチン大統領にとって、北朝鮮は国益から見ると大した存在では無い。その意味で中国以上に6か国協議には無関心だったが、ここにきて中国の習近平体制が脆弱な外交力を見せるとプーチン大統領の血が騒ぐ。ウクライナ情勢から経済制裁を受けている身としては、体外的に諸外国との貿易の風穴を開けたいのだが北朝鮮はレアメタルを中心に資源国である。この資源をロシア経由で外交の取引ネタに利用することが出来ればロシアの国益にかなう。
もうひとつ、北朝鮮の労働力である。ウクライナでロシアが行ったのはロシア経済による地域の囲い込みであった。同じ手法で北朝鮮の労働力を囲い込めれば北朝鮮の政権がどう転ぼうがロシア支配の「地域」を構築できる。そために人心を経済力で味方につけるってのは共産主義国家であったロシアにイノベーションを起こしたゴルバチョフ以来のロシアの計画経済から市場経済への流れの継承である。
あわゆくば、どころでは無い。北朝鮮はロシアにとって第二のウクライナであり、そのための戦略は着々と進めている。
5)アメリカはどうか。
経済評論家の肩書と実質的に「その方面のオジキ」と呼ばれている須田慎一郎氏が最初に大統領選挙に名乗りを上げたトランプ氏に会った時に最初に「お前の国の習近平だけどなぁ」と切り出された経験を話の枕にすることがある。アメリカにとってヨーロッパや中近東と比べてアジアは関心の外の象徴な話である。
オバマ政権の最後に「どうも最近、オバマ大統領は韓国と北朝鮮が違うことが解ったようだ」なんて話が漏れてきていた。結局、アメリカ政府にとってアジアは51番目の州である日本にお任せで独自の外交は疎かにしていた。そのために大量の中国製品に国内経済が席巻されるのだが、その現実に気が付くのが遅れた。
北朝鮮問題もトランプ大統領が騒ぎ出す(外交プロバガンダの側面から)までは関心の外であった。どちらかと言うと「めんどくさい!」くらいの位置づけである。
で、「めんどくさい」ことは誰かに委ねる(責任転嫁する)のもビジネスの基本方針である(笑い)。そのため、習近平氏に委ねたのだが、これは失敗に終わりそうだ。前にも書いたのだがアメリカの世界戦略は「
トランプ外交は「4ブロック+1」方式」なので、今回の新事業部は失敗に終わったようだ。
だとすると「めんどくさい」アジアに手を出すかと言うと、実はアメリカの中でアジアは「誰かに任せる戦略」の地勢的場所でしかない。その戦略が戦後の日本の経済成長を生み、その後の中国の経済成長を生んだのだが、アメリカは事前に政策対応を行っていない。放任と言えば語弊があるが、無関心だったのだ。
その無関心な地域で北朝鮮に「アメリカに核ミサイルを撃つどぉ!」と言われても「めんどくさい」話だ。
とるに足らない勢力がボコボコいされた後に「今日は、このくらいにしたらぁ」って言っている程にアメリカ外交には「めんどくさい」存在だ。
唯一、利用価値があるとすれば、外交の天秤に乗せて各国の腹の探り合いと国益のバランスを考慮するだけだろう。
防御か攻めか、それとも両方か
6)日本の場合はどうか。
最後に持ってきたのは6か国協議って「会議は踊る」状態にあるのに日本は主導権を握ろうと思わなかったのだから各国からは「蚊帳の外」扱いを受けているってことだ。本来、日本マターな北朝鮮問題を各国の利害を調整して軟着陸させようとしたのが6ヶ国協議の場だったのだが、日本に当事者意識が欠如しているので各国は本気にならなかった。本気になると他国との対立を生むので積極的な発言は控えていたのが実情だろう。
その意味でアメリカにトランプ政権が誕生したのは日本の外交にとって「追い風」なのだが、その追い風を生かせずに船の帆を下ろしたままだ。
日本の外交か考えると対北朝鮮に関する「国益」は参加国の中で最低で貿易額は微々たるものだ、人の交流も現在は制限されている。しかし設置された6か国協議で日本の役割は大きいのだが国際的に日本の行動を支持する意見は少ない。そもそも日本が6ヶ国協議で演じるべき役割が稀有なのが見透かされているのだろう。
アメリカは北朝鮮問題に関して中国にバトンを渡した。
何故、日本ではなかったのかは外交がプロバガンダに起因してるから明白だろう。アメリカは自らの6ヶ国協議の不作為を日本に押し付ける。だが、日本は当時のオバマ政権の意向を「忖度」して何もしなかった。外務省は「友好の熟成」を使命とする明治の鹿鳴館外交のままの機関って伝統を担うので組織的な外交戦略が無くなって久しい。
今のタイミングが日本は決断の時だと思う。
3大大国はGDPによらずに軍事力によって判断されるのでアメリカ、ロシア、中国の3ヶ国である。この3ヶ国の関係は「2ヶ国が組めば一番になれる」ってパワーバランスで成り立っている。つまり、アメリカと中国が組めばロシア包囲網が形成できるし、アメリカとロシアが組めば中国包囲網ができる。
ところが北朝鮮問題に関しては日本が積極的に大岡裁定のように「三方一両損」に持っていくことができる。北朝鮮利権に手を出す中国とロシアに「損」をさせ、危機を煽って武器輸出を行うアメリカにも「損」をさせることだ。
具体的には最も早く日本の総理大臣が北朝鮮の金正恩氏と会談を持つことだ。それによって北朝鮮を説得するには日本を通さないと出来ないって状況を作ることだ。特に中国の習近平氏が実は「何も出来ない奴」と知れ渡った今こそ、次の展開としてステージは用意されている。あとは出演するかどうかの「外交的」判断がトップダウンで必要なのだ。